第11話 黒竜

 商会が立ち上がり10年が経とうとしていた。

 あの日、ヴィアとジョイナは視察に赴き、色々と助言して、ヴィアは無事にジョイナをダンジョンへ送り届けてきた。

 どうやら以前は久しぶりに街を訪れた際に緊張していたようで、今回ジョイナは、案の定あっちへフラフラ、こっちへフラフラとしていたようだ。

 ヴィアはそれをみかねて、街の門前で別れるところを、ダンジョンまで連れ帰ったそうだ。

 ヴィアの方も冒険者ギルドと一悶着あったそうだが返り討ちにしたらしい。

 名前の方もメイグウ商会と決まり、立ち上げ当初は一筋縄ではいかなかったものの、アルのおかげで軌道に乗せることができ、店舗の方も好評のようだ。

 ダンジョンの入口でジョイナと別れたヴィアは、すぐにイルムド帝国に向かい、ヴィアがダンジョンを出て4年程経過したころ、イルムド帝国側のダンジョンに獣人の奴隷と思われる2人の少女をクリスの配下に託したようだ。

 その獣人は、猫獣人で、2人は姉妹で遊んでいたところを連れ去られて、気づいた時にはイルムド帝国にいたそうだ。

 それを機に次々と解放した奴隷がクリスの配下の元へと送りこまれた。

 これはヴィアがダンジョンから出る前に、真人がディスペルの魔法を付与した魔道具を渡していたからだ。

 ディスペルという魔法は呪いの解呪、魅了の解除、石化の解除、精神異常の解除などをすることができ、真人はその魔道具にクリスの聖属性の魔力をこめさせ、奴隷紋の消去、回復、浄化までできるようにした。

 それによりほとんどの奴隷が違法奴隷と判断したヴィアは、その魔道具で片っ端から解放していったのだ。

 奴隷には猫獣人、犬獣人、狼獣人、狐獣人、狸獣人、熊獣人、エルフにドワーフ、竜人までおり、これは大陸にいるほとんどの種族だと思われる。

 それに年寄りや男の奴隷の大半は、その場で殺されるか、ダンジョンへと魔物討伐へと連れて行かれたため、生き残りは女しかいないという話しだ。

 真人は獣人たちに48階層の住宅区の住居を惜しみなく与え、故郷に帰れるよう支援もすると声をかけたが、誰1人として手を上げる者はいなかった。

 300人ほどが解放されたころ、エルフの女性に自分で最後だと言う報告をクリスとアルは受けた。

 どうやらエルフの女性は、同じエルフのヴィアのことを思い、最後まで残っていたようだ。

 そのエルフの女性によると、ヴィアも少ししたら戻るとのことだった。

 クリスは転移で真人の元へと移動し、ヴィアのことを伝えた。

『マスター。ヴィアがもう少ししたら帰ってくるって』

「そうか。あいつは元気だろうか?まぁこの状況をみるに元気にやってそうだが・・・。相当頑張ったんだろう。帰ってきたら褒めてやらないとな」

 そんな思いを抱きいだきながら自分の部屋でクリスと話しをしていると

『っ!?マスター!な、何この魔力!?』

「ああ!何かダンジョンに入ってきたな。転移で直接入ってきただと?何者だ?クリス!行くぞ!」

 膨大な魔力を感知した俺とクリスは、急いでその魔力が現れた場所の48階層に転移した。

 広場に着くと、精霊たちや住人たちが何かを探すように走り回っていた。

 それと同時にアル、ディーネ、ルタ、サラ、ジョイナも現れた。

「あ!主様!何が起きてるんですの!?」

「アルか。俺も今来たところだ」

 そして魔力を漂わせてる方を見た。

「黒い・・・竜だと!?チッ!これはまずいな・・・」

 見上げると48階層の中心にある建物の上に、建物の2倍はありそうな黒竜が俺たちの様子を見ていた。

 アルたち5人はその黒竜の姿に息を飲んだ。

「しかし妙だな。敵意がないし威圧もしてこない。何が目的だ・・・?」

『マスター!どうする!?私でもあれは倒すの難しいかも・・・』

「いや、お前たちは住人の避難を頼む。何が起こるかわからん。48階層の転移魔法陣は一度切る。ワープを使えない者は手助けしてやれ。俺はあいつを49階層に連れて行く。あそこならあいつも逃げられん」

『マ、マスター!あ、あそこには・・・』

「クリス。大丈夫だ。あの頃より魔力阻害も隠蔽もありとあらゆる防御魔法を施してある」

『マスター!私も連れて行って!』

「・・・仕方ないな」

 真人はクリスを抱え、黒竜の元へと転移しようとした。

「あ、主様!」

「「「「「ご武運を!」」」」」

「ああ。お前たちもこの場は頼んだぞ」

 真人とクリスは黒竜の目の前に転移し、黒竜と共に49階層へと転移した。


 49階層に転移してきた真人とクリスは、黒竜の出方を窺ってうかがっていた。

 すると頭の中に驚いた声が響いた。

『むっ?ここは?転移させられた?わしを転移させるとは中々やるのぅ。リアとリムが認めただけはあるか』

「こ、これは念話?話せるのか!?それにリアとリムだと?」

『そうか。お主が真人か。なっ!?こ、この気配は!?くっ!あやつらめ!知ってて黙っておったな!』

 黒竜はその場でものすごい勢いで頭を垂れた。

「な、なんだ!?」

『申し訳ございません。ご無礼を働いたことを深くお詫び申しあげます』

「な、なんなんだ?たしかにいきなり転移してきたことには驚いたが、何故頭を下げる?あんたはそれなりに上位の存在だと思うが?」

『私を上位の存在程度と思われるのはあなた様ぐらいでございます。失礼ですが、あなた様は神の名を冠するかんする者に見受けられます』

「たしかに俺はという神の名がついてはいるが・・・」

『やはり、そうですか・・・』

 すると黒竜が淡く輝き始め、その大きな姿からシュルシュルと人の形へと変化していった。

「こ、これは人化!?」

 クリスは黙ってその様子を見ていた。

 真人の目の前で堂々と人化したことに少し思うことがあるようだ。

「申し遅れました。私は『ゼノム・ブラック』と申します。どうかゼノとお呼びください」

 ゼノは右手を胸に当て深々とお辞儀をした。

 真人は頭を上げたゼノを観察した。

 身長は真人より少し高く、年齢は不明だが、ここにきて初めて見る自分以外の黒髪、黒眼にスーツと思われる洋服で執事のような振る舞いをしている。

「・・・俺は真人だ。好きに呼んでくれ。それで?何の用があってここにきた?」

「では、真人様と。私は数年程前に古い友人、リアとリムに会い、現在、仕えてる者がいると聞き、不思議と興味がわいて、この場所に参った次第でございます。別大陸にいたため探すのに随分時間がかかりましたが、この大陸に着いた瞬間、すぐにこの場所の魔力を感知でき転移で訪れたのです」

