夢現の群像劇 〜Infinitum Concerto〜

秋野 瑞稀

向日葵依と不思議の図書館

序章~Prelude~

001【不思議の図書館】

 ――こんなところに図書館なんてあったかな?


 学校の帰り道、いつもと違う道を通って帰ってみようと思い歩いていた。しかし「一度も通ったことがない」ということではなく単純に少し遠回りだというだけだ。そんな折に“向日むこう 葵依あおい”は、その図書館(?)を見つけた。


 「んー……。まぁ入ってみっかぁ」


 葵依はもとより悩むタイプでは無い。入ってみる気分になったから入ってみる。それだけだ。


 館内は少し薄暗く、しんと静まり返っている。司書すら居るのか分からない。


 ――誰も居ない……? まぁ少し見てみるくらいは開いてるんだし、いいよね?


 本棚には見たことの無いような文字でタイトルの書かれた本が並んでいる。間違いなく普通の図書館ではない。


 ふと一冊、手に取ってみる。と、同時に葵依の背後から物音が聞こえ、焦って本をもとの位置に戻した。振り返ると入り口横のカウンターにきれいな女性が一人立っていた。


 ――司書さんかなぁ?


「あら、ごめんなさい。驚かせてしまったようね」

「ふぇ⁉ いや、大丈夫です」

「人が辿りつくことなんてまれだから、奥の部屋で少し作業していたもので」


 声まで透き通るようなきれいな声だった。


「いや、ボクも人がいないと思って勝手に……って、ん? 今、辿りつくことなんてって言いました?」

よりも、あなた……本は好き?」


 ――そんなことって……。


「好きですけど……」

「そう……。じゃあ、奥の部屋……特別にみせたげよっか?」

「え……⁉」

「だぁって、久しぶりのお客様なんだもんっ!」


 弾んだ声でそういうと、葵依は司書のお姉さんに手をひかれ、カウンターの奥の部屋へと案内された。


 ――おぉ……綺麗なところだ。


 案内されたその部屋は、建物の中だというのに現実とはまるで思えない、とても幻想的な空間だった。

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