第16夜 ザムザと美生の邂逅

エスカーは裕生を連れて、アガナの街の端っこの路地に入って行った。




「もうすぐダチんとこ着くかんねー!!!!」




とエスカー。


ああ、と裕生。


路地には若者がたむろしていて、いかにもガラの悪そうな奴ばかりだ。




「な、なんかやべーとこ来たな…」


「そう?こんなもんじゃん」




裕生がぽつり呟くとエスカーがすぐさま反応して返した。




(これが普通と思うエスカーの神経って…)




と裕生は思った。


そうこうしてる間にエスカーは路地裏のある所に入って行き、裕生も仕方なくそれに付いて行った。




そこは所謂ギャングとかがたむろする所で、そこにいる連中は若いがタトゥーが入ったり酒を飲んでいたり何やら煙草のような物も吸っていた。




(すげーガラ悪いんですけど…)




そう呟きそうになるのをグッと堪えて、裕生は頭の中でそう呟いた。




「ちわー!!!!エスカー来ました!!!!」


「おうお前か、どうだ調子は」


「いい感じです!!!!仲間見つけてこの町出るとこです!!!!」


「仲間…?この町出るって…????」




酒をやりながら煙草のようなものをスー…と深く吸い吐くと、そのタトゥーだらけの、髑髏の眼帯を付けた筋肉達磨の若者は言った。


雰囲気のあるその男と一緒にいる若者達に完全にビビり、裕生は冷や汗だらけになった。




「あ、こいつです。ユーキって言います。ねっ?!」




とエスカーはそう言って裕生を前に少し押し出した。




「あっ、ひゃっ!ひゃい!!!!ユーキれす!!!!」




裕生はカーっと顔を赤らめ脂汗をダラダラかいた。




「ちょwユーキwwwwもしかビビッてんの!?!?ダイジョーブだって、この人達いい人達だから!!!!」




とエスカーが裕生に言うが、裕生は一向にその若者達が信用ならなく、取り敢えず作り笑いを浮かべた。




「大丈夫だよあんた、俺もあんたと同じか少し上の年だから。何もしねーから。なあ?」




とリーダー格のタトゥーだらけの若者が他の若者達に同意を仰ぐと、他の若者達は、おう、そうだ、などと言った。


それを聞いて、裕生は漸く胸を撫でおろした。




「俺はジョニー、ここの若い奴らの頭やってる。何の用で来た?話聞くぞ」






―――――――――――――――――――――――――――――――――






所変わり妖精村。




「ずっとこの時を待っていたのよ…あの子が…パナキが紗生に転生して成長し、私が子を沢山産み育てるこの時を…」


「「「「「「!?!?!?!?」」」」」」




一同は理解が追い付かなかった。




「どういうこと!?!?」


「パナキって誰!?!?!?!?」


「紗生はレオナ一世の転生した姿じゃないの!?!?!?!?」




妖精達と清教徒達から発せられる言葉たちを遮ったのは、やはりベルデだった。




「パナキ…!?紗生はパナキ姫の生まれ変わりなのですか…!?」


「「「「「!?!?!?!?」」」」」




そのベルデの言にレリーサが答える。




「そうよ…あの子はパナキの生まれ変わり…姉様の生まれ変わりじゃないわ。姉様は今どこに転生しているかまだ分かっていないの…。貴女達は何も知らないのね…」




それに一同が激しく反応する。




「!?!?!?!?」


「姉様!?!?誰のことです!?!?」


「レオナ一世がレリーサさんのお姉さんってこと!?!?」


「よく分かんない!!!!よく分かんない!!!!」


「パナキ姫!?!?!?!?って結局誰なの!?!?!?!?」




と一同はザワザワガヤガヤ言い合った。




「パナキはお母さんの前世のお姉さんの子供なの」




と美生がポツっと言うと、一同は「!?!?!?!?」とよく分かったような分からないような顔をした。




「よく分からない…んだけどミキちゃん…」




とザムザは徐に美生に話しかけた。


金髪碧眼の見目麗しいその少年に話しかけられ、美生は少し動揺した。




「っ何よあんた、ちゃん付けとかしないでくれる!?馴れ馴れしいっ!!!!」


「ご、ごめんなさい…何と呼べばいいですか…」




と、2人のラブコメのような会話が繰り広げられる。




「ツンデレ…」




と、ボソッとラムソスが呟く。


それに美生がすぐさま反応して




「誰がツンデレだよ!!!!」




と言い返した。


まごうことなきツンデレである。




少し間を置くと美生は




「美生ちゃん…美生ちゃんでいいよ…」




と言った。




「「「「「「え?」」」」」」




と一同が美生に聞き返す。


あんた一度馴れ馴れしくちゃん付けするなと言ったじゃないか、と思いながら。


すると美生は




「あ、あんた!!!!金髪の青い目のあんただけだよちゃん付けしていいのは!!!!分かった!?!?」




と言い放った。




「は、はぁ…。では…美生ちゃん…」


「…はい」




という会話がザムザと美生の間で繰り広げられた。




「僕はザムザです、美生ちゃん…」


「…ザムザ?」


「ええ」


「ふん、覚えておくよ」




とまたザムザと美生の会話が続いた。


一同は何やら和やかな気持ちになったが、ラムソスは釈然としなかった。




(ザムザと馴れ馴れしくしないでよ!!!!)