「そうか!リアとリムの友人か!なら俺の友人に代わりない。口調も普段通りでいいぞ」

 真人は以前、リアとリムが友人に会いに行くと出ていき、それがゼノのことだと、すぐに思い至った。

「ありがとうございます。善処します。それでここはどこなのでしょう?私が転移した街はダンジョンのようにも感じましたが・・・」

「そうだ。ここはダンジョンだ。俺はダンジョンマスターだからな」

「真人様がダンジョンマスター?もしかして私でも感知できなかったこの空間は核の部屋でしょうか?」

「ここは核の部屋ではないぞ?な」

『マ、マスター!』

「クリス。こいつは大丈夫だ」

 ゼノは真人のことを目を細めながら見つめた。

 そして、真人が魔力層と繋がっていることに気がつき、驚愕で目を見開き、何故真人が神という名を冠しているのか、何故自分が不思議と興味がわいたのか、その理由を把握した。

「ところで真人様は、この先もダンジョンマスターとして過ごされるのでしょうか?」

 ゼノは魔神である真人がこの大陸だけを目にかけるのか、それとも別の大陸のことも目にかけてくれるのか、そのつもりで真人へと問いかけた。

 その返答次第で、ゼノはここのダンジョンでを終えることになるだろう。

 元々、残り少ない寿命だ。それも悪くない。

 とゼノは真人や真人に抱えられてるスライムと思われる魔物、先程見た街にいた住人を見て、そう感じた。

 真人は、ゼノからの真剣味を感じる質問を、不思議に思いながらも答えた。

「俺は、いずれ外の世界を見て周りたいと思ってる。リアとリムにも聞いたが、ここ以外にも大陸があるんだろ?そっちの方も巡ってみたいんだ。だが、ダンジョンを離れることは出来ないんだ」

 ゼノは真人の思いに少し頬を緩ませ、自分もかつてはこうだった・・・と懐かしく思いながら目を瞑って考えた。

 そして目を開き言った。

「なるほど。どうやら私は最後の役目を仰せつかったようです」

「どういうことだ?」

「いえ。なんでもありません。この世界で唯一神である真人様に私も仕えたいと思います」

「仕える仕えないかは、みんなと話し合わなければいけないな」

「では、ここの空間の管理者というのはいかがでしょう?おいそれと話せる場所ではないのでしょう?私がここを管理しておけば、もしものことがあっても安心できると思います。契約を交わせば私がここを漏らすこともないでしょう」

 俺は対等と言わずとも、気軽に話せることに魅力を感じた。

 なによりゼノは男だ。

 男が好きなわけではないが、この女ばかりのダンジョンで俺の安定剤になってくれるかもしれない。

 自警団?あいつらはダメだ。俺を敬いすぎて変な言葉になるからな。

 それにゼノは勇者と魔王のことを知っているはずだ。

 そうでなくても、ブラックという名前がついていることから、かつての転生者によって名付けられた可能性もある。

 気になることばかりだが、まず場を収めることが先かと思い

「ふむ。ひとまずみんなと話し合うことにしよう。どちらにしろ顔合わせは必要だし、向こうの騒ぎも収めなけらばならん」

「そ、それは・・・申し訳ございませんでした。まさかあのような膨大な魔力の中に街があるとは、思いもよりませんでした」

「いや、いい。それより戻るぞ」


 一方、未だイルムド帝国にいたヴィアは最後の仕上げをしようとしていた。

 今日中には真人様に会えるだろうとフンフーン♪と上機嫌で、今にも踊りだしそうだ。

 帝国の大通りを皇帝が住むと思われる城の方に歩いていると

「っ!?これは真人様の魔力!?こっちにまで感じられるなんて何かあった!?あれ?今度は魔力を感じなくなった!?でも魔力は途切れてはいないし。また49階層で何かしてるとか?あそこなら魔力が阻害されて感知できなくなるだろうし。でも少し胸騒ぎがする」

 ヴィアは奴隷たちを解放し、仕上げとして皇帝に脅しをかけようとしていたが、時間の無駄だと思いすぐに引き返すことにした。

 それにこの国の現状は、ロクな貴族は残っておらず、住人たちも逃げだすか、ダンジョンへと連れて行かれほとんど戻ってきていない。

 国が潰れるのが目に見えており、いっそのこと真人様に頼んで潰してもらって、新たに真人様の国を興した方が早い!と感じるぐらいだ。

 それも有りだな。むしろそっちの方がいい!

 と少し検討違いなことに考えが及び始めたヴィアは、頭をブンブンと振り、思考を元に戻し、ローブのフードを被って認識阻害の魔法を使いながらダンジョンの入口近くの精霊湖へと転移した。


 ダンジョンの上の階層では凄まじい地響きに襲われ、冒険者たちはわけもわからず引き上げていた。

 それは真人が黒竜を転移させるために膨大な魔力を発したせいでもあった。

 地響きはすぐに収まったが、冒険者たちはスタンピートの前兆かと、ダンジョンの入口前で不安そうに待機していた。

 ヴィアは、誰もいない精霊湖に転移してきてすぐにダンジョンの入口へと向かい、待機していた冒険者たちをかき分けて、ついに入口へとたどり着いた。

「こ、これは!?やっぱり真人様の魔力が漏れ出してる。急いで向かわなきゃ」

 ヴィアは認識阻害で姿を隠しながら、ダンジョンの中へと急いだ。

 しかし、いつもなら一歩でもダンジョンに踏み入れれば、腕輪に登録した48階層に転移が使えるのだが、今回は転移できなかった。

「なんで!転移できない!?どうして!?そうだ!魔法陣部屋から跳べるはず」

 ヴィアは急いで転移魔法陣部屋に向かい、転移魔法陣の上に立つも転移は発動しなかった。

 いや、魔法陣自体は使える。

 40階層までなら跳べると感じたからだ。

 仮に40階層に跳んでもヴィアなら竜の階層は突破できるだろう。

 あそこの竜は優しいからすぐに通してくれる。

 敵意を持つ者には厳しいが。

 問題はそのあとの階層だ。

 45階層からの下に向かう階段や物理的に移動できる手段がないのだ。

 転移しか方法がないことに気づいたヴィアは途方に暮れ、地面にへたりこんでしまったのだった・・・。


 クリスを抱え、ゼノを引き連れて48階層に戻ってきた俺は、広場の光景を見て顔を引きつらせた。

 そこには、アル、ディーネ、ルタ、サラ、ジョイナ、シロ、クロを筆頭に精霊、自警団、住人たちダンジョンにいる全てと思われる者が、両膝をつき胸の前で手を組み、目を瞑って祈りを捧げているのだ。

 俺は何度か目を擦るこするも現実はかわらず、諦めて声をかけることにした。

「ア、アル・・・?こ、これは・・・?」

「あ・・・、あ、ああ、主様っ!ご無事でしたのねっ!」

 アルは俺の声に気づくと、いち早く立ち上がり抱き付いてきた。

 下の方ではクリスが潰されて『むぎゅ!』と声が聞こえた。

 クリスはすぐに転移して逃げ出したようだが、たしか以前も見たような光景だ。

 それから、ジョイナ、ルタ、サラと抱きついてきて、シロとクロも足元にすりよってきた。

 珍しく抱きついてこないディーネの方を見ると、その場で「ふぇぇぇぇん。真人様ぁ」と泣き出していた。

 俺は困惑しながらアルに問いかけた。

「ア、アル?俺は避難させろと言ったはずだが・・・?な、なぜこんなことに・・・?」

 すると、アルは真顔で答えた。

「主様。ここにいる者は主様と共にする覚悟を決めている者しかおりません。それは付き合いが浅い住人たちでさえわかっております。それだけ主様の存在は大きく、私たちが安心して暮らせてる証で、守られている証拠です。主様にもし何かあれば、私たちも運命を共にするでしょう」

