SIDE 冒険者ギルド

 俺は、メイグウ市冒険者ギルドのギルドマスター、ガイレン・ダンパ。

 客人たちが退出し、受付に一階の騒動をおさめるように指示を出して、二階の執務室に戻ってきて、ようやく一息つけたところだ。

「相変わらず、ヴィアの姉御とジョイナの姉御は美しいな。当時からまったく変わってねぇ。しかし、あの御仁は一体何者なんだ?2人が主様と仰いでいたから間違いなくダンジョンの関係者だと思うが、俺の足りない頭じゃあの2人より上の存在なんて想像できねぇ。セイルのじいさんかマゼンタのばばあかバーニャさんが生きてたらわかったかもしれないが・・・。それに、御仁の横に座っていた方もそうだ。美しい少女のように見えたが、中身はとんでもねぇ気がする。今思い出しても寒気がするぜ。おっと!こうしちゃいられねぇ。頼まれた仕事はさっさとしとかねぇと。あとが怖いからな」

 ガイレンは筆を取ると、慣れない手つきで手紙を書き始めた。

 ヴィアに言われた通り、王都イルアの冒険者ギルド本部のグランドマスターに問い合わせるためだ。

 ここからイルアまでは早馬で2週間、普通の馬車で3週間程度だ。

 メイグウ市近辺は盗賊は出ないが、少し離れると盗賊に魔物にと対応しなくてはいけなくなる。

 ガイレンは同じ手紙を2通用意し、1通は早馬を頼み、もう1通は高ランクの冒険者を護衛につけた信用のある商人に託した。

 これで両方届かないということはないだろう。

 少なくとも1ヶ月程で返事が返ってくるはずだとガイレンは心の中で思っていた。

「一体何したらギルドカードが消えるんだ?魔力を送り過ぎてカードが耐えきれなくなった?いや、少女のように魔力を感じることはなかった。そういえば、収納魔法ってのは消えたように見えるらしいな。俺も見たことないが、まさか収納魔法なのか?いや、それならヴィアの姉御たちまで驚くことはないはずだ。まぁ俺には考えてもわからなそうだ。とりあえずグランドマスターの返事を待とう」

 ガイレンは一抹の不安を感じながら筆を置いた。

 その不安は的中し、1ヶ月経っても返事は返ってくることがなく、ガイレンは焦り始めるのだった。


 ここは、ガイレンが手紙を託してから2週間程経った冒険者ギルドの本部だ。

 メイグウ市のギルドマスター、ガイレンからの手紙を目に通しているのはグランドマスターのザムだ。

 ザムは、かつて本部のギルドマスターであったが、メイグウダンジョンが出現した当初に、冒険者をいち早く派遣したこともあり、その手腕を買われてグランドマスターとなった。

