サイパー

@deuteranopia

第1話 国語ワロタ

俺の名はサイパー。

親は俺のことを武志たけしと呼ぶ。


世を正し、人を救う、それが俺の使命。

どんな奴でも俺からは逃れられない、どんな企みも俺は見逃がすことはない。


さぁ、どこにいるぅ?おまえがどこにいるかわかってるんだぞぉ?……




…今日もビルの隙間に身をねじ込み、悪しき心の動きを監視する。

人はここを暑い、臭いと言うだろうが、俺は一流スナイパーの精神力を持ち合わせる、僅かに嗚咽がする程度だ問題ない。


そうして中腰のまま浅い呼吸で監視網を張っていると、やがて右手のビルの角から女性の声がサイパーの耳に近づいてきた。


『、、それでさっ!かろうじで気づかれなかったの彼に、バレたかと思ってほんっとヒヤッとしたんだから!』



…掛かったぞっ!…


そうつぶやきながらサイパーはすかさず対面に仕掛けたスパイアイカメラを起動し、近づいてくる女性にピントを合わせる。

見ると、黒髪ロングの女性が横にいるミルクティ色のボブ女性の手を揺らし、楽しそうに歩いて来る姿が写っていた。



…クックックッ、すべてお見通しだ!…



『えー!彼氏ってそういうとこ鈍いんだー、おもろすぎワロタ「おいお嬢ちゃんちょっと待ちな」…きゃあぁッ‼…』



サイパーはビルの隙間からやっとの思いでねじ出ながら、世のため彼女達のため話の途中を割って入った。



「オレの名はサイパー。 隠れても、隠しても、オレの前ではすべてお見通しだ。

そこで…だ、お嬢ちゃん…、かろうじで、、、じゃ、ねえな? 決っしてかろうじでではないぞ!」


すると二人は揃ってサイパーから距離を置き、

『ビックリしたぁぁ…、…はぁあっ??』と、一流の番人であるサイパーに向かい挑発的な返答をしながら表情を変える彼女達。


そのファーストコンタクトを経てサイパーは思った。

…見たところ彼女らはまだ若い。ここで挑発に乗っては一流がすたる…そして、


「わかった、少しお嬢ちゃん達があわれに思えてな驚かせてスマン…、だがしかしだ、、その身体カラダをくれ、とは言わん。

ただ俺の監視網にお嬢ちゃん達が引っかかったまでだ、聞くがいい。」


サイパーは常日頃悪人にも情けは必要だと考えてはいる、そのため彼女らもたしなめてやらねばと優しく語りかけたが、彼女達はその言葉に顔を寄せ合い、眉間みけんにシワを寄せながらヒソヒソと口を動かし合った。



…可哀そうな女共だ…、こやつらには解るまい…、俺の目にかかればすべてのコソコソはおおやけだということを!…



「キモ…だ!キモニキきちゃーだ!今のヒソヒソ話は‼ どうだ!

…まぁ良かろう落ち着くがいい、何もしない、危害は到底加えない。この際ハッキリ言おう、タイプではある、二人ともだ。


いいかお嬢ちゃん達、だ。かろうじで、ではないぞ‼ 、「」だ!

辛うじて気づかれなかったの彼にぃぃあへへ~だ‼分かったかそれが国語日本語だ!!」


悪の化身に長居は無用、そう心で唱えながらサイパーは彼女達に背を向け歩き出した。が、すぐに補足事項に気がつき振り返る。


「言い忘れていた化身ど、、いやお嬢ちゃん達…、お前達は東京出身だろう、、ワロタは関西圏の言葉だぞ‼

あ~わろたわろたっ、わろてもたわぁハッハッハ、わろたったわー、がルーっツ! それを化身共は捻じ曲げ!そんな使い方していることにワロター!」 


そう言いながらサイパーは再び背を向けた。


彼にとって、悪から救われた者の御礼はいつでも面倒をこうむる、感謝ほどむず痒いものはない。



…さてと、、今日も俺はひとつ世を人を救った。

からと言って特に嬉しさも満足感もない、ただやるべき事をやったまでだ。

背中からは暖かい太陽と、彼女達の熱い視線を感じる…。


そして、後方から吹きつけた風、その風に僅かな声が乗ってきた。…感謝はいいぜ…


〰〰〰キモスギワロタ-〰〰〰




俺の名はサイパ―。

あらゆる動きを監視する日本のセンチネル。防衛のエキスパートだ。

仕事はしない、金は救助者の寄付金頼み。

行政は俺を不労所得者とさげすむ。


それでも俺は世を正し、人を救う。それが俺の流儀。

人は、行政は俺を武志たけしと呼びやがる。

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