「ほ、本気か・・・?」

『マスター。私とヴィアも前に言った。みんな同じ気持ち。マスターは前を向いとけばいい。私たちはそれについていくだけ』

「そ、そうか・・・。なんにせよ、心配かけてすまんかったな。アル。みんなに戻るように言ってくれ」

「主様。わかりましたわ」

 アルは上位精霊たちに声をかけ、上位精霊たちは各グループを指揮している中位精霊たちを通して、全員をスムーズに帰路へとつかせた。

 俺はその様子を見ながら、ここまで混乱もなくスムーズに進むということは、日頃から訓練しているか、相当意識して行動していないと難しいだろうと称賛を送りたい思いだった。

 アルは指示を出し終え、俺の元へと戻ると、俺の少し後ろにいるゼノに気づき目を細めて警戒を表した。

 さらにアルの警戒に気づき、落ち着いていたディーネ、ルタ、サラ、ジョイナもゼノを見据え構えた。

「みんな。警戒しなくていい。大丈夫だ」

「しかし主様。その方は先程の黒竜ではなくて?」

「ああ。そうだ。だが最初から敵意はなかっただろう。その気だったら最初から襲っていたはずだ」

「た、たしかにそうですが・・・」

 すると、シロとクロがゼノへと近づいていき、スンスンと鼻を動かし匂いを嗅いだ。

「「創造主様っ!私(我)と同じ匂いを感じますっ!」」

「ははっ。そうだろうな。ゼノはリアとリムに会ったらしいからな。だが数年前と言ってたがそんなに匂いが残ってるもんか?」

『マスター。多分魔力のこと』

「そういうことか」

「主様。どういうことでしょう。あの方はリアとリムを知っているのでしょうか?それに何故シロとクロがリアとリムの匂い?魔力?をご存じで?たしかシロとクロはあの2人が旅立ってから主様が作られましたわよね?」

「ああ。シロとクロは、リアとリムが旅立つ時に、魔力がからの魔石に2人の魔力を込めさせてな、その魔石を媒介にして作り出した生物なんだ。だからシロとクロはリアとリムの魔力がわかるのだろう」

「なるほど。どうりで魔法も行動も似ているわけですね」

「ん?似ていたか?たしかにシロとクロもべったりくっついてきていたが・・・。まぁいい。それで、ゼノ!自己紹介を」

「はい。お初にお目にかかります。魔神様の眷属の皆様方。まずは謝罪を。先程はご無礼を働き申し訳ありませんでした。私はゼノム・ブラックと申します。以後お見知りおきを」

 アルは警戒心を解くことなく問い掛けた。

「それであなたとリアとリムの関係は?」

「はい。リアとリムは私の古い友人であります。あの2人の真人様の話しに興味を持ちここに訪れました」

「2人の友人・・・?もしかして魔王大戦以来の・・・?あの黒竜ですの・・・?」

「はい。2人と知り合ったのは魔王大戦以降ですが、戦場には幼いながらも、私は勇者と一緒に共にしておりました」

 ゼノが答えると、そこでようやく5人は警戒を解いた。

「アル。ゼノを知っているのか?」

「いえ。知ってると言うほどではないですわ。私が上位精霊を引き継ぐ時に噂を聞いた程度ですわ」

「そうか。それでゼノ。リアとリムは?一緒にきてないのか?」

「あの2人は私の所にきて、魔王が討伐されたことを確認すると、何も言わずどこかに漂って行きましたが・・・」

「相変わらずだな。あの2人は。戻ってこいと言ったのに」

「ですが、シルフィードの話しをしておりましたので、もしかしたらシルフィードに会いに行ってるのかもしれません」

「そうか。そういえば昔、俺にもシルフィードの話しをしていたな。会いに行った可能性はあるか」

「それにあの太陽はリアが作り出した物ですね。懐かしいです。地上の物と比べて遜色ないです。真人様の眷属になられて魔力が戻ったのでしょう」

「なにっ!?地上の太陽と月もあの2人が作り出したのか!?」

「いえ。正確には地上の太陽と月は、太陽の女神様と月の女神様が作られたそうです」

「ふむ。ちょっと待て。それは聞かせていい話しか?」

「そうですね。真人様がよろしければ。ただここから先は神様の話しも出てきますがそれでも・・・」

「いいえ。その話しは私たちは遠慮しておきますわ。私たちの神様は主様だけですもの。クリスは聞いておきなさい。外の世界で主様のお役に立てるとしたらあなたとヴィアだけですわ」

 アルはゼノの言葉に被せるように言った。

「そうか。わかった。アル、ディーネ、ルタ、サラ、ジョイナありがとうな。ジョイナ。シロとクロを連れて行ってくれ。ジ、ジョイナ?」

 ジョイナはクリスとヴィアの横に並べなかったことに悔しさを感じたようだ。

 しばらく俯いていたが、ようやく声を絞りだした。

「はい・・・。わかりました」

『そんな!我は聞いていたいにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・』

 とクロは叫びながら連れて行かれた。

 しかし、転移魔法陣部屋に入ったが、使えないことに気づき、少し顔を赤くしながら引き返して通り過ぎていった。

 恥ずかしさを誤魔化すためか、アルは「みんなこういう時は甘いのですわ!」といい、ディーネが「やけ食いだね!」と返したが、アル、ルタ、サラは白い目でディーネを見ていた。

 シロとクロは落ち込んでいるジョイナを励ましているようだった。

 そんななんとも言えない雰囲気の中、俺は空間収納からテーブルと椅子を3脚取り出し広場に置いた。

 テーブルを挟み1脚の椅子にゼノを座るよう促し、対面に俺も座り、隣の椅子にクリスを乗せたが、すぐに転移で俺の膝の上に移動してきた。

 そこでクリスに声をかけると

「おい。クリス。俺の膝は椅子じゃないぞ?」

『私は高級な膝しか受け付けない!』

 と屁理屈を言いゴネ始めた。

 説得を諦めた俺は

「しょうがない。なら飲み物を出してくれ」

『わかった。何飲む?』

「俺はコーヒーをブラックで。ゼノは?」

「むっ?そのコーヒーと言うのは勇者も飲んでましたな。もしかして真人様も?」

「しまったな。まさか自分でボロをだすとは。言うつもりはなかったんだが、まぁ勇者と同じ国とは限らんがな」

「いえ。薄々気づいておりましたよ。そこにある建物の形も材質もそっくりですし」

「・・・そういえばそれもあるか」

「そんなに気にしないで下さい。私はどちらかと言うと嬉しいですよ?懐かしいことが話せそうですし。では私にもコーヒーをブラック?でお願いします。知ってはいるものの、飲んだことはありませんでしたからね。それに私と同じ名前なのも気に入りました」

