学校の怪談~トイレの花子さんについての考察~

黒河 かな

第1話 「トイレの花子さん」


 「ねぇ、トイレの花子さんって知ってる?」

 そんなことを、いきなりさきちゃんが聞いてきた。僕が首を振ると「さきね、聞いちゃったんだ」と楽しそうにそう言って、周りをチラリと見る。

 「何言ってんの?」

 僕が戸惑いながら訊き返すと、さきちゃんはふふっ、と笑って自分の席に戻っていってしまったんだ。

 もうじき授業が始まる。僕にとっても退屈な授業。

 小学校も5年目になると、勉強よりも周りが気になってなかなか集中できない。

 さっきみたいに、ほんの少しでも気になる話を振られちゃったら、もうそれだけで気になって授業に集中できなくなっちゃうんだ。それをさきちゃんは分かっていて、そんな話を僕にしたんだろう。


 「トイレの花子さん」

というのは、あちこちの学校で語られる、いわば「伝説」のようなものだって、誰かが言っていたような記憶がある。「学校の怪談」とかっていって、確か7つあって全部知っちゃったら呪われるとかそうじゃないとか、昔から言われてたらしい。

 それはそれとして、何で「トイレの花子さん」なんだろう?

 それだけが有名だから、さきちゃんは僕に話しかけて来たのかな?

 それとも、何か理由があってそんなことを聞いたのか。


 授業が終わったら聞かなきゃ、と思いながらも、なかなかさきちゃんと話すチャンスがなくて、結局は掃除をして帰りの会をして、話せないまま帰ることになってしまった。さきちゃんと僕の家は反対方向なのだから、帰りに話しながらというのも無理な話だったのだ。


 がっくりと肩を落としながら家に帰って、明日は聞こうと決心したのに。


 翌日、学校に行った僕を待っていたのは、さきちゃんが行方不明になった――、という担任の、苦い顔と報告で――。

 

 そして、この「トイレの花子さん」がきっかけで、僕達は『学校の怪談』というものに巻き込まれることになるとは、まだ誰も知らなかったのだった――。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る