と、ラムソスは心の中で思っていた。




しかし先ほどまでの手に汗握る展開とは打って変わった和やかなこの雰囲気は一体どうしたことなのだろうか。






―――――――――――――――――――――――――――――――






所変わってヒール総本山。




「ま、待ってダンテ君!!!!ちょ、コケる!!!!」


「ダンテでいーよ!!!!だってアザムがさっさと早歩きするから~~~~!!!!」




と、紗生の手首を掴みながらダンテがさっさと前を歩いていくアザムの後を追う。


前かがみで歩かざるを得ない紗生はようやっとつまずき、そこでようやっとダンテもアザムも歩みを止めた。




「キャッ!!!!」


「大丈夫!?」


「!?」


「いった…うわ、泥がッ」




こけた紗生の腕やら顔やら足には泥がついている。




「早く歩きすぎなんだよアザムぅ!!!!何でそんなに早く歩くんだよ!!!!どこに行く気なの!?!?」


「いや…君も私の手首を掴むから…」




と紗生もダンテに言ってみるがダンテは聞いちゃいない。




「山を歩いて足を鍛えてやろうとしたんだが…要らん世話だったか?」




とアザムがようやっと口をきいた。




「いや、それは有難い。有難いんだが、先に言ってくれないと分からない」




と紗生はもっともなことをアザムに言った。


そりゃそうだ、とダンテも腕を組みながらうんうんと力強く頷いた。




「そうか、すまなかったな。で、続けるのか?」




とアザムは素っ気なく泥だらけの紗生の体を上から下まで見ながら言い放った。


それを聞いて紗生は




「ま、待て!!!!今泥を払うから…」




と言うと、ダンテも




「アザムちょっと待ってあげて!!!!」




と紗生を気遣った。


アザムはふう、とため息をつくと、




「早くしろ」




と言い放つと紗生が泥を払い体勢を整えるのを待って、3人でまた山の中を歩き回った。


今度はダンテが紗生の手首を掴むことはなかった。






――――――――――――――――――――――――――――――






ヒール総本山、ヒール組員の洞窟付近。




切り株に腰掛け華留美は、ふぅ、と溜息をついた。




「アザム、紗生姉のことが好きなのかな…」




そう華留美が言葉を漏らすと、それを聞いていたヒールのアザムのファンが寄って来た。




「お前みたいなちんちくりん、アザムさんが相手するわけねーだろ!!!!」




キャハハ、と女子組員3人は華留美を囲んで華留美を嘲笑った。




「えっ…?何て言ったの?」




華留美は何を言っている分からず女子組員3人に聞き返した。




「こいつ何喋ってるか分かってねぇぜェー!!!!好き勝手言ってやろーぜ!!!!」




華留美が罵詈雑言を女子組員3人に言われ放題言われていて、なんだか悪いことを言われているのかな、と華留美が少し涙目になっていると、そこに華留美の背後の草むらからジャンの部下のジェントルが現れた。


ジェントルは名前とは裏腹に女子である。




「おいオメーら、いい加減にしろよ。そのちんちくりんはジャンさんのお気に入りだ。手出しはさせねーからな。散れ!!!!」




そうジェントルが言い放つと、チッ行くぞ、と言い捨てるとアザムのファンの3人は揃ってその場を逃げ出してどこかに行ってしまった。




「あ、あの、、」


「大丈夫かカルミん?ジャンさんが呼んでるから行くぞ。あんな奴らの言うことなんか気にするな。あいつらは馬の糞だと思え」


「え?なに?」


「ああ…」




そう言えばこいつは言葉を理解出来なかったんだな、とジェントルは思い返すと、とりあえず華留美をジャンとフェインと皆のいるところに連れていこうとした。




「行くぞ」


「えっ?何????」




グイっと華留美の手を掴み立たせると、ジェントルは口のマスクを指で下げながら




「ジャ ン さ ん が よ ん で る」




と華留美に分かるようにゆっくり話した。つもりだった。




「え?ジャン????もしかしてジャンが呼んでるの????」




どうやら伝わったようでジェントルはホッとすると、マスクを元に戻しコクコクと大きく頷くと華留美の手首を掴んで早歩きに歩き出した。

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