第10話 一方通行
花火が終えて人が引いて行く。私はずっと座り込んだまま動けそうになかった。
金髪の、チャラい人が声をかけてきても無視を決め込む。そうするとあまり顔の良くない私をすぐに諦めてくれた。それを続けること五回。
周りは私を哀れんだ目で見る。可愛く着込んだ浴衣に合っていない化粧の崩れた顔。幸せなこの空間には、不釣り合いだ。
「美琴! 探してたんだよ⁉」
「芽久」
「知り合いの子は? 友達に会えた?」
「……少し、前にね。人も多いしこのまま合流しないまま帰ろうと思ってた。ごめんね」
心配そうな芽久の後ろには三人に、出店を仕舞い終えたのであろう松木先輩もいた。
迷惑、かけてる。すぐにそう頭は判断したのに行動に移すことができなかった。
「美琴泣いた? メイクが」
「暑くて崩れちゃった。大丈夫だよ。私ここで人と待ち合わせしてるから先に帰って?」
「でも……」
「いいじゃねぇか。芽久そっちのけで別の奴といるそいつなんか放っておいたら」
「ちょ、桜木!」
「……先輩の、言う通りですよ。芽久お祭り一緒に回れなくてごめんね」
桜木先輩の言葉で頭が真っ白になった。でもそのおかげで立ち上がれてすぐに立ち去ることができた。私って、本当にバカだよね。放っておけって言われたからそうなるように行動に移せた。
嘘ばっかり吐けるようになった。二年前からずっと、嘘ばっか。
「美琴!」
追いかけて来た美琴が私の意思を全て壊す。
「雄介先輩この前から酷いこと言ってる。傷ついたよね……謝らせるから! ね?」
違う。
「……不安だよね。でも私彼氏いるから! そんなに気に病まないで?」
違う。
「先輩たちみんな心配してた! 戻ろ?」
「違うよ!」
「みこ、と?」
「桜木先輩が話すのは、桜木先輩が大事にしてる子は芽久だけなの! 私はその隙間になんて入れないし今更そんなことで傷つかないよ。でもね、それでも本人に言われるとしんどいの」
話せることが嬉しい。目を見て貰えて、視界に入れて貰えてうれしかった。
でもその分心への負担が大きかった。どれだけ景くんがいても、楽しい気持ちになってもそれだけはこびりついて消えなかった。
芽久はずっと先輩に見て貰える。先輩から気持ちを貰える。それがどれだけのことか分かっていない。それがどれだけ、私にとって傷になるか分かってない。
「芽久はいいよね。先輩のこと名前で呼べて、先輩から気持ちを向けられるんだから」
「……」
「ごめん、ほんとはこんなこと言いたくなかった。言うつもり、なかった」
芽久の頬に涙が伝う。それだけでも神秘的に見えて、ただ一方的な嫉妬を芽久に向けている私とは違う。純粋で、ただ友達を思っているだけの子。
そんな子を私は傷つけた。自分が沢山傷ついて、分かっているはずなのに。
「芽久!」
「雄介、先輩……」
「お前、芽久に何言ったんだよ⁉ なんで泣いてんだ!」
ああ、彼氏じゃない人がそう言うんですね。彼氏が一番に追いかけてこないんですね。
私の好きな人は、芽久のことが誰よりも大事なんですね。そうですよね。
苦しい。しんどい。もう、やめたい。
「答えろよ!」
「ちょ、美琴は何も悪くないよ! 話聞いて⁉」
私が男だったら胸ぐら掴まれてただろうな。そんな緊迫感。
「わたしが、私が全部悪いです。ごめんなさい」
「謝るだけじゃ気が済まない。縁切れよ」
「雄介! そこまで!」
あとから三人が追いかけてくる。水城先輩が泣きそうな顔をしているのが見えた。
こんなこと、前にもあったななんて呆然と思うのはあの時よりも辛いからだろうか。小田先輩耳に携帯を当ててどこかに電話している。それすらも他人事に思えて。
ああ。本当にもう、全部がどうでもよくなりそう。
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