 なぜ彼が存命かというと、ザムは冒険者になろうとシルフィスを出てきたエルフであり、エルフ特有の長い耳は、昔、別の大陸のダンジョンで手に入れた魔道具で隠している。

 ガイレンの手紙を読み終わると、険しい顔をして執務机の近くにある本棚へと向かった。

「たしかこの辺に似たようなことを書いた文献があった気がするんだが・・・。おお。あったあった。これだ」

 ザムは一冊の分厚い本を手に取った。

 その本には『冒険者ギルドの歴史』と書いてある。

 ザムは別の大陸で活動していた時期もあり、当然別の大陸にも冒険者ギルドがあることを知ってるし、長く会ってないが知り合いもいる。

 生きてればの話しだが・・・。

 そしてこの本は、別の大陸から渡ってきた本で、今は失われた魔法の状態保存魔法がかかっており、二千年前から存在しているとも言われている。

 古代文字で書かれているため、すべては読めないが、そこは長生きしているエルフ、解読できる文字も数多く、ある程度の内容は読める。

 この本に記載されているのは、Sランク以上や歴史に名を残すことを成した者、魔物に竜、スタンピート、魔道具、冒険者ギルドの成り立ちなどだ。

 中でもザムが探しているのは

「えーっと。どこだったかな?ギルドカード関係だから、冒険者ギルドの成り立ちだと思うんだけど・・・」

 ザムはペラペラと文献をめくりながら探した。

「あれ?おかしいな。この辺だと思ったんだけど・・・。人物が載ってる方か?あった!これだ!」

 そこには、勇者が魔王討伐の旅に出る前に、冒険者登録をしたことが書いてあり、その時も勇者が魔力を流すと、カードが消えたと書いてある。

 原因は次のページに書いてあるようで、ザムはゴクッと喉を鳴らしページをめくると、こう書いてあった。

『勇者は神の手によって召喚された理外の存在である』と。

「えっ?これだけ?」

 ザムは困惑し、前後のページを読み返したが、いくら読み返しても、それ以上のことは書かれていなかった。

「仕方ない。他のを探してみるか。たしか・・・この大陸にも勇者の英雄譚や物語があったな」

 ザムは、勇者が書かれている英雄譚から物語を読み始めるといつまにか夢中になり、気づけば三日三晩読み漁っていた。

 そこに書かれていたのは眉唾なものばかりであった。

 国を滅ぼさんとする魔物を一人で倒しただの、50階層あるダンジョンを1日で攻略しただの、自分よりはるかに巨大な竜を従えていただの、どれも信じがたい話しだ。

 しかし、一冊の文献に書かれていた文に興味をもった。

「勇者は神の使徒と呼ばれていた。彼が魔道具に魔力を流すと度々壊れていた。か・・・。一考の価値はあるな。これを書いたのは・・・聖教国か。あそこの聖女は勇者の子孫と言われてたな。それに数多くの神器を持っているとも聞く。一度、聖教国に赴き調べてみるか?そのままメイグウ市のギルドに寄ればいいだろう」

 ザムは思い立つとすぐに行動した。

 まずは荷造りだ。

 といっても、かつてダンジョンで手に入れた収納袋に入れるだけで対して手間はかからない。

 次に、職員たちに指示・・・機嫌とりだ。

 グランドマスターともなれば、ほとんど顔みせのために出てきてるようなもので、重要な会議や国の緊急な案件に対応することぐらいしかない。

 要は暇をもて余しているのだ。

 今回は1ヶ月以上ギルドを離れることになるだろう。

 ザムは、ギルドマスターや職員に恨まれぬよう、甘味や果物を大量に買い込んで渡した。

 職員たちは、ザムのいつもの手口に苦笑いしながらも受け取ってくれた。

 ギルドマスターはブツブツ呟いていたが無視することにした。

 そして馬車を手配し、3週間と少しの旅を経てローラ聖教国の着き、すぐに宿を取った。

 今回は冒険者ギルドに用はないため、寄らないつもりだ。

 用がないというよりは、寄ってしまうと仕事をさせられる可能性があるので、絶対寄らないと心に決めていた。

 教皇との面会は叶わなかったものの、なんとか3日後に枢機卿と面会の約束が取れたザムは市場へと繰り出した。

 観光名所ということで人も多く、人波に任せながら歩いていると、不思議な物を売っている露店を見つけ足を止めた。

 そこには、赤い色の液体と青い色の液体が入った瓶が20瓶ずつ並べられており、どれも淡く輝いている。

 不思議に思ったザムが店主に訪ねると、驚くべき発言をした。

「なぁ店主。その赤は中級ポーションだろ?青の液体はなんだ?」

「ん?ああ。赤が中級ポーションで青がマナポーションだよ。どちらも紛れもなくメイグウ商会産だから安心してくれ」

「マ、マナポーションだと!?」

「はは。お客さん初めて見たのかい?メイグウ市では大分前から売ってたみたいだけど、こっちに出回るようになったのは最近なんだ」

「こ、効果は?」

「ポーションの方は、人にもよるが他のに比べると大体1.5倍ってとこかな。マナポーションは比べる物がないからわからんが、魔術師には好評って話しだ。メイグウ商会にはもっと効果がすごいのがあるって噂だぜ?」

「もしかしてダンジョンのドロップアイテムか?」

「さぁ?そこまでは俺にもわかんねーな。ただ向こうでは安定して売られているみたいだからな」

「向こうでは?こっちにはあまり入ってこないのか?」

「ほら。ここは聖教国だろ?あまり大量に売ると神官たちがな?」

「あ~なるほどな。ところで商品は全部購入しても大丈夫か?」

「悪いね。お客さん。1人3本ずつって決まってるんだ。これはメイグウ商会との契約でな。メイグウ商会は、1人でも多くの人に行き渡るようにって冒険者たちだけじゃなく、住人たちにも配慮してるんだ。ちなみにここに並んでる分で最後だ」