『初めてならブラックは止めた方がいい。あれは飲み物じゃない。初めてでブラックを飲めたらそれこそ勇者と言われるレベル』

「そ、そんなに苦くないだろう?」

『マスターは味を感じないから』

「ゆ、勇者と・・・?ではなおさら飲まなければいけないですね」

 クリスはコーヒーが入ったカップをゼノに差し出した。

 ゼノはカップの中を覗くと首を傾げた。

「真人様。この黒い液体がコーヒーなのでしょうか・・・?私が覚えてる範囲ではもっと茶色だった気がするのですが・・・」

「ゼノ。まぁそう焦るな。お前は黒の別名を聞かされたことはあるか?」

「いえ。聞いたことはないですが・・・」

「お前の名前をつけたのは誰だ?」

「そ、それは勇者ですが・・・。も、もしや黒というのはブラックということでしょうか?」

「そうだ。勇者は黒竜にちなんで、ブラックと名付けたんだろうな」

「シント・・・。そうかそうだったのか。私は・・・俺はあやつが適当につけたものだとばっかり・・・。あんな酒の席でつけなくてもよかったろうに・・・」

『マスター。ゼノ泣いてる』

「そうだな。クリスも名付けされた時は嬉しかっただろう?」

『そういうこと。うん。嬉しかった。ゼノ。そういうときはコーヒーを飲むといい』

「あ、ありがとうございます・・・」

 ゼノは少し落ち着きを取り戻し、クリスに差し出されたコーヒーを一口飲んだ。

 するとゼノは口の端からダラーっとコーヒーを垂らした。

「にっがっー!」

『だから飲み物じゃないって言ったのに』

「クリス。それをわかっててあのタイミングで飲ませるお前は鬼だ・・・」

『鬼?マスター。私はオーガじゃないよ?』

「いや。いいんだ。気にしないでくれ。ゼノ。大丈夫か?」

「はい・・・。なんとか。それにしても苦すぎますね」

 クリスは無言でミルクと砂糖を取り出した。

 俺はそのミルクと砂糖を指差しながら言った。

「次からはミルクと砂糖を入れるといい。そうなるとブラックではなくなるがな」

「いえ。もうブラックはいいです。私は甘党なので」

「そ、そんなに苦いのか・・・?」

『マスター。味を感じないんじゃなくて、わからないだけなんじゃ・・・』

「っ!?いや!それはないはずだ!俺は視覚と聴覚はあるが、味覚、嗅覚、痛覚はないはずだ!」

『うーん。目と耳は魔法的何かとか?』

「っ!?た、たしかに・・・。その線もあるの・・・か?いや。ないない。俺はないと信じるぞ」

『そんなに必死にならなくても。別に困ってないのに』

「・・・そうだな」

「はっはっはっ。いやはや、お2人は面白いですね。まるで夫婦めおとのようです」

『めおと?マスター。めおとって何?』

「・・・。そんなことより、ゼノ。さっき勇者の名前を言った気がするんだが?」

『マスターが誤魔化した。これは怪しい・・・』

「はい。勇者は名前はシントでした。当初は神の使徒という意味のシトから変化したと思われてたようです。真人様?いかがされましたか?」

 俺はシントという名前を聞いて考えこんだ。

 たしかに俺の名前もシントと読むことができる。

 まさか勇者のシントの名前と勘違いして俺をこっちの世界に呼んでしまったのか?

 いや。それなら召喚した本人がいるはずだ。

 俺は転生者となっていることから、召喚されたわけではない。

 それに勇者はもう亡くなっていて、間違うことはないだろう。

 転生した当初ならまだしも、今になってまた自分の名前で悩むとは思わなかった。

 色々と考えてはみるものの、憶測の域を出るものばかりであるため思考を放棄し、そこでクリスが呼んでることに気づいた。

「ん?クリスどうした?」

『ん。あれ』

 クリスが触手の指を差してる方を見ると、そこにはゼノが、砂糖を次から次へとコーヒーに投入していた。

「お、おい?ゼノ。そんなに入れて大丈夫なのか・・・?」

「はい。私は甘党なので!それにミルクを入れたら私がかつて見たことある色になりました!」

「そ、そうか。それは良かったな・・・」

『ヴィアとジョイナに仲間ができた』

 ゼノはその甘ったるしいコーヒーを美味しそうに飲みながらクリスを見て言った。

「そういえばレディのお名前を伺っておりませんでした。よろしければお聞きしても?」

『レディ?マスター。レディって何?』

「女性という意味だ。ゼノは名前を聞きたいそうだ」

 クリスは女性と言われ、上機嫌になり名乗った。

『私の名前はクリス。偉大な主様から頂いた!フンスッ』

「フフッ。クリス様は真人様がお好きなのですね」

『当然!よし。クリスと呼ぶことを許そう』

「なんでお前はそんなに偉そうなんだ?」

『ん。私はレディだから』

「答えになってないぞ?よっぽどレディと呼ばれたのが嬉しいことはわかった。それでゼノ。話しを戻そう。太陽の女神と月の女神はどうなった?」

「はい。こことは別の大陸の話になりますが、私が作り出される前に邪神というのが現れ、それに向き合ったのが太陽の女神様と月の女神様でした。ですが邪神も強く、2人がかりでも相討ちとなり、その間際に邪神は魔王という眷属を残して行ったのです。当然お2人の女神様がいなくなり、世界が闇に呑まれると思われました。しかし、太陽の女神様がクリアを、月の女神様がニュクスリムを作り出し、クリアとニュクスリムのおかげで光を失わずに済んだのです。本来、女神に作り出された2人は神の眷属となる予定でした。ですがその時に魔力を使い過ぎて消滅するところを、精霊神様に助けていただき精霊になったようです。その影響か当時のことは、はっきりと覚えていないと言っていました」

「その邪神と言うのはどんな存在だ?」

「わかりません。創造神様なら知っていたかもしれませんが・・・。ただ、人間たちの負の感情の塊だと言われてます」

「ふむ。物語でもありきたりな話しだな。それでそのあとは?」

「そのあと、魔王を討伐するために勇者たちを異世界から召喚した創造神様は、同時に私を作り出し、勇者と共にするように命じて力を失ってしまいました。そして私は勇者、賢者、聖女と共に魔王討伐の旅で色々な場所を巡り、ついに勇者は魔王を倒しましたが、白銀の狼は仕留めきれなかったようです。おそらく魔王に操られていたことから情けをかけたのでしょう。あやつは優しかったですから」

「創造神は力を失ったと言ったが生きてるのか?それとも死んだのか?」

「それは・・・。創造神様は私に命じたあと、光りになって消えてしまいました・・・。なので生死ははっきりとわかりません」

「そうか・・・。白銀の狼を逃がしたのは確実なんだな?それで白銀の狼はどこに逃げた?」

「その頃は私も人化することができずに、体を小さくするか大きくするぐらいで、勇者を乗せて魔王と戦った際に怪我を負ってしまい、勇者が魔王を討伐したところまでしかわかりません。そのあとのことは、勇者に聞いて知ったことになりますが、転移の儀式を使って白銀の狼をどこかへ跳ばしたそうです」

「な、なんて傍迷惑はためいわくな。跳ばされてきた方はたまったもんじゃないな。待てよ?リムは800年程前に急に現れたと行っていた気がするな。その転移の儀式で次元を越えて送られた可能性もあるか・・・?」

