第2話 冒険者
ダンジョンに転生してから2ヶ月程経っただろうか?
疑問系なのは時間が全くわからなかったからだ。
もしかしたらまだ1ヶ月かもしれない。
お腹も空かず、眠くなることもなく、ただダラダラとしてるつもりで過ごしていたが、ふとこの暗闇の状況をなんとかできないことかと考えた。
それにしてもよくこれだけの間、暗闇にいて気が触れなかったものだ。
今思えば普通の人間ならおかしくなっている気がする。
自分では何も感じなかったが、ダンジョンだからだろうか?
そう思いながら、この暗闇を明るくするために、魔法を作ってみることにした。
創造魔法でイメージして造るだけだが・・・。
さっそくイメージしてみる。
「うーん。魔法の名前を考えてなかったな。適当なのでいいか。いや待てよ・・・。初めての魔法だからな。ここは異世界の定番らしい名前でいこう!・・・ライトッ!」
しかし、周りは暗闇のままだ。
失敗したのかと思い、もう一度挑戦しようとしたところ、ある考えが頭をよぎった。
「もしかして、意識だけだから周りが暗いのか?だとすると、俺の意識次第で明るくも暗くもなるってことか?」
ということで、魔法ではなく意識の中で明るい空間をイメージしてみる。
「うわっ!?目がーっ!目がーっ!」
目の前が真っ白になったことで某セリフをつい叫んでしまったが、ツッコんでくれる人がいるはずもなく、恥ずかしくて冷静になった。
言ってみたかっただけのようだ。
だが、正解だったみたいだ。
これにより、自分が前世で住んでいたリビングをイメージし快適な空間を作りあげたが、体がないため気分がまぎれる程度だった。
それから俺は、リビングにはテーブルにソファーやテレビ、キッチンに和室、庭に至るまで夢中で作り込み、憧れであった一軒家を手に入れたように思えた。
暇だったこともあるが、やはり気分は大事である。
相変わらずレベルは1から上がっておらず、魔法の方もからっきしなので、そろそろ対策をとっておきたい。
そう思っていると
『ダンジョンポイントを取得しました』
と頭の中に直接問いかける不思議な声がした。
「ん?ダンジョンポイント?」
『おいおい!ほんとに魔の森の入口にダンジョンが出来てやがる!』
今度は野太い男の声が聞こえてきた。
明らかにさっきとは違う声だ。
声の方に意識を向けてみると、パッと視点が入れ代わり、光を浮かべながら歩いている4人組がいた。
正面ナナメ上から見下ろす位置だ。
おそらくこれが迷宮掌握の効果なのだろう。
『ガイス。どうする?もう少し進んでみるか?』
背負い袋のような物をからい、ナイフを手に持ち、周りを警戒しながら先頭の男が言った。
『いや。出直そう!明日朝から調査する。それにしても周りに魔物の気配がないし、妙に静かだな。よし!戻るぞ!』
『『『了解!』』』
そこで4人組は
俺はその様子を見ながら考えていた。
「あれが冒険者ってヤツか?ダンジョンに侵入するとポイントが入るってことだな。明日も来るって言ってたし、今のうちにポイントの使い方を確認しておくか」
ダンジョンポイントはステータスに載っていた。
ダンジョンポイント S――100P A――80P B――70P C――50P D――40P E――130P F――20P その他――10P
取得条件・・・自らの意思でダンジョンに侵入すること。また一般人、盗賊はその他となる。
「これは侵入者のランクに応じてポイントが変わるってことだな。さっきの4人だけで320ポイントはあるみたいだから相当強いんじゃないのか?さて問題はポイントで何ができるかだな」
保有ポイント 320P
魔物配置――50P 罠設置――50P 宝箱設置――150P ボス配置――200P 階層拡張――500P 階層追加――1000P
「なるほど。大体わかってきたぞ。これで冒険者をおびき寄せてレベルとランクを上げていけばいいんだな。魔物も定番のスライム、ゴブリン、オークってとこだろう」
俺は計画を練りながらワクワクする気持ちを抑え明日に備えた。
