第12話、セピアの約束、モブだって一度言ってみたかったこと





「わあああぁぁっ! ……って、あれ?」


気がつくと、見覚えがあるようなないような……そんなどこかの寝室だった。

ひょっとして今までのことは夢だったのでは? とも思ったが、その期待はすぐに裏切られる。

 


「おーい、失礼するで~」

 

あまり返事を期待していなかった風の、ノック音とそんなセリフ。

 

「ん? 何や、起きとったんかいな。起き上がれるっちゅうことは大丈夫のようやな」


入ってきたのは同じ学年の同じクラス(ちなみに【風(ヴァーレスト)】組)の代表、クラス委員長である、ホシナ・フレンツだった。

独特の西方……サントスール訛りで話し、眼鏡の似合う生真面目なタイプの少女である。


ちなみに、あの事件性の高い爆発が起こった時。

一般教養の授業の時にいた一人でもあって。

情報がなかった分、元気そうな彼女を見て安堵感に包まれまた眠ってしまいそうになったのはご愛嬌である。


 

「ええと。僕、いったい?」

「その感じじゃ、何が起こったのかよう分かっとらんみたいやな。マーサー君な、あのものごっそい爆発魔法で行方不明になってん。先生方や私たちで今の今まで何とか機会見つけて探しとったんやけど全然見つからんくてなぁ。どうもしょうもなくなってたら、何故だか今おる宿直室の外で倒れとったんや。それにしたってたまたま私が見つけたから良かったものの、そうじゃなきゃ今頃魔物たちの腹の中やったかもなぁ」

「あ、そうだったんだ。ありがとう。助かったよ」


マーサーは感謝の気持ちを込めて頭を下げる。

 

「いや、そんな当然のことや。たまたま外の見回りしてて見つけたんやけど、ここまで運んだのもセンセ方やし」


ホシナはぱたぱたと手を振ってそんなマーサーを制する。

 

「それにしても、なんであんなとこで倒れとったん? びっくりしたで」

「うん、ガイアットドラゴンに追っかけられててさ、渡り廊下が無くなっているのに気づかなくて、足を踏み外して落っこちたんだけど。っていうか、なんであんなところにガイアットドラゴンがたむろしてたんだろう?」

「ええっ、知らんのかいな? いや、ずっと気い失ってたんなら仕方ないのか」


驚いた顔をしてホシナはそう言い、マーサーに学校に何が起こったのかを説明してくれた。

ホシナの委員長らしい説明によると。

今から三日前(つまりマーサーは三日間もの間、気絶していたのだ)、ユーミール大陸の方から大量の魔物、魔精霊がやってきて学校を襲ったのだという。


その魔物たちの目的はまだはっきりと分かっていないらしいのだが。

その第一陣が襲いかかったのが、運悪くもマーサーたちが授業を受けていた棟だったらしい。


まるで狙ったかのようにその棟だけが崩れ瓦礫と化したが。

迅速な先生たちの対応と、こういった緊急の時のための対魔物用結界、

通称『破邪シェルター』のせいなのか、行方不明者だったマーサー以外けが人が数名出たくらいで、今のところ何とか持ちこたえ、何とかなっているらしい。

 


「とはいっても、スクールはあまりに広すぎるからなぁ。全てを見て回ったわけでもないし、実際のところどれだけの被害なのかは見当もつかへんわ。移動しようにも『虹泉(トラベル・ゲート)』は使われへんし」

「あ、うん。そうみたいだね。僕も使おうとしたけど駄目だったよ。それにしてもその『破邪シェルター』? そんな便利なものがあったんだねぇ」


今、ユーライジアスクールで起きている事に因る被害のことも気になるけれど。

事実広きに過ぎて見に行くわけにもいかず、皆の無事を祈りつつもマーサーは改めて気になることを聞いてみた。

 


「何でも、『破魔の護符』のアイテムをぎょうさん集めることによって生徒会長さんが開発した新作の魔道具らしいな。かなーり強力やってハナシや」

「ああ、そのこと? そういえばタカがこの前結界を生み出す魔道具がどうこうって言ってたよ。さすがだなぁ」

「そっか、マーサー君は生徒会長と幼馴染やったっけ。まあ確かに会長はすごいから、今回の出来事も会長がいればすぐ解決するんとちゃうかな」


ホシナのその言葉に。

確かにそれはありそうだと、しみじみマーサーが頷いていると。

再びノックの音がした。

マーサーが起きたことに気づいたのか、ホシナが戻ってこなかったからなのか、誰かが来たらしい。



「し、失礼します」


やや気弱そうな声で現れたのは、一人の少年だった。

その名は、カズキ・ヴァーレスト。

ヒロの『レスト族』としての別人格の一人で、マーサーの弟である。


属性転換(レスト族の人格が変わる現象)はそれほど頻繁に起きるようなことではなかったから。

久しぶりの顔を見る気がしなくもないカズキの顔を見ただけでマーサーは三日間という長さを実感してしまった。


カズキは中性的で整った顔立ちをしており、色素が薄いのか肌は白く、髪も瞳も薄い茶色。

大人しめの性格だけれど、優しさがにじみ出ていて。

周りを和ませるような雰囲気を発しているような少年だ。

 


「お、カズキじゃない。無事だったんだね。良かったー。……ん、でもなんか元気ないみたいだけどどうかした?」


そんなカズキのいつもとは少し様子の違った態度にマーサーは気づき、安堵の息を吐きつつも姿を見るなりそう言った。

兄の早速な気遣いのセリフに、カズキは少しだけ顔をほころばせて。



「あ、マーサー兄起きたんだね。良かったぁ。これから『保健室』か『職員室』に行くんでしょう? ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」

「え? なになに? どういうこと?」

 

『保健室』や『職員室』は後から思い起こせばこういった緊急事態が起こった時の避難場所、対策室となる場所で。

先ほど名の上がった生徒会長さま達が顔を突き合わせ状況の打開のために話し合っているはずで。


そのような場所に、モブなお兄ちゃんが一体全体何の理由があって向かうことになっているのかと。

思わず首を傾げるマーサーに答えてくれたのは、やっぱりホシナであった。

 


    (第13話につづく)






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