「真人様は白銀の狼が現れたのを知ってるのでしょうか?」

「ん?俺はリアとリムに聞いたぞ?この大陸に現れて勇者の子孫の聖女とハイエルフがどこかに封印したらしい。おそらくシルフィスだということだ」

「それでシルフィードに会いに行ったということですか。こちらの大陸にも聖女がいるのですか?」

「も?ゼノがいた大陸にも聖女がいるのか?この大陸には2人聖女がいるらしい。俺も詳しくは知らないが」

「私がいた大陸の聖女は、世襲制ですので、正式な聖女と呼べるのは勇者と共に召喚された1人だけです」

「そうなのか。なぁ?ゼノ。神以外で異世界の者を召喚できると思うか?」

「それはあり得ないかと。創造神様ですら神の力を失うことを代償にして成すことができたのです。魔術師が万人いようが無理でしょう。ただ1人を除いてですが・・・」

「なにっ!?1人いるのか!?」

「はい。真人様なら可能かと。ところで他の召喚された者に心当たりが?」

「なんだ。びっくりして損したな。俺は勇者だの何だの召喚するつもりはない。いや少し疑問に思っただけだ。この大陸にいる聖女は召喚された可能性があるのかとな」

「それはないと思いますよ。私と共にしていた聖女はたしか、称号に聖女、固有スキルに聖魔法を持っておりました。スキルに聖属性を持つ者はたまにいますが、固有スキルに聖魔法を持つ者はほとんどおりませんので、もしかしたら称号に聖女がなくても、聖属性だけで聖女と判断しているのかもしれません」

「なるほどな。しかし、教会なんかの回復魔法を使ってる神官は、聖属性を持ってるんじゃないのか?」

「こちらの大陸のことはわかりませんが、私がいた大陸の教会は、ポーションか光属性の回復魔法になります」

「ん?光と聖の回復はちがうのか?」

「はい。光は万能型、聖は特化型と言いましょうか。それに光属性を極めたのが光魔法、聖属性を極めたのが聖魔法の固有スキルとなるようで効果も大分違うようです。聖女の聖魔法は最上級ポーションに勝ると言われていました。ちなみに光魔法はリア、反対の闇魔法はリムが得意としてます」

「そういえば、クリスも聖魔法を持っていたな」

 真人がクリスを見ると、クリスはビクッと体を弾ませ、プルプルと震えた。

「ん?どうした?大丈夫かクリス?腹でも痛いのか?」

「真人様。それはレディに対して失礼かと。それで私はどうすればいいのでしょうか?」

「あいつらにゼノのことを聞くの忘れてたな。まぁリアとリムの友人だから大丈夫だろう。客室を用意しておくからしばらく適当に過ごしていてくれ。仕える件はゼノがここに慣れてからだ」

「はい。わかりました。ありがとうございます」

「よし。クリス戻るぞ」

『マ、マスター。ヴィアの反応が1階層にあるんだけど何してる?冒険者の反応が近くにあるから1号を送り込めない』

「ヴィアが?ん~どれどれ。うん?転移魔法陣の前で膝を抱えて座ってるな。何かあったのか?」

『マスターが魔法陣切ったから入ってこれないんじゃ・・・?』

「ああ。そういうことか。まずは48階層の転移魔法陣復活させて・・・と。少しヴィアを驚かせてやるか。転移でこっちに引き込もう」

 真人は迷宮掌握でヴィアの位置を把握し、転移でヴィアを48階層へと引き込んだ。

 すると、目の前にヴィアが膝を抱えた状態で現れた。

『ヴィア。おかえり』

「っ?クリス姉様の声が聞こえる?」

 ヴィアはクリスの声が聞こえるとバッと顔をあげて周りを見渡し、そして俺と目が合うと瞳に涙が浮かび始めた。

「あ・・・あぁ、まひどざまぁ~。やっと会えばした~。さびしかっだでずぅ~。ひどいでずぅ~。転移が使えなくてどうじようかど~。念話も繋がらないじ~」

 ヴィアが大泣きしながら抱きついてきた。

「お、おう。ヴィアすまんかった。おかえり。ちゃんとお前が努力したのはわかってるぞ。よく頑張ったな」

 俺は子供をあやすようにヴィアの背中を撫でた。

『相変わらずヴィアは泣き虫。でもよく無事に帰ってきた』

 ヴィアは少しして落ち着くと、俺から離れて、頬を赤く染めながら言った。

「お恥ずかしいところを見せました・・・。真人様、クリス姉様、無事帰ってきました!イルムド帝国の件は終わりました!あとは真人様があの国を潰して、新たな国を興すだけですっ!」

『ヴィア。よくやった!』

「まてまて!いつからそんな話しになったんだ!?」

「あれ?違いました?でも最後に皇帝は脅せなかったですけど、もう人もほとんどいないですし、崩壊するのも時間の問題ですよ?」

「脅す?何を言ってるんだ?ふむ。崩壊したら考えてみるか。今は放置でいいだろう。しかしあそこの国は最後まで抵抗してきそうだが、何がそこまで駆り立てるんだか。魔族にでも操られてるんじゃないのか?」

 ヴィアと話しをしていると、魔族という言葉を聞いたゼノが目の色を変えて俺に詰め寄ってきた。

「ま、真人様!魔族をご存じで!?」

「うわっ!びっくりした。なんだゼノ、まだいたのか。」

「えっ?ひどいですよ!真人様!さっきからここにいたのに!」

「す、すまん。ヴィアとの感動の再開だったからな」

「ま、真人様。感動の再開だなんて・・・。恥ずかしいですぅ・・・」

『ヴィア!調子に乗るな!』

「それでゼノ。お前は魔族を知ってるのか?」

「いえ。詳しくは知りません。ただ、この大陸、私たちがいた大陸とは別に、魔族大陸というのが存在してるというのは聞いたことがあります」

「そうか!それは楽しみだな!」

「えっ?真人様?楽しみ?何を言ってるのですか?」

「それはそうだろう?お前たちも知らない未知の大陸ってことだろ?冒険したいと思わないのか!?」

 ゼノは俺の言葉を聞き、ポカーンと口を開けて唖然となった。

『マスター。私も一緒に行く』

「真人様。私もご一緒させて下さい」

 未知?冒険?今は忘れてしまったが、かつてはそんなワクワクした気持ちだったとゼノは思いだし、思わず頬を緩めた。

「ははっ!たしかにそうですね。では私は真人様のために尽力させていただきます」

「別にそこまでしなくてもいいが、よろしく頼む」


 それから30年程の月日が流れた。

 ジョイナはヴィアと渡り合えるほどに強くなったがあと一歩が及ばないようだ。

 若干魔術師寄りの戦い方になるため、相性というのもあるだろう。

 ジョイナには『白百合』しらゆりという白銀のレイピアを作って渡し、これにより近接にさらに磨きがかかった。

 ここまでくるとステータスは関係なく、おそらくあと一歩及ばないのは、ジョイナは魔神の加護だけで、ヴィアは魔神の左腕という称号を持っているからだと思われる。

 そんなわずかな差だ。

 そんなわずかな差が悔しいジョイナは、真人に詰め寄り「私も改名します!称号は魔神の愛人がいいです!」とわけのわからないことを叫び「その称号はダメだ!改名するのはシルフィスに行ったあとにもう一度考えろ!」と落ち着かせた真人であった。