翌日
『ダンジョンポイントを取得しました』
「おっ。ついにきたか!」
ダンジョンの外はわからないが、一歩でも足を踏み入れると内部の様子がわかるようだ。
それに同じ人物が入ってきても再度ポイントがもらえるのもありがたい。
『なんだ!?明かりがついてるぞ!昨日はついてなかったはずだ!』
『落ち着けガイア!先頭は斥候のリードに任そう。魔物の気配がないから大丈夫だと思うが、すぐに戦闘できるように警戒しながら進むぞ!』
『『『了解!』』』
ちなみに明かりについては、歓迎の意味もこめて俺がつけた。
どうやら罠設置に含まれるみたいだ。
外そうとしたり、壊したりすると罠が発動するらしい。
さらに、今日は昨日より人数が多いため期待に応えなければならない。
そこで鑑定を使ってみることにした。
ガイス・ダンパ(ヒューマン) LV63 剣士
HP1500 MP800
称号 Sランク冒険者
ガイア・ダンパ (ヒューマン) LV58 戦士
HP1200 MP660
称号 Aランク冒険者
リード(ヒューマン) LV50 斥候
HP1000 MP500
称号 Bランク冒険者
ジョイナ LV48 魔術師
HP800 MP2100
称号 Bランク冒険者
他にFランクの戦闘奴隷5人、サポーター5人の14名で来たようだ。
よく見れば他の項目も見れたかもしれないが、彼らが先に進み始めたので後回しだ。
『それにしても・・・何もないな。ただの洞窟なら嬉しかったが、確実にダンジョンだな。出来たばかりかもしれないが、昨日なかった明かりがあるってことはそれだけ成長してるってことだろう?』
『ええ。魔の森の魔力の濃さを考えると急成長してもおかしくないわ。それにしても魔物がいないのは不思議ね』
ガイスが言うとジョイナが答えた。
彼女は魔術師のため、ある程度魔力が把握できるようだ。
やっぱり定番の魔の森なのか!とはしゃぐ真人。
先頭にリード、前衛にガイアと戦闘奴隷2人、中衛にガイスとジョイナ、その後にサポーター5人、最後尾に残りの戦闘奴隷3人が進んで行く。
ちなみにこのダンジョンは、幅3メートル、高さ3メートル、長さ3キロの土や岩がむき出しの状態で出来た洞窟のような作りだ。
今はまだという前提がつくが。
一行が普段の探索より倍の時間をかけながら進み、そろそろ休憩するべきかと迷っていると、異変が起きた。
ついに魔物が現れたのである。
彼らは警戒していたのにもかかわらず、いきなり現れた魔物に驚いた。
ダンジョンの魔物というのはどこから生まれているのかわかっていないが、通常ならば人目のつかないところで発生して
しかし、ここは真人が管理する意思があるダンジョンのため、当然いきなり現れたのも真人の魔物配置のせいだ。
『おいっ!いきなり現れたぞ!みんな構えろ!スライムだけのようだが何があるかわからん。周りの警戒もおこたるな!』
リードは斥候ということもあり察知系のレベルは当然高い。
だが、気配も感じさせずに現れた魔物に、訝しみながらもみんなに注意した。
出てきたのがただのスライムだったため、戦闘もすぐに終わり、黒い煙となってダンジョンに消えた。
今はドロップアイテムの魔石をサポーターが集め、ガイスたち4人は話し合ってるところだ。
『なぁ?ダンジョンの魔物っていきなり出てくることなんてあったか?』
『いや。ないな。スライムだから助かったが、所見殺しもいいとこだ』
『そうね。隠蔽を使ってる感じもなかったわ』
『しかし、スライムしか出てこないのを見るとやはり出来たばかりのFランクってとこだろう。魔石の純度は他のダンジョンと比べて高そうだが、これだけじゃ判断できん。一度休憩してから先に進むぞ!』
リードが疑問を口にすると、ガイアとジョイナも同意し、ガイスはスライム程度ならば問題ないと先に進むことにした。
一方、真人は悩んでいた。
「さて、これからどうしようか?魔物を出すか?罠を設置するか?やっぱり魔物はスライム、ゴブリン、オークか。それに広さに応じて呼び出せる数も変わるようだ。確かに狭い洞窟に大量に魔物を出しても身動きできなくなるだけだな。ポイントもまだ少ないし、とりあえずスライムで様子見してみるか」
