第4話「自覚」

「すぅ……すぅ……」


 ミィは常にディルに包まれて眠っている。ローブの上に横になり、騎士団の上着を布団代わりにかけて。

 とても幸せな夢を見ているのだろう。その表情はとても穏やかだ。


「ディル、にーちゃん……」


 今のミィの目標はディルのお嫁さんになること。その意味を恋慕なのか親愛なのか、どの程度の感情で口にしているのかはわからないが、少なくともこれからその感情を理解することになるだろう。




◇◆◇◆




「むぅ……」


 ミィの視線の先にはリリとサリー。恐らく孤児院で最もディルにくっついている二人だ。

 最近ミィは少しずつディルに自分以外がくっついていることに違和感を覚え始めていた。それを口にすることはないが、表情は少しムスッとしている。


「ミィ、おこってるの?」

「ううん、そんなことないよ〜」


 そんなミィにはミレイがよく絡んでいた。


「ディルさんのこと見てるの?」

「そうなの」


 ちなみにミレイがディルを『お兄ちゃん』と呼ぶのは二人きりのときだけなので、誰も知らない。


「リリもサリシャもディリーもくっつきすぎなのー」

「みんなディルさんのこと大好きだからね」

「むう……ミレイも?」


 その一言にまた表情が少しムスッとしてしまう。


「そうだね、私もおにい、じゃなくてディルさんのことは好きだよ」


 ミレイはディルによる寝る前の回復魔法のおかげで本当に寝つきが良くなり、今や毎晩寝ることが楽しみになっているほどだ。


「ミィもね、ディルにーちゃんのことすきなの」

「ローブだっけ? 貰ってたもんね?」


 何気にミィはミレイにこういった話を教えている。リリなどには話していないが。


「うん。それでね、また新しい服ももらったのー」

「よかったね」


 ディルに包まれて眠っているのはミィだけではなく、実はディリーもである。

 しかし、ディリーは勝手にディルの部屋から拝借した服を着て寝ているので、話が少し変わってくるだろう。

 リリについてはディルの部屋に侵入して布団の中ですんすんもぞもぞするだけで、まだ盗みには手を出していない。


「ほんとはね」

「うんうん」

「ディルにーちゃんにはミィだけの騎士様になってほしいのー」


 少しだけ頬を赤らめるミィは愛らしい。


「あらぁ……それって嫉妬しちゃってる? ミィもぐいぐいいかないと!」


 これは嫉妬だ。そして独占欲でもある。

 リリは態度や口にわりとはっきりでるが、ミィはあまりそういうことはなく、このように少し離れたところからムスッとしていることが多い。


「は、はずかしいよ……」

「そんなことしてると誰かに取られちゃうよ」

「んー……それはやだ」


 ミレイはミィより一歳年上だ。そのせいか、ちょっとお姉さんぶる節がある。これはリリやディリー、サリシャに対してもだ。

 こんなことを言っているミレイも本当はディルに甘えたかったりする。もっとも、ミレイの好きは恋慕ではなく、親愛的なものであるが。


「よし、いってこーい!」

「ひゃっ」


 ばんっ、とミレイに背中を押されてミィがディルの元へ向かう。




◇◆◇◆




「ディ、ディルにーちゃん!」


 リリとサリーにいつもの如く絡まれていると珍しくミィちゃんが突撃してきた。


「ミィ! おにいちゃんはわたしのだよ!」

「リリー! ディルにーちゃんはミィの騎士様なの」

「わ、我は……ディルが好きだぞ?」


 急に俺の取り合いが始まってしまった。それだけ懐かれているって思うと嬉しいんだけど、みんなの表情が思ってるより本気なんだよな。喧嘩になる前には止めよう。

 それでも、どうしても生暖かい目で見守ってしまう俺であった。


「兄貴! ちょっと手合わせしようぜ! 今日はオレとテオで一対二だ!」

「はいよ、ちょっと待ってね」


 さすがにこの三人を放置しちゃうのは忍びない。


「喧嘩はするなよ?」

「おにいちゃんへの愛をくらべてるの!」


 相変わらずリリは強気だな。


「ディルにーちゃん……ねむくなってきたぁ」

「愛をくらべる? なんでじゃ?」

「……」


 ああ、混沌としているなあ。リリが喋りまくっていて、ミィちゃんはもう飽きたのか眠そうで、サリーは頭に疑問符を浮かべている。

 ちょっとみんなで遊ぶかな。


「よーし、みんなでぽこぺんでもやろうか?」

「「「やる!」」」


 ミィちゃんも目が覚めたようだ。


「ミレイちゃんとディーちゃんも誘ってきもらえるかい?」

「わかったー」


 ギャランとテオにはあとで手合わせすることを伝えて一旦遊びに誘うことにした。ちなみにぽこぺんをやるときは毎回俺が最初に鬼役をやっている。


『だーれがつっついたー?』

「うーん……テオか?」

「僕じゃ……ありません! みんな、隠れろー!」

「いーち、にー、さーん――」


 多分ね、遠慮がちに突っつく感じがミレイちゃんだと思う。俺は基本的に鬼をやりたいので、わざと思った子の名前は出さない。

 答えはあとで聞いてみよう。あとはここからかくれんぼのようなゲーム性になる。意外とやりだすと熱くなっちゃうんだよね。

 その後は二時間ほどぽこぺんで遊んだ。ちなみに、隠れる時に誰もいなくならないようにしっかりと範囲のルールはしっかりと決めている。




◇◆◇◆




「はぁ、かっこいい……」


 ミィはギャラン、テオと手合わせをしているディルを眺めていた。

 みんなと遊んでいると眠くなってしまうことがあるけど、ディルを眺めているとそんなことはなく、いつも彼を目で追っている。


「ミィだけの騎士様になってほしいの……」


 日に日に増す、ディルへの想いは褪せる様子がない。


「んんん! ぜったい、お嫁さんになるの!」


 これが恋慕とはっきり自覚したわけではなさそうだが、改めてミィはディルと将来も一緒にいたいと強く願った。

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