 称号は誰が決めてるか謎だが、ジョイナが望んでしまうと、その影響でほんとに魔神の愛人という称号が付きそうで俺は心配になった。

 あとからクリスたちに散々説教されたようだが・・・。

 そんなジョイナも今では、青緑だった髪も全て白銀となり、ヴィアとも姉妹のようにみえる。

 2人並ぶとなおさらだ。

 そう。今日はヴィアとジョイナがシルフィスに向かうということで、みんな48階層に集まっていた。

 みんなと言っても、俺、クリス、アルだけだが。

 まぁこの2人は頻繁にメイグウ商会へと足を運んでいたため、見送るのも慣れたということだろう。

 ジョイナにもヴィアと同じ転移が付与された腕輪、アルゴンスパイダーのローブ、魔道具や食糧を渡してあるから心配はいらないということだ。

 しかし懸念していることもある。

 ジョイナは希に放浪癖を発揮するのだ。

 ダンジョンやメイグウ市でもそうだったが、目を離した隙にあっちへフラフラ、こっちへフラフラとさ迷い、最終的には戻ってくるものの、興味を持った物に引き寄せられるようにいなくなってしまう。

 本人の性格なのか、魔術師としてのさがなのかわからないが、その辺はいつも共に行動していたヴィアがよくわかっているため、しっかり手綱を持ってくれるだろう。

「ヴィア、ジョイナ気をつけて行ってこい。戦闘に関して言うことはないが、油断はするな」

『ヴィア。慣れてるからと言って慢心はダメ。ジョイナも出来るだけ2人で行動すること。危険を感じたらすぐ逃げること』

「ヴィア。ジョイナ。シルフィスにはたくさんの風の精霊がいるわ。精霊の加護を持ってるあなたたちに手助けしてくれるわ。存分に使いなさい」

「はいっ!真人様、クリス姉様、アル様!ありがとうございますっ!ジョイナのことは任せて下さい!クリス姉様からいただいた首輪をつけておきます!」

 ヴィアは腕輪の空間収納からリードがついた革製の首輪を取り出した。

 何故か手錠と手枷まである。

「えっ!?ヴィア!いつの間にそんな物準備したの!なら私だってディーネ様にいただいたムチを使う!」

 ジョイナは腕輪の空間収納から黒い鞭を取り出した。

「ジョイナ!私を叩くつもり!?」

「ヴィアだって私を縛るつもりでしょ!?」

 2人はギャーギャーと言い争いを始めた。

「なぁ?アル?気のせいかヴィアとジョイナがディーネに似てきてるんだが・・・」

「主様。奇遇ですわね。私もそう思っておりましたわ・・・」

 言い争ってる2人を見て、深くため息をつく真人とアルであった。

 そこで俺は、クリスが何故あんな物を持っていたのかと、ふと疑問に思い声をかけた。

「なぁクリス?お前はなんであんな物持ってたんだ?」

『ん。修行中逃げだすヤツがいるから。それにディーネがうるさい時、あれを使ってその辺に転がしておくのに便利』

「そ、そうか。ほどほどにな」

 クリスの言葉を気にしないことにした俺は、未だに言い争ってる2人を見て、呆れたあげく、さっさと追い払うことにした。

「よし。お前たち。それだけ元気があれば大丈夫だ!じゃあ行ってこい!」

 すると、言い争いをしていた2人はピタッと止まり、俺に詰め寄ってきた。

「雑ですよ!真人様!」

「そうです。もっと愛情を下さい!」

 俺は顔をひきつらせながらも

「今生の別れじゃないんだ。寂しくなったらいつでも戻ってこい!」

 と言い、2人の頭を撫でた。

 俺に頭を撫でられた2人は先程とは打って変わって仲良くしゃべり始めた。

「そうですね!すぐ戻ってきます!」

「「では、行ってきます!」」

 そうしてヴィアとジョイナはいつもの笑顔と足取りでダンジョンを出て行った。


 翌日、俺はゼノの元を訪れた。

 ゼノには希望通り、49階層の管理を任せた。

 49階層は以前の真っ白だった空間の頃とは変わり、緑豊かな草原、色々な花が咲く花畑が造られている。

 アダマンタイトで出来た倉庫も2倍ほどに作りかえ、その隣には同じ作りで、ゼノが住む建物がある。

 万が一のため、こちらもアダマンタイトだ。

 ゼノは49階層への転移や、建物に入るための魔力認証の登録もしてある。

 管理を任せたと言っても、特別な役割があるわけでもなく、日に日に増えていく物の仕分けや、魔法書を読んだり、用途がわからない物(これが一番多い)の解析、解読をしたりしている。

 ゼノもやりがいを感じているようで、時間も忘れて没頭する時もあるため、全員が集まる夕食には必ず参加するように釘をさした。

 ゼノもここに来て30年が経つわけだが、魔力認証を登録してあるということは、当然核の部屋にも入ることができるわけで、最近のゼノは核を見ていることが多くなった。

 俺も最初は、核の部屋に入れることを迷ったが、魔力を込める以外の実験も中々進まず、黒竜であるゼノなら、なにかしら知ってる。もしくは意見をくれるかもしれない。と期待したがさすがにわからないらしい。

 しかし、ゼノは何かわかっているが、確信がないような、隠してるような感じで「ここは私に任せて先に行って下さい」とわけのわからないことを言った。

 一体、どこに行けというのだろうか?それは死亡フラグなのでは?と思いつつゼノの様子を目を細めながら見ていると「実は・・・勇者が使っていたから自分も一度は言ってみたかったんです・・・」と言い放った。

 これにはさすがの俺も呆れ、嫌がらせをすることにした。

 ゼノの家にシロとクロを放したのだ。

 綺麗好きなゼノに取っては、たまったもんではなく、1日中シロとクロの遊び相手をする羽目になったようで、シロとクロは大変満足していた。

 そんなくだらない日々を過ごしていた俺たちであったが、ゼノは徐々に魔力が少なくなっていき、寝込むことも多くなった。

 俺が理由を聞くも、ゼノははっきりと答えず、エリクサーや回復魔法の治療も受けなかった。

 そしてヴィアとジョイナが出て行き、5年程経った頃についにその日が訪れた。

 ここ最近、俺はずっとゼノのところを訪れていた。

 ついには魔力がなくなり、起き上がることが出来なくなったのだ。

 ここに現れた当初とは違い、覇気もなく、随分とシワだらけになっていた。

 ゼノは、寝ているベッドの横に座っていた俺に、まるで最後だと言い聞かせるようにポツポツと語り始めた。

「真人様。私を鑑定してみてください」

「なんだ?いきなり?こ、これは!?俺でも鑑定できない!?」

「私にはステータスというのは存在しないのです。竜の身でありながら今は普通の老いぼれと変わりません。勇者と共に魔王を討伐するという創造神様からの使命を終えた私は、『世界を導く者』という新たな役目が与えられていたのです・・・。ゴホッ」

「お、おい。あまり無理して話すな」

「残り少ない寿命をどう過ごそうかと考えていた時、リアとリムに真人様の話しを聞いて不思議と興味がわいたのです。そして初めてここを訪れたあの日に真人様を見た瞬間に確信しました。私はここに導かれて大役を授かったのだと」

「・・・大役?」

「次はあなたが世界を導くのです」

「俺はそんな大層なこと考えていない・・・」

「ところで真人様は、この先もダンジョンマスターとして過ごされるのでしょうか?」

「それは以前も答えたはずだが?」

「もう一度確認しておこうと思いまして」

「俺は今も外の世界を周りたいと思ってるぞ」

「それを聞いて安心しました。私のわがままを聞いていただけますか?」

「ああ。叶えられるものならなんでも叶えてやろう」

「約束ですよ?では、私には魔石があります。作られた存在ですが魔物には変わりなく、長い年月をかけて結晶化した物です。ここに来た時から少しずつ魔石の方に魔力を移していました。私が死んだら、その魔石を核と融合させて下さい。そして真人様は、核と魔力層の魔力を繋げて蓄積させてましたが半分は合ってます。もう半分はダンジョン全体、上の階層までその蓄積させていた魔力をいき渡らせることです。そうすればダンジョンの核として機能するはずです」