「そうなのか。それは素晴らしい考えだ。私もこのあとはメイグウ市に行く予定だから、メイグウ商会にも足を運んでみるとするよ」

「お買い上げで?」

「いや。今回は遠慮しておくよ。こっちではあまり出回ってないんだろう?向こうで買えるんなら、ここの人たちに買ってもらった方がいい」

「お客さんも素晴らしい考えの持ち主だな!」

「常備薬があるだけで救える命もあるからな。悪いね。邪魔したよ」

「おう!また寄ってくれ!お客さんみたいな考えの人なら大歓迎だ!」

 ザムは、人ゴミの中を歩きだし、先程の店主に教えてもらった屋台で串焼きを買い、頬張りながら考えこんだ。

 (昔は聖教国でマナポーションを作っていたはずだ。作られなくなってどれぐらい経ったか・・・。たしか精霊湖が関係していたか?それがメイグウ市で売られてるとなると、やはりダンジョンが関係しているのか?しかし毎回都合よくドロップするとも限らないだろう?メイグウ商会で作られてるとも思えないし、まさかダンジョンで作っているのか?それはあり得ないと思うが・・・。なんにせよ行ってみればわかるか)

 考えこんで歩いていたせいか、ザムはいつの間にか、来る予定のなかった見覚えある建物の前にいた。

 マナポーションの件が頭から離れなかったザムは、結局その建物、冒険者ギルドに立ち寄ることにした。

 受付に案内され、ギルドマスターの執務室の前にきたザムは、受付を下がらせ、自らノックした。

「・・・・・」

 しかし、中から返事は返ってこない。

 気配を感じることからどうやら居留守を決め込むつもりのようだ。

 ザムは少し考えてから声を出した。

「俺だ」

「誰だよっ!?」

「ザムだ」

「っ!?」

 ザムの作戦通り相手から返事が返ってきた。短いやりとりのあと、中からドタバタと慌ただしい音が聞こえ扉が開くと、50代程の赤髪、赤眼の1人の女性が現れた。

「グ、グランドマスター!?なぜ聖教国に!?言ってくれたら迎えに行ったのに!」

「おう。元気そうだな。なに、今回は観光と仕事を兼ねててな。ギルドに寄るつもりはなかったんだ」

「そうなのか。てっきり視察にでもきたのかと思って焦ったぜ」

「ん?見られて焦るようなことでもしてんのか?」

「それはない!まぁ気持ち的にってヤツだ」

「それでスカーレットは元気か?」

「・・・母さんは2年程前に死んだよ」

 ローラ聖教国冒険者ギルドのギルドマスターは、かつての聖騎士団副団長でヴィアの友人であるスカーレット・プリンの娘、ヴァーミリオン・プリンだ。

「そ、そうか。悪いことを聞いた」

「いや。いいんだ。母さんはずっと昔の友人のヴィア様という方のことを楽しそうに私に話してくれていてね。会いたいとは言わなかったけど心の中ではずっと会いたいと思っていたはずなんだ。それで亡くなる前に、ついに会いたいって呟いたんだ。すると突然部屋が輝いて、気づくと白銀の髪をした女性がいたんだ。私はその人が女神様かと思って驚いてると、母さんがヴィア様だと紹介してくれたんだ。ヴィア様に会えたおかげで、母さんは満足そうな顔で亡くなったよ。ヴィア様も笑顔で母さんを送ってくれたんだ・・・」