魔物配置をおこなうと、冒険者の10メートル程離れた所にスライムが10匹現れたようだ。
しかし、いきなり現れたため冒険者たちは慌てていた。
「し、しまった。普通は事前に配置しておかないとおかしいよな」
だが、出てきた魔物がスライムだったことで冒険者たちもすぐに討伐したようだった。
「ふぅ。倒したか。しかし、スライムだから弱いな。この辺もレベルとランクが上がれば強いのが出せるのだろう。ん?ポイントが半分返ってきた?なるほど。倒されると半分返ってきてもう半分は倒した相手にドロップアイテムの魔石として変換されるのか」
冒険者たちも休憩しているため、真人はこれからの方針を考えることにした。
短期的と長期的な問題だ。
短期的にとは、単純にこの冒険者たちのことだ。
「あと2回ゴブリンを出して
おそらく、この冒険者たちはどこかの国から調査の依頼で来ているはずだ。
国にたくさんのSやAランク級の冒険者がいると思えない。
いくら魔の森だからと言って、スライムやゴブリン程度でそう何度も高ランクの冒険者が来ることはないだろう。
よってF、E、Dの低ランクの冒険者が長期的にダンジョンにくるように仕向けなければならない。
まずはポイントを貯めることが最優先だろう。と思いながら冒険者たちの観察へと戻ったのだった。
ガイスたちは休憩を終え進み始めた。
すると10分も進まないうちに
『待て。魔物の気配がある。俺が見てくるからみんなは待機していてくれ』
『本当か?俺には何も感じないが・・・』
『リードが言うなら間違いないだろう。とりあえず待機だ。リード任せた。気を付けてくれ』
ガイスが送りだすと、リードはコクンと頷きながら自身のスキルを発動させて進んだ。
やがて5分程で戻ってきた。
『300メートル先にゴブリンが5匹だ。隠れる場所がないからすぐに接敵する。戦闘準備してくれ』
『よし。わかった。リード先頭を頼む。みんな聞いたな!警戒しながら行くぞ!』
『『『了解!』』』
周囲を注意しながら進むと、リードの言うとおり5匹のゴブリンがいた。
4人はなぜ今回は気配を察知できたのか疑問に思いながらいつでも飛び出せるように構えた。
ゴブリンもガイスたちに気付きすぐに襲いかかった。
『グギャギャギャ!』
しかし、スキルを発動し、気配を消していたリードのナイフによってすぐに2匹は喉を切られ絶命し、別の2匹もガイアのガントレットで殴られ絶命し、残りの1匹はジョイナが魔法で仕留めて魔石に変わった。
ドロップした魔石をサポーターたちが回収しているのを見ながらガイスは
『やはり魔石の純度が他のと比べて高いな。ダンジョンの魔力の密度が高いからか?』
顎に手をやり、小さくつぶやきながら考えていると
『ガイス。魔物の気配だ。油断しないで進もう』
リードが声をかけてきた。
『わかった。さっきの陣形で行こう』
すぐにまたゴブリンが5匹現れたが、何のトラブルもなく魔石へと変えられた。
ここで一行は、2回目の休憩をとることにした。消耗はないが念のためだ。
真人はまたしても悩んでいた。
「よしよし。ゴブリンも倒したな。次は
そこで問題が起きた。
宝箱は設置できる。
だが中身がないのだ。
真人は知らなかった・・・。
普通のダンジョンでは、魔物に倒された冒険者の遺物が宝箱としてドロップすること、それに低ランクの魔物に倒されるような冒険者は装備もろくに揃っていないため、Fランク程度のダンジョンには宝箱は発生しないことを。
仮にここが高ランクのダンジョンであれば高ランクの魔物が出てきて、それなりの冒険者たちが訪れ、何らかの理由で倒れた冒険者の装備やアイテムが宝箱として発生しただろう。
よって、ここで倒れた者がいないため中身はないのだ。
そんなことを知らない真人は
「よしっ!ここは創造魔法で作ってみるか!」
と意気込んでいた。
真人が何を作ろうか悩んでいると