「魔力が少なくなっていった理由か。それなら俺の魔力を分けてやったのに」

「私の魔力は創造神様の魔力が流れています。真人様の魔力をいただいていたら、いくら私でも神同士の魔力には耐えられないでしょう」

「それならクリスの魔力なりエリクサーなり飲めば・・・」

「いえ。今度は低位の魔力と交ざり、魔力の質が落ちます」

「・・・」

 俺は涙を堪え、歯を食い縛りながら聞いていた。

 これが最後だと気づいたからだ。

「そ・・・んな顔しないで下さい・・・。もう・・・一つ、私の体を必ずダンジョンに取り込ませて下さい・・・。必ずですよ・・・。私はダンジョンから真人様を見守っております・・・」

「それがゼノの願いか?」

 「は・・・い。私の心からの願いというわがままです。真人様。余生を・・・穏やかに過ごさせていただき・・・ありがとうございまし・・・た」

 ゼノはゆっくりと目を閉じていった。

「お、おい!ゼノ!ゼノっ!ゼノーーーーーーーッ!」

 俺は涙を流しながらベッドの上に静かに眠るゼノの体を揺さぶるも、目を覚ますことはなかった。

 しばらく呆然となり、椅子に座り込んでゼノを見ていたが、ゼノの言葉を思いだしハッとなって立ち上がった。

 俺はゼノの体を抱え、家の外に出てきた。

 家の前にはゼノが育てていた花畑があり、そこで創造魔法を使い、1本の木を作り出した。

 それはゼノが勇者たちと旅をしていた頃の話しをしていた時に、勇者たちはこの世界にはない、春になると満開になる桜の木のことを嬉しそうに話していたそうだ。

 その話しを聞いて一度、作ろうか?と声をかけたが、今はまだいいです。とゼノに言われていた。

 その話しを思い出し、桜の木を作り出したのだ。

 今は花をつけてないが、来年の今頃には大量の桜が咲くことだろう。

 俺は桜の木の根元にゼノをおろすと、手を合わせた。

「ゼノ。安らかに眠ってくれ。あとのことは任せろ」

 するとゼノの体が輝き、ダンジョンへと取り込まれた。

 残されたのは、作り出した桜の木と同じ高さ、4メートルはあろう巨大な魔石だ。

 俺は、ゼノの家を桜の木に負けじと、石碑のように建て替え、石碑の正面には『ゼノム・ブラック』裏面に『我が盟友ここに眠る』と刻んだ。

 そして魔石を丁寧に空間収納へと仕舞った。

 すると俺の体が淡く輝き始め、僅かだがゼノの魔力が流れこんできたことに気づいた。

「こ、この感覚は!?」

 俺は長年見ることのなかったステータスを急いで確認した。


 迷宮魔神めいきゅうまじん(???) EXランクダンジョン

 

 称号 転生者、ダンジョンマスター(核保有中)、魔の森の支配者、精霊の守護者、魔神、世界を導く者

 

 スキル 創造魔法(パッシブ/アクティブ)

 

 固有スキル 創造魔法、言語理解、迷宮掌握、生活魔法、人化


「そうか・・・。俺はスキルで人化しようとしてたからできなかったのか・・・。ゼノはこの固有スキルを俺に託すために自分の体をダンジョンに取り込ませたんだな・・・。ありがとうゼノ。大事に使わせてもらう」

 ステータスを見て色々考えることも出てきたが、ゼノのことをみんなに報告するために、ひとまず49階層をあとにすることにした。

 48階層の広場に転移すると、クリス、アル、ディーネ、ルタ、サラ、シロ、クロが目を瞑り手を合わせていた。


 それは遠く離れた場所にいる、ヴィア、ジョイナ、リア、リムも一緒だった。

 シルフィスにいたヴィアとジョイナは

「っ!?ヴィア!」

「ええ。ゼノ様の魔力が消えた」

「こ、これは。竜の加護がついた?」

「ええ。ジョイナ。祈りを捧げましょ」

 2人は目を瞑り手を合わせた。

 別の大陸を漂っていたリアとリムは

「リア。あやつが逝ったみたいじゃ・・・」

「真人ちゃんに託したみたいね・・・」

「我らにも加護を残しおって・・・」

「辛気臭いのはダメね。どこか人がいないところでお酒を飲みましょう」

 2人は友人を送るように杯を掲げた。


「お、お前たち・・・」

「主様。ゼノ様は逝かれたのですね?」

「ああ。満足そうだったよ。よくわかったな」

「はい。私たちにも竜の加護をつけていただきました」

「なにっ?それはよかったな。ゼノには感謝しないとな」

「はい。私たちもゼノ様に色んなことを教えていただきましたわ」

 その日の夜、真人はゼノの石碑の前にいた。

 49階層にあった倉庫は50階層へ移動し、階層追加で新たに51、52階層を作り出し、50階層にあった自分の空間は、52階層へと移動させた。

 今まで空間そのものに家具類を設置していたが、クリスの住む家と同じような家を作り、玄関から出入りするようにした。

 ゼノの魔石は、51階層へと移動した核の部屋に今まであった無属性の魔石と融合させると、ブゥンという音とともに魔石に蓄積させてあった魔力が一気にダンジョン全体へ拡散した。

 魔石がダンジョンの核として機能すると、ダンジョンの核、真人自身と2つの核が存在することになり、片方がいなくなっても、ダンジョンは消滅しないということになる。

 最後に49階層のゼノの元には、誰でも訪れることができるように転移魔法陣を設置し、50階層の倉庫、51階層の核の部屋は魔力認証式にして誰も入ることができないようにした。

