炎上中の推しVTuberを救ったら、なぜか同棲することになりました

夜兎ましろ

第1話 推しの炎上

 VTuber。

 それは、2Dのキャラクターを使用して配信をする職業のことである。最近、人気のある職業だ。


 その中でも、桃田ももたネルというピンク色の長髪が特徴的なVTuberは特に有名だ。彼女に影響されてVTuberに興味を持ち始めた人も数多く存在するだろう。


 俺、西園悠太にしぞのゆうたもその一人だ。


 俺は桃田ネルの影響でVTuberに興味を持ち、彼女に憧れ、自分もVTuberとなり、配信活動をしている。


 俺は高校二年生のため、学校を終え、家に着いてから配信を始めるので結構大変だと感じることもあるが、推しである桃田ネルの配信を見たりすることで自分も頑張ろうと思うことができている。


 だが、そんなある日のことだった。


 朝起きて学校へ行く準備をしながらスマホでネットニュースを眺めていると、とんでもない記事が目に入ってきた。


「なんだこれ……」


 その記事には、大きな見出しで『大人気VTuber桃田ネルに彼氏発覚か!?』と書かれていた。

 俺は目を疑った。


 もちろん、彼氏がいることが悪いことだとは思わない。

 だけど、彼女には熱狂的なファンが多く、アイドルのような扱われ方をすることもある。


 そんな彼女が配信で彼氏バレしてしまったというのだ。

 そのことに対して激怒するファンもいるだろう。


 VTuber界の第一線で活躍を続けている彼女が自ら公表したとは思えない。


 俺は記事の内容に目を通す。


「なるほど、そういうことか」


 この記事によると、彼女が配信している最中に男性の声が配信に一瞬ではあるものの、のってしまったということらしい。

 彼女はその声は弟のものだと言っているが、それを信じない視聴者が多く、ネット上で炎上しているようだ。


 今まで応援してきた人の言葉に耳を傾けることができないなんて、ファンとして失格だろう。

 俺はもちろん彼女の言葉を信じるさ。


 信じるし、助けてあげたいとも考えている。


 だが、俺が彼女を救うことができるのか?


 普通に考えれば無理だ。

 だが、俺はこのまま推しの配信が見れなくなるのは何としても避けたい。


 俺は解決策を考えながら学校へと向かった。


 ♢


「何か策はないかな」


 教室に着いてからも、俺は一人で頭を抱えていた。


「よし、相談するか」


 俺は親友にこのことを相談することにした。

 あいつになら相談できる。


 俺が心から信用できる相手だからな。

 相談するならあいつ以外に適任はいないだろう。


 そんなことを考えながら俺は待ち続けたのだが、全く登校してくる気配がない。

 もしかすると、体調を崩してしまっているのかもしれないな。


 その後、ホームルームを終え、授業もあっという間に四時間目まで過ぎていき、昼食を食べる用意をしていると教室に俺の待っていた人物がようやく登校してきた。


「遅かったな」

「色々とあってな」

「体調崩したんじゃないかと思って心配したよ」

「いやぁ、悪かったな。見ての通り、俺はめっちゃ元気だから心配しなくて大丈夫だ」


 教室に着き、すぐに昼食の用意をするこの男は俺の親友である米山涼よねやまりょうだ。

 せっかく登校してきたのだから、昼食を食べながら相談しよう。


「なあ、涼。相談したいことがあるんだけど、いいか?」

「相談? なんだ急に。嫌なことでもあったのか?」


 本当に涼は察しがいい。

 まあ、俺が相談するときは大体、何か嫌なことがあった時なので、そのせいで察したような気もするが。


「俺の推し、知ってるよな?」

「ああ、もちろん」

「その推しのことで相談があるんだ」

「推しって、あのVTuberの桃田ネルのことだよな?」

「そうだ」

「やっぱりそうだよなぁ」


 何やら涼の反応がおかしいような気がする。

 まるで何か知っているかのような反応だ。


 もしかして、本当に何か知っているんじゃないのか。

 それは、俺にとって都合がいい。涼が知っていることを教えてくれたら、桃田ネルを助けるための策が見つかるかもしれない。


「なあ、涼。実は何か知っているんじゃないのか?」


 涼の肩がビクッと震えた。


「どうして、そう思った?」

「いや、どう考えてもお前の反応がおかしい」

「そんなに変だったか」

「まあな。涼がいいなら、教えてくれないか?」


 涼は数秒、うーん、と唸りながら悩んでいるような様子を見せた後、一度ため息をついた。


「悠太になら教えてもいいか」

「教えてくれるのか!」

「ああ、教えるよ。だけど、絶対に誰にも言うなよ?」

「分かった。約束するよ」


 どうやら、誰にも言ってはいけないほどの大きな秘密らしい。

 そんな重要なことを教えてくれるということは、俺は涼から信頼されていると捉えていいのだろう。

 少し嬉しさを感じる。


「今まで誰にも教えたことがないんだけど」

「……うん」


 俺と涼の間に緊張感の張りつめた空気が漂う。

 涼を見て、こくり、と頷いた。


「実は、俺……なんだ」

「…………」

「あれ? 聞こえてるよな? おーい?」

「……えええええええええええええええええええええええ!?!?」


 涼はとんでもない暴露をした。


 涼が桃田ネルの弟?


 えっと、つまり、親友の姉が俺の推し!?


 俺の頭は完全に混乱してしまった。

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