ユーライジア・ステューデンツ~アイの怪人は三千世界にクラスメイトを自慢したい~
陽夏忠勝
第1話、Starting Overと、お前のようなモブがいるかと言われても
はじめは、物心付いたばかりの頃の、日がな考えていた夢だった。
幼き時分の憧れ、逃避にも似た妄想であったからこそ、少年漫画の如き熱さばかりで。
今となっては物語を色どり中心となって舞い踊るきみは、そこにはいなくて。
年を重ねていく度に、世界を潤し活かすであろうきみの存在を欲していたのは確かで。
いつからだろう。
そんなきみの存在を歪めてまで側にいて欲しいと思うようになったのは。
夢の中で一緒になって冒険して泥だらけになって転げまわったり。
おっかなくて勝てそうもないモンスターとかに無謀にも頭ひねって手を携え向かっていったり。
そんな最中、紆余曲折あって危機に瀕していた世界を救ったりなんかして。
生涯の友だちにして、有り難き相棒。
それだけで、よかったのに。
それ以上を望むようになってしまったのは、きみがあまりにも……心も身体もきれいだったから、なんて独りよがりないいわけをして。
恥ずかしさと申し訳なさと自分に自信が持てなくて。
その相貌を覆い隠す仮面を被り、道化を演じる。
弱い、情けない振りをして、『しょうがない奴だなぁ』なんて思われたくて。
押してばかりもあれだから、時には引いて、雲隠れしてみたり。
歪めてしまった責任を取って、背負う使命を肩代わりせんと『変わって』みたり。
傍から見ればそれは、世界の理から外れた、どうしようもないくらいの怪しき人。
それでも、歌おう。
きみのための、愛の歌を。
たとえ、道化のごとき救いのないめでたしめでたしが待っていたとしても。
きみが幸せに終われるのならばそれで良いと言いたい。
そんな、あまりにも愚かな愛に生きる怪人。
これは、この夢の如き物語は。
そんな怪人が、主役のようでいてそうでない、あるいは物語の読み手にもなりうるもので。
今、そのいつ終わるかも分からぬほどに分厚い本、その始まりの一ページが開かれる。
正しく、神の視点で俯瞰して見えるは。
12の根源にて護り創られし幻想の世界。
『ユーライジア』、と呼ばれる世界にて。
もっとも大きな、数多の生あるものが棲まう地に。
世界と大陸と、同じ名を持つ、『ユーライジアスクール』などと呼ばれる、剣と魔法と冒険のための学園があった。
一般教養からあらゆる武器を駆使した戦闘術、実践的な魔法まで、まさに何でもありの学園。
そのお膝元……広大な学園の敷地にかこまれるようにして存在する、いわゆる下町。
スクール下町とも呼ばれる場所。
その一角にそれなりに大きな一軒の家があった。
『風(ヴァーレスト)』の表札を掲げるその家には、世にも珍しくも、魂が入れ代わるという、『レスト族』のきょうだいが暮らしていて。
町の中でもそれなりに大きな家の一室。
そこに、この物語の主役……語り部となる一人の少年が、朝方の心地よい惰眠をむさぼっていた。
少年の名はマーサー・ヴァーレスト。
年のころは15、6。
今年でユーライジアスクール高等部(ハイクラス)の一年になる。
これといって特徴のない、有象無象に埋もれがちな影の薄い顔立ちをしてはいるが。
この世界では比較的珍しい、いつも何か面白いものがあるんじゃないかと探しているような大きな黒い瞳と、黒い髪をもっている。
それだけなら『闇(エクゼリオ)』の属性……愛されしものに多くある特徴であったが。
珍しいとされるのは、そんなマーサーが『闇(エクゼリオ)』の属性には、一見するとまったくもって才能を見いだせなかったからで。
その代わりに、世界を構成するその根源の一子として愛されているかどうかはともかくとして。
マーサーが得意とする属性は、その苗字にあるように【風(ヴァーレスト)】であった。
その中に含まれる派生属性、マーサーはとりわけ【音(サウンド)】系魔法を得意としていて。
少年にしてはいささか高い、どこまでも透き通るような声色だけが彼にとっての密かに誇れるものではあって。
下に『二組』いるきょうだいのように、レスト族の長男として生まれておきながら今のところその種族の特性の発現の気配すらなかったが。
彼と同年代、同い年の生徒たち、友達には。
遠くない未来、このユーライジアの世界に名を轟かし歴史をつくる英雄、『ステューデンツ』に成れるであろう『凄い』面子が多くいたから。
その魔法で……歌で応援を。
こっそり支援して少しでも役に立てれば、なんて思っていた。
けっして、みんなの中心になって動くようなタイプではなかったけれど。
いずれは吟遊詩人のような職について、そんなみんなの活躍をお話にしていきたい。
だからみんなと仲良く、楽しく、明るくをモットーに。
マーサーは今日も今日とて、何事か起こりそうで起こりえない学園(スクール)での日々を過ごしていくはずだったのだが……。
(第2話につづく)
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