ナノボットを統べるあやかし忍者とシルルRPG──戦国──

雪輪碧─ゆきわ あおい

第一部

第一章 孤独と戸惑い

第1話 命の選別と逆淘汰

 あたしにとってもっとも大切なあの子が殺された。

 もう一人の友達の死体は見つかっていない。だから、抜け忍として認定された。

 残されたあたしは、犯人に祭り上げられて、伊賀の里の端に隔離された。

 おしゃべりが苦手なあたしに初めてできた友達だった。

 あの子が中心となって、友達が少しずつ増えていった。

 仕事の回数を重ねるたびに信頼関係も、深まっていったと思う。

 元服してから三回目の任務。あたしたちは、依頼主である大名に『十一人の隠忍いんにんの使い手』と言われた。努力し続けてきたことが評価されたので、とっても嬉しかった。

 あたしとあの子を含む六人の忍びは、毎日一緒に剣の稽古をする仲良しだった。

 けど、五回目の任務のとき、突然の悲劇が、あたしから友達を奪いさった。

 頭が真っ白で、あのときのことはあまり覚えていない。



 一五四〇年、忍びの国──伊賀。およそ三百人のあやかしが暮らしている。そのうちおよそ二百五十人のあやかしが、戦争するために鍛え抜かれた、忍びと呼ばれる特殊部隊だ。

 忍びは敵国に潜入して諜報活動を行ったり、扇動したりすることを生業とする。また、城や敵陣に潜入して破壊工作や暗殺も行った。傭兵として戦うこともある。

 あやかしは狐、狼、狸、猫、兎、犬、鼠など、いわゆる獣人の見た目をしている。実際、視覚や聴覚、臭覚などの五感が人よりも数段優れていた。

「もっとも怪しいのは、野村孫太夫のむらまごだゆう、お主じゃよ……」

「……」

「黙っていないで吐いてしまえ! 剣術で勝てぬからと小猿を殺すため、岩を落としたのであろう?」

「……」

「沈黙は肯定とみなす。それでも黙り続けるか?」

 伊賀でもっとも発言力の高い百地三太夫の言葉。先日の任務で、孫太夫の親友、あの子が亡くなり、小猿もいくなった。二人は攪乱を目的に、少数の敵陣に忍び込んでいたのだ。その犯人として孫太夫が疑われている。

「……」

「孫太夫に決まっている! ちょっと剣が強いだけ。人を殺せぬ羅刹しか使えねぇ! だからだろ⁉ 唯一、剣の道しか残されていないおまえが、その剣の腕ですら小猿に負けていることを許せなかった。虫が鳴くようなか細い声しか出せねぇくせに恐ろしい。こんな弱弱しい女が忍びとは気に入らねぇ!」

「太郎左衛門、左四郎、弥生、四葩、六、小太郎、太郎四郎、そして木猿。お主たちもそれでいいな?」

 あやかしの中でも劣等種と認識されるものは、なにかと理由をつけて排除の対象とされていた。

 犯罪者、虐待者、障がい者、病人、脳筋、無職、仕事ができない無能、肥満、不細工など。よく知りもしない他者を、わかりやすいところだけ比較して、自分よりも『劣った者』と見下す。

 気持ちにゆとりのないものが『他者より強く、先へ、上へ、優位に立ちたい』と考えた場合には、マイノリティと呼ばれる少数派を攻撃する。ミックスレース、巨乳、チビ、アニメ声など。わかりやすい違いを見つけて『虐め』という名の『排除』を行う。

 人間も左螺旋も自然の一部なれば、自然淘汰的に『劣った者』が犠牲になり、絶滅するしかないのであろうか。

 戦国乱世を生き抜く同じ伊賀の仲間。その実態は、まるで光と闇が斑模様まだらもようをつくりだすかのようにして、混じり合うことのできない優生思想を、じくじくと継承しているのだ。

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