【KAC2024中のとある『かふぇ』にて】
「あの先輩、聞きづらいんですけどいいっスか?」
「どうした?」
俺と新人は最近毎日のように通うようになってしまった『猫かふぇ』に今日も来ている。
「この前緊急招集があったじゃないっスか」
「そうだったな」
「俺たちいつまで待機してたらいいんですかね。俺もうひとつの『かふぇ』の方に顔を出したいんっスけど。先輩があそこからは緊急出動には間に合わないっていうから……」
「ああ……。俺も『萌え萌えきゅーん』が……。いや、俺たちは組織の人間だ。上の命令にはすぐに対応できるようにしておかなければならない。役立たず認定されてみろ、組織の秘密を守るために消されかねないぞ!」
「ま、マジっスか? 俺入るときにそんな話し聞いてないっスよ!」
「いや、例えばの話だ……」
俺は膝の上にちょこんと乗るスコティッシュフォールドちゃんを撫でながらそう言う。
「でも、この作戦【KAC2024】ってあと残り2回らしいじゃないですか……。もう俺たちに出番なんてないんじゃ……」
たしかに新人の言う通りではある。第5回の作戦では、俺たちを恐怖のどん底に陥れた『謎の神父』がかっさらっていき、第6回にいたっては『卯月』自ら指揮をとったらしい。上層部が混乱していることは俺も知っている。
「でも、噂じゃ例の神父、竜王だかハチカンだかに倒されたって聞いたんですけど。どうなってるんっス?」
「ああ、俺もそれは不思議に思っていた。それもあって俺たちはここで待機しているんだがな。この『かふぇ』は神父の息がかかっているって話だ」
奥のカウンターで皿を拭いている狼系の獣人が一瞬こちらを見たような気がした。
「うーん、そこは気にしないことなの。あの神父は静観することに上は決めたのにゃ」
「げっ!?」
いつの間にか俺の膝には黒ネコ、いや直属の上司のアンナ様が乗っておられた。
「ちょっと撫で方が下手なの。わたちはもっと優しくして貰うのが好きなの、にゃ」
「も、申し訳ございません!」
おいおい、勘弁してくれ。心臓が止まるかと思ったぞ。深呼吸してから、俺はおそるおそるにアンナ様の美しい毛並に触れる。
「えっと、それはどういうことで……」
「すべては『卯月』の指示なの。あの方も相当追い詰められていたようなのにゃ」
「あの糞野郎、じゃなかった。『卯月』様がですか?」
「そうなの。『ホワイトプリズン』長編課の連中が全員生死不明らしいのにゃ」
「へっ!? ま、まさか……。ミユウ様やアヤノ様といった役員クラスが」
「わたちも詳しいことは聞かされていないの。でも、この世界がわたちたちの気づかない間に『大災厄』に見舞われたことはたしかなのにゃ」
俺の手が止まる。一体何があったというのだ。アンナ様はつまらなそうな顔をして俺を見上げている。
「えっと、アンナ様。もしかして俺たちも死んでいたかもしれなかったっていうことっスか?」
「これ以上はわたちの口からは言えないの。でも『卯月』が言うには、たくさんの人たちの『優しさ』のお陰で最悪の事態は免れたようなのにゃ。『愛が世界を救った』らしいの。それと『ホワイトプリズン』は『……ナロウ』とかいう平行世界で存続してるから心配するなっていってたのにゃ。それの意味は全然わからないのにゃ」
上司の言葉は俺たち二人には理解できないものであったが、なぜか俺は胸の奥が温かくなるのを感じた。
「ちょっと、ちゃんと撫でるのにゃ!」
「す、すいません!」
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