「ふむ。スカーレットの知り合いか・・・。そのヴィアってのは何者なんだ?冒険者ってのは聞いているんだがな」

 ヴァーミリオンは、ザムの探るような問いかけに目を細めた。

「ヴィア様が何者かは知らない。だが、冒険者ギルドがあの方と敵対するというのなら、ローラ聖教国冒険者ギルドはグランドマスターには手を貸さない」

 ヴァーミリオンの炎属性の魔力が揺らぎ始めた。

「ま、待て!早まるな!ミリ!俺はメイグウ市のギルドマスターから頼まれた事を調べに聖教国にきたんだ!」

「メイグウ市のギルドマスターに?」

 ヴァーミリオンの魔力がフッとおさまった。

「あ、ああ。この手紙を読んでくれ」

 ヴァーミリオンはザムから渡されたガイレンからの手紙を読んだ。

「ふーん。ギルドカードがねぇ。私にはわかんないね」

「俺もエルフだからな。昔の文献に思い当たって調べると、勇者も似たようなことになったらしくてな」

「あ~。それで聖教国にね。知ってるとしたら、枢機卿様か教皇様か聖女様かな」

「枢機卿とは約束がとれたとこだ。聖女は本当にいるのか?一度も会ったことないんだが」

「どうだろう?母さんが昔、話してくれた時は神殿の奥に住んでるって言ってたけど。私も会ったことないからわかんないね」

「そうか。しかし、ミリはそのヴィア殿にえらいねつのいれようだな」

「ああ。ここは帝国が隣にあるだろ?たまに小競り合いなんかが起きて怪我人が出てたんだ。それに、神官様の人数も魔力も限りがあるから、怪我を治せないヤツらが出てくるんだ。ヴィア様はそれを見て、商人を通してポーションを送ってくれたんだ。もちろんお金は払ってる。それも普通よりも安く。そのおかげで、今では小競り合いもなくなり、怪我人が出ることもなくなった。なにより、帝国の奴隷を全て解放したのはヴィア様って噂で、小競り合いするほどの力は帝国にはもう残ってないのさ」

「なるほど。それは冒険者ギルドのグランドマスターとしても礼を言わねばならんな。奴隷を全て解放?どうやったらそんなことできるんだ?戦争でも仕掛けたのか?」

「それが不思議な話しで、いつの間にか奴隷がいなくなってたんだ!それに、白銀の戦乙女の話しを知らないか?」

「ああ。セルアでシーサーペントを一撃で斬ったとかいう噂か?いくらなんでもあれは話しを盛り過ぎだろう?シーサーペントがどんだけあると思ってんだ?酒を飲む時に聞く分はいいだろうが・・・」

「いや。それが事実らしい。こっちの酒場にも吟遊詩人がきた。街の人も目撃してるらしいから噂でないことはたしかだ」

「なんだと!?Aランクのシーサーペントを一撃?Sランクの冒険者でもあり得んぞ?」

「そっ。だからヴィア様には私たちも助けられてるし、何者とか聞かれてもわからないわけ。ただ、ヴィア様が主様と仰ぐ人がいるなら、もしかしたら神様かもしれない」

「神か・・・」

「それともう一つ」

「なんだ?まだ何かあるのか?」

「ヴィア様はグランドマスターと同じエルフ」

「なにっ!?たしか白銀の髪だったな?ハイエルフかっ!」

「ハイエルフ?それに私がヴィア様と別れた時には、もう1人白銀の髪をしたエルフがいたけど」

「なんだと!?ハイエルフが2人!?」

 ザムは思わず立ち上がり、顎に手をやり考えこんだ。

 (たしかガイレンからの手紙には、ヴィア殿が主と仰ぐ真人殿、膨大な魔力を発したクリス殿、それとジョイナ殿と書いてあったな。ん?ジョイナ?どこかで聞いたことがある?)

「なぁ?ミリ。ジョイナ殿の名前はどこかで聞いたことないか?」

「そういえば聞いたことあるな。母さんが言ってた昔の魔術師ギルドのギルドマスターだったか?」

「っ!?守護者の翼のジョイナか!なぜジョイナが生きて・・・?」

 ザムはさらに考えこんだ。

 (いや。待てよ。ジョイナは緑っぽい髪に翡翠眼だったな。まさかエルフの血が流れてる?しかし、ミリはヴィア殿の他にもう1人、白銀の髪のエルフがいたと言ったな。ジョイナが緑髪だとすると、クリス殿がハイエルフの可能性もあるか?)

