七不思議と殺人王

遅延式かめたろう

第1話 これはただの 日常

「まったく、七不思議というのは廃墟とか空き家とか深夜の学校とか。人がいない不気味な空間を好むんでしょうね」


 押切おしきり透明めいはお気楽そうに話しているが、現在誰もいない廃ビルを現在猛ダッシュ中である。

 長い間放置されていのか足場が悪く、きちんと道を見ていないとバランスを崩してしまいそうな場所だった。

 そんな場所に入ってやることと言えば、肝試しや犯罪をすると連想するのが『外の街』では常識に入るだろう。


 しかし、この街ではそうもいかない。


「はぁ、はぁ。ちくしょうが……よっ!」


 その証拠として、左手で握っている拳銃を全身の体幹に思いっきり力を入れて発砲させる。

 バァン! とほぼ全ての窓が締め切った空間内では外よりも大きく音を反射させる。

 根元から途切れた触手は、びちゃりびちゃりと気持ち悪く地面を跳ねればやがて消えていく。


(全く、人間と同じタイプだったらいいのに。どうしてこうも形がどの生物にも当てはまらなくなる時点で戦いずらくなるんだ?)


 ズモモ……と塊が動くような音が、遠くにいるはずの自分に聞こえてくる。

 重低音がしっかりとして、しかしその速さはナメクジと同じようなゆっくり待ってくれる優しい怪物ではない。

 きっと今逃げている自分の脚のよりも早いと、耳を通してゾクリと感じさせる音だった。


「ま、途中で瓦礫なりなんなりをまとめてくれたお陰で、たいへーん見やすくなっていますがね。こりゃ逃げて一旦休憩するよりも正解の択を引いたか?」


 場所は最上階。すぐ上は屋上と言う場所ということは既に確認済み。

 少しだけ窓の外を見ると、もう同じ高さの建物は無くなっていた。

 そこまで逃げないといけない程厄介な敵というと、そうも言わずここに来た理由はただ敵の親玉……核に近いそれがここにいると確信したため移動した。

 それにしては攻撃手段である触手が、上に登って行けば行くほど予想通り多くなっていた。


「拳銃で倒せるから余裕はあるとはいえ、これが無限に撃てるチート武器では無いからな。となると、コッチでの戦闘から避けられないっか」


 銃を握っている方とは逆の手の力を入れ戻し、持っている武器について再度認識する。

 サバイバルナイフに近い形をした、自分の握り拳に形を完全に合わせた特注もの。

 『ナイフと拳銃』のみで戦う、それが



 押切おしきり透明めい、またの名を殺人王・・・の戦闘スタイルである。


 

「さーて、俺の残弾とオマエの体力。どっちが先に底に着くかな? 都市伝説野郎がよ!」

『グジュ……グジュジュア……』

「なんで口の器官が見えない触手野郎から、そんな不気味な声が聞こえるのやら……おおっと?!」


 顔面を直接狙ってきた触手を、なんとか間一髪で避けるも頬には一線と赤い液体が流れた。

 攻撃手段をとにかく減らすために発砲するが、何回も反響した銃声が五月蠅く感じてきた。

 一方的な消耗戦に見える戦況だが、押切にとっての手応えは感じていた。

 そもそも、最上階一歩手前ここまで来ている時点で勝利を握ったようなものだからだ。


「さぁて、このまま拳銃一本で勝たせてくれないか? 何回もオマエみたいな戦っては来たんでね。たまにはこんな戦闘スタイルだっていいだろ?」

『ギグシャ……グジュリェ……』

「というのは建前で、本当は右手ナイフを超近距離高速で動くオマエに使いたくな……いだけななよなぁ!!」


 まだ戦闘が始まって序盤の頃は、拳銃で対処しきれないような攻撃はナイフで対応していた。

 直感的な攻撃が出来るため、こういう敵にはある意味特攻に近い武器でもある。

 しかし弱点としてそのリーチの短さ、そしてもし握っている手が直接攻撃を喰らったら?


 相手は都市伝説、怪異としてひとまとめにされている存在。

 はたして攻撃を受けた時に右手の形状とかは残るだろうか、安全という確証の無い相手に冷や汗が流れる。


「まったく、素直に倒されてくれよな。これじゃあキリが無いし俺は帰れない。意味は分かるか?」

『ジュルル……ドュジュグ……』

「つまりは、全力を出していいかってことだ。ま、知識を持たない怪物のオマエには分からないだろうけどな」


 ザンッ! ボトッ……


『ドジュグル?』

「そういえばどこから俺の姿が見えているんだ? 音で反応したということは……音を使って空間を把握するタイプか」


 押切は答え合わせをするように、銃弾の残りをほぼ全て使った。

 元々オフィスだったのか、机やパソコンといった物は最初から置いてあった。

 人がいなくなって大分経ったのと、目の前の触手の怪異が壊し過ぎてしまったこともあってほとんどが原型を留めていない。


「確かにそんな生物なら現実にもいるな」


 空間の中に伸ばされた大量の触手は壁や天井を貫通することは出来ず、瓦礫とかしたそれらは全て端に追いやられている。

 ではもしそれが山のように出来ていたら?

 それを壊してしまったら?


「じゃあ、こうするしかないよな?」


 バァン……と左手が握っていた銃口から、たった一つの弾丸が放たれる。

 山がの一部が崩れると、上から崩れていき下は巻き込まれながら崩れていく。

 同時に発生された大量の音声にコンクリート色を纏った触手達は、敵の居場所を見失ったように暴れまわる。

 見る人によっては怒りや焦りを感じる動きをしているが、『こういったもの』に一切の容赦が無いこの男は冷たい目でそれらを大人しく観察する。


(なんともまぁ愉快な光景だな。、俺にとっては地獄そのものだな……さて)


 今度は先程とは大きく異なり、音を一切立てずに最短ルートを一歩ずつ、ゆっくりと歩いていく。

 途中で邪魔な職種は全てナイフで切り落としたが、その行動も8回に届くほどじゃなかった。

 どうやら怪異の触手どもはとある1つの固体から生まれている物。

 そして音の振動で敵の位置を調べるが、仲間が死んだ場所は調べないらしい。




 さて、屋上まであとはドア1つだけ。



 

(まさか、入り口は俺様が塞いでるから貴様は開けられないぞー。何て言わない……よな?)


 まさか、分からない。

 何故ならここは、そういった噂話が現実に現れる街である。

 そんなこともあってもおかしくないな、と中ば諦めた状態で



 ゆっくりと、ドアを開く。

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