「定番はエリクサーとかミスリルの剣だよな~」
と非常識なことを言い始めた。
ここにこの世界の住人がいたらギョッ!となっていただろう。
いくらなんでも作れないだろうと思いナイフを作ることにした。
実際はこの世界で真人だけが作れるのだが・・・。
真人はナイフを作るつもりで
「こうゆうのはイメージが大事だからな。しっかりイメージして。創造魔法!」
と叫んだ。
リビングのテーブル前のソファーに座っているつもりの真人は恐る恐るテーブルを見てみると、そこにあったのは・・・。
包丁が2本だった・・・。
「あっ・・・あれっ?」
ナイフをイメージしたつもりが、どうやら料理で使っていた包丁をイメージしてしまったようだ。
「これはこれでいっか♪」
と気分よく納得した。
今のところ触れることはできないので、宝箱に直接送り込むイメージをすれば設置完了だ。
のちに、この包丁の切れ味がすごすぎて、某国の専属料理人と冒険者ギルドの解体チームが取り合いになることなど真人は知らない・・・。
あれからガイスたちはさらに奥に進んだ。
30分程進んだだろうか、視界に何か映った。
「ん?行き止まりか?ということはここが一番奥か?」
「アッ、アニキ!宝箱があるぞ!やったな!」
「待てガイア。こんな出来たばかりのFランクのダンジョンに宝箱だと?リード。聞いたことあるか?」
「俺はないな。ジョイナは?」
「私もないわね。罠なんじゃないの?ミミックとか」
「Fランクにミミックか?リード。罠がないか調べられるか?」
「やってみよう。ちょっと待っていてくれ」
・・・5分後
「罠はないようだ。開けてみよう」
リードが
4人は緊張しながら中を覗きこむ。
「こっ・・・これは?片刃の短剣か?」
「いや・・・ナイフじゃないか?」
「2本あるってことは短い双剣じゃないか?」
入っていたのは木の柄に20センチほどの片刃がついた物だった。
男3人が呆然としていると、ジョイナがそれを手に取った。
「あっ!おいっ!大丈夫か!?」
ガイスは焦った。
ダンジョンの宝箱から出る物には希に呪いがかけられているのがあるからだ。
「大丈夫よ。悪い感じはしないわ。それに見て。すごい薄いけどよく切れそう。材質は何かしら?」
「鉄じゃないのか?とりあえず報告のため持ち帰ろう。鞘がないから魔獣の革に包むしかないな」
ガイスはそう言いサポーターから魔獣の革をもらい包んでいると、刃先が当たっただけで魔獣の革が切れてしまった。
「おいおいっ!とんでもない切れ味だな。魔鉄に魔法でも付与されてるんじゃないか?」
不安になりナイフの扱いが慣れているリードに聞いてみることにした。
「いや。魔鉄でもここまで切れないだろう。それに魔鉄ならもう少し銀色のはずだ。これは黒の上に刃先だけ銀色だから研いであるだけだろう。薪の間に挟んで縄で縛ろう。持ち帰るだけならそれで十分なはずだ」
「わかった。今から戻れば日が沈む前には戻れるな。そこで野営して明日の朝に出発だ。魔物が出るかもしれん。帰りも油断するなよ!よし!みんな行くぞ!」
こうして冒険者はダンジョンをあとにした。
その頃、真人は滝のように冷や汗をかいていた。
気づいてしまったのだ。核の存在に。
これは、ダンジョンマスターになったことによっての直感と言っていいだろう。
そう。核というのは真人自身なのだ。
冒険者が
おそらく、真人の存在と冒険者との距離が壁一枚だったのかもしれない。
今現状、最奥から真人への通路はないが、これから先、ダンジョンが大きくなるにつれて核に、真人へと通路が繋がるかもしれない。
核とは常に狙われる存在と思っていていいだろう。
かもしれないで安心していたら確実に痛い目に合う。
しかし、この情報を今回で知れたことは計り知れない。
ダンジョンを最大限に大きくし、強力な魔物を配置し、奥深くにひそめばあらゆる対策を取れるだろうと考えに至った真人は少し安心したのだった。
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