 ザムはいくら考えても想像の域を出ないことに気づくと

「よし」

「どうした?グランドマスター」

「いや、いくら考えてもわからんと思ってな。直接会うのが一番早いだろう。どちらにしろギルドカードの件を伝えねばならんしな」

「それもそうだな」

「俺はこのへんで。なにかあったら本部に連絡してくれ」

「ああ。まぁ本部は遠いからな。なにかあったとしてもとりあえずメイグウ市のギルドを頼るとするよ」

 ザムは立ち上がり、手を上げながら扉から出ていった。


 3日後、ローラ聖教国中央にある神殿を訪れたザムは、神殿の周りにある白いレンガで作られた建物へと神官に案内された。

 ちなみに、神殿は礼拝する場所しかなく、面会や会合などは神殿の左右に5棟ずつある建物で行われる。

 さらに神殿の奥には大神殿があり、ここに聖女が住んでるいると思われ、大神殿の周りにも5棟ずつ同じ建物があり、こちらは上位聖職者の住居となっているようだ。

 案内がノックをし、中から返事が返ってくると、ザムは入室した。

 入室すると、そこには白髪で白い法衣を着た老人がいた。

 ザムは軽く会釈をし丁寧に挨拶をした。

「お初にお目にかかります。セリア王国冒険者ギルド本部、グランドマスターのザムと申します」

「こちらこそ、お初にお目にかかる。ローラ聖教国枢機卿、ウォル・ブランクと申す。ザム殿はエルフじゃろう?わしより長生きしとるんじゃから普段の口調で構わんぞ?いや、わしの方が敬意を払わねばならんな。はっはっはっ」

「では遠慮なく。ウォル殿もお気になさらず」

「して、冒険者ギルドの重鎮が何用で来られたのだ?」

「実は・・・」

 ザムは、メイグウ市のギルドで起こったこと、かつて勇者も同じ状態になったことが記載された書物を、ローラ聖教国が発行元になっていたことなどを話した。

 するとウォルは驚いた様子で口にした。

「し、信じられん・・・。わしも一度文献で読んだことがあるが、まさか実在するとは・・・。ザム殿、答えはもう出たようなもんじゃろ?」

「えっ?どういうことだ?ウォル殿」

「簡単なことじゃ。その真人殿が勇者と同等、もしくはそれ以上の存在ということじゃ。ギルドカードは別の大陸の人族が作った魔道具と言われておる。人族の道具で神に近い存在を縛ることはできんということじゃな」

「・・・。ウォル殿はえらくすんなり認めるんだな」

「ふむ。まぁグランドマスターならよいか。ここにも似たような存在がおるからの」

「っ!?もしや!聖女!?」

「そうじゃ。あの方も人族の魔道具を使うと壊してしまうことがあっての。さすが勇者の子孫というわけじゃ。しかし消えるとなるとさすがに・・・」

「な、なるほど。やはり真人殿は神に近い存在だということか・・・」

「それは会えば分かるんでないかの?」

「そうだな。ところで聖女は実在するんだな」

「もちろんじゃ。じゃが代を重ねるごとに力が落ちていってることはたしかじゃな。ゆくゆくは力を失うことになるじゃろう」

「そうなのか。いいのか?俺にそんなこと教えて」

「構わんじゃろ。今は戦争なんぞも起きんし、帝国も大人しくなった。聖女様の力がいらんぐらい平和になったってことじゃ」

「時代の移り変わりか・・・」

「お主はエルフじゃからのう。世を見据えとかんと取り残されていくぞ?それと一つ頼みがあるんじゃが・・・?」

「なんだ?」

「わしと教皇様と聖女様はこの国を長々と離れられんからの。真人殿とお連れの方に、もしよければ来訪するように伝えてもらえんかの?」

「伝えるだけなら構わんが・・・。保証はできんぞ?俺もまだ真人殿に会ってないからな。話しに聞く限り人柄は問題なさそうだが・・・」

「できればでかまわん。よろしく頼む」

 ウォルは立ち上がり頭をさげた。

 そして、ザムも立ち上がり手を差し出すと、それに気づいたウォルも手を握り返した。

「いい話しが聞けた感謝する。俺は明日にでもここを発とう」

「そうか。気をつけてな」

 ザムは退出し、外で待機していた神官に案内されて戻っていった。


 ザムが退出し、部屋に残ったウォルは

「神に近い存在か、はたまた神その者か・・・。そのような存在が理由なく地上に現れるものか?もしや悪しき者が現れる前触れ?戦乱の世が近づいてる?一応、教皇様と聖女様に報告しておこうかの。それに、この地に足を運んでいただけるのなら歓迎しなくては・・・」

 不安と期待を胸に抱くのであった。


 一方、ザムの方も、宿に戻り一夜明けると、すぐにメイグウ市へと足を向けるのであった・・・。

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