 以前は階層自体の空間を創造魔法で作り出したが、真人が外に出るとなると、空間そのものが失くなる恐れを危惧して階層追加で階層を作り魔力認証式にしたのだ。

 階層の移動を終え、人化をして石碑の前であぐらをかいて座りこんだ真人は

「転生して、150年以上経って、ようやく自分の体になったな。お前は酒をと言ってくることはなかったが、こういう時ぐらいいいだろう。

 これはディーネが隠し持ってたのを取り上げた、ドワーフに作らせていた酒だ」

 真人はカップを2つ取り出して酒を注ぎ、一口飲んだ

「ああ・・・。美味いな。酒の味がする。初めての酒がお前と味わえてよかったよ」

 人化した体に感動しながら、ゼノへの感謝の気持ちを深めた真人であった。


 翌日、真人は49階層の広場でクリスとアルを待っていた。

 転移魔法陣部屋から出てきた2人は真人を見るなり、口をパクパクさせて驚愕した。

『マ、マスター!?つ、ついに・・・!?』

「あ、主様!?そのお姿は・・・」

「ああ。ゼノに託してもらってな」

 クリスは転移で真人の胸に飛び込み、アルも抱き付いてきた。

「主様。おめでとうございます」

『・・・・・』

「アル。ありがとう。クリス?どうした?」

 クリスは真人の元から転移で1メートルほど離れた。

「ク、クリス?一体どうしたんだ?」

 真人はクリスの行動を不思議に思いながら見ていると、突然、膨大な魔力を発し輝き始めた。

 それは今までの比ではなく、真人もアルも目を開けていられないほどだ。

 輝きがおさまり、そのを目にすると、今度は真人が口をパクパクさせて驚愕することとなった。

「ク、クリスなのか・・・?」

「マスター。ずっとこの時を待ってた・・・」

 そこに現れたのは、身長150センチほどで、膝まで伸びた白銀の髪をなびかせ、黒い眼をした、色白の可愛い少女のように見える女性だった。

 そして・・・何故か裸だった。

 アルは別の意味で口をパクパクさせており、すぐにハッとなると、最近、真人に空間収納を付与してもらった春風から、急いで毛布を取り出し、クリスに覆い被せた。

「クリス!なんで裸なんですの!?服を着なさい!主様は向こう向いて!」

「服・・・?持ってない」

「あ、ああ・・・」

 アルは自分が持っている服を取り出すとクリスに渡した。

 真人はポカンとなりながら軽い返事を返し、クリスは渋々と服を着ると

「アル・・・。胸が苦しい・・・」

「くっ!だまらっしゃい!貸してもらっただけでもありがたいと思いなさい!」

 どうやらクリスは出るところは出ているようだ。どことは言わないが。

 それに反して、袖や丈はサイズが合わずにプラプラさせている。

 アルは真人に服を着たことを告げると、落ち着きを取り戻した真人はクリスに近づき、しゃがみ込んでクリスの袖口を折り畳んでやった。

 するとクリスは感激した様子で抱きついてきた。

「もう!クリスはしょうがないですわね。あれだけ我慢したんですもの。無理ないですわね」

「ん?アル。クリスが人化できることを知っていたのか?」

「えっ?えっとそれは・・・」

 アルは真人に抱き付いているクリスを見るとクリスが答えた。

「うん。マスターが人化できるまでずっと待ってた。本当は名前をつけてもらった時にできるようになった」

「そんな昔から・・・。大分待たせてしまったか。すまんなクリス」

「ん。大丈夫。これからは一緒に外にも行けるし、旅にもついて行ける」

「そうだな。その話しで思い出したんだが、今日お前たちを呼んだ理由なんだが・・・」

 真人は少し緊張した様子で言った。

「よ、夜のお相手ですの?」

「マ、マスター。アルより私の方がよ?」

「クリス!ケンカを売ってるんですの!?」

「私の方が強い。ディーネみたいにケチョンケチョンにしてやる」

 真人はハァとため息を吐くと

「よし。2人ともこっちに」

「あ、主様。2人ともですの・・・?」

「マ、マスターなら2人ぐらい余裕で手玉に取れる?」

 クリスとアルはまだ勘違いしてるらしく、狼狽えながら真人に近づいた。

 すると真人は握っていた拳を振り上げて、そのまま2人の頭へと振り下ろしゴンッという音がした。

「「ぎゃんっ!」」

 2人は頭を押さえてうずくまった。

 アルは悶絶しているようだが、クリスは「マスターにぶたれた・・・。でもこれが痛み?」と困惑してるのか感激してるのかよくわからない反応をした。

 真人は気を取り直し、話しを戻すことにした。

「2人にお願いしたいのは、俺が本当にダンジョンの外に出れるか、確認するのについてきて欲しいからだ」

「そ、そういうことでしたら・・・」

「マスターがもったいぶるから期待したのに・・・」

「なんだ?ついてこなくてもいいぞ?」

「っ!?お供しますっ!」

「 ついていくっ!」

「よし。では1階層に跳ぼう」

「わかりました」

「わかった!」

 1階層へと転移した3人は、外に向かって歩いていた。

「マスター。街でも行く?買い物とか」

「デ、デ、デートってやつですわねっ!?」

「アル。違う。アルがいるからデートじゃない」

「なんですって!私を邪魔者みたいに言って!」

「フッ。みたいじゃなくて邪魔者。私とマスターは夫婦めおとだから」

「おい!クリス。その言葉は誰から聞いたんだ?」

「ん。ゼノに聞いた」

「どういう意味ですの?」

番いつがいって意味。フフン!」

「なっ!?クリス!嘘はやめなさいとあれほど言ったでしょう!」

「はぁ、2人共、いい加減にしないと、どこかの階層に跳ばすぞ?そうだな、50階層とかいいぞ?あそこは人が誰もこないから静かだし、なにより出ることができないからな」

 2人はブルッと体を震わせると大人しくなった。

「あと、今回は出れるか確認するだけだからすぐ戻るぞ」

「「え~」」

「なんだ?」

「なんでもありません!」

「なんでもないっ!」

 3人はついに入口にたどり着き、2人は何事もなく入口から外へと出ていったが、真人はあと一歩というダンジョンと入口のさかいで足を止めて躊躇してしまった。

 2人は真人がついてきていないことに気づいて振り返った。

 そしてすぐに真人へと駆け寄り、手を繋いできた。

「マスター!大丈夫!私がついてる」

「主様!大丈夫ですわ!私がそばにいますわ」

「お前たち・・・。ありがとう」

 真人は2人と一緒に一歩を踏み出し外にでた。

「ふむ・・・。特に変わらんな。魔力が薄く感じるぐらいか」

「主様。そんなものですわ。なにせダンジョンの方が発展してるんですもの」

「マスター。ジョイナなんてプルプルなって動かなくなったんだよ!」

「ははっ。そうかそうか。戻って問題がないか確認しないとな。むっ!?」

 5分程外に出て、戻ろうとした際に困惑の声を真人があげると、2人が心配そうに見てきた。

 なぜなら念話が届いたからだ。

 その念話の相手は、なんと遠く離れたヴィアだった。

『真人様!外に出られるようになったんですか!?』

『ああ。ゼノのおかげでな。それより元気か?』

『私は元気ですっ!旅に出られるのはどれぐらい先でしょうか?』

『焦ってるようだが、何かあったか?』

『いえ。から念話してるので魔力消費が激しくて。枯渇はしないですが、体力の方が追い付かなそうです』

『大丈夫か?よし!俺は5年後に外へ出ることにしよう!』

『わかりました。その頃にお迎えに参ります。あっ。ジョイナも隣で元気です!って叫んでます。それでは楽しみにしております』

 立ち止まって念話して、少しだけだが元気な声を聞けた真人は頬が緩んだ。

「マスター?どうした?」

「主様どうされました?」

「ん?なに、ヴィアから念話が届いてな」

「ヴィアから!?シルフィスからですわよね!?相当きついはずですわ!」

「ああ。ヴィアもそう言っていた」

「それでマスター。ヴィアはなんて?」

「俺が旅に出る時には迎えに来てくれるそうだ。あと2人とも元気だとさ」

「そう。元気ならいい」

「主様。旅に出るまでの期間は予定してますの?」

「ああ。ヴィアにも伝えたが、5年後に出る予定だ」

「マスター。そうと決まれば早くダンジョンに戻って準備しよう!ほら早く!アルはここに置いていこう!」

「なんですって!クリス待ちなさい!」

「あっ!おいクリス!そんなに引っ張るな!」

 ダンジョンへ戻り、問題をないことを確認した真人は、旅にむけて準備を進めていくのであった・・・。

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