第7夜 死闘
華留美がヒールに来てから、既に5日が過ぎていた。
華留美は大分ジャン達と馴染み、ジャンとはすっかり友達になっていた。
初日から始まった着せ替えごっこはまだ続いており、寝ても覚めても着せ替えばかりして2人ははしゃいでいる。
それをフェインは腕を組みつつ眺め、反抗者が襲ってこないか見張っている。
アザムはというと、1番隊を軽く蹴って起こしている。
顔を洗い朝飯を摂るように促す。
ダンテは一番隊よりも早く顔を洗いに来ていた。
バシャッといい音を出し洗い終えると、持っていた手ぬぐいで顔をごしごし拭いた。
目やにもちゃんと取る。
そして踵を返すと、森の中へと消えて行った。
「おいアザムは?」
華留美に上等のリボンを付けつつジャンはフェインに問いかける。
「ん…仕事じゃねーか」
「ん!そか!後で見に行くかー?カルミん!」
「え…?何て言ってんの…」
「そか!行くか!うはは!!」
「おい…通じてねえぞ…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
所変わり、アガナ、死の森を抜けた森の中ー。
ザザザザザ------と、人影が複数高速で移動してゆく。
追う者と追われる者。
ドッ、と木の幹に足をつかえたと思いきや瞬時に体勢を整えて臨戦体勢に入る。
追われる者はあの岡本紗生だ。
目つきがまるで別人のようにツリ目になっている。
眉間に皺も寄っている。
服もボロボロだ。
追う者は盗賊団ヒール。
剣を構えると、案の定追う者達は追われる者に一気に殺到していく。
ギイン……!!!!!
剣と剣が交わり、ギギギと鈍い音を発する。
そうしてる間に木の上より矢が放たれる。
それに感づいた紗生は剣をはじき後方に跳ぶ。
が、そこにもまた敵がいて、剣で刺されそうになるところを傷つけられる程度ですませ、剣で1人1人みねうちにしていく。
しかし次から次から敵が現われてきりがない。
実はここ数日ずっとなのだ。
少し寝たと思えばすぐに敵が現われほとんど寝ていない状態である。
意識が朦朧とする中、漸く親玉が姿を現す。
アザムだ。
「……俺の部隊を倒すとはなかなかやるじゃねえか」
「……お前が親玉か!」
ぜえぜえと息が上がる。
「まあそんなところだ」
「それにしても卑怯もいいところだな!女1人にここ何日も奇襲をかけてくるとは……恐れ入ったぜ」
口調が変わっている。
ここ数日で何かが変わったのが分かる。
「……ここ数日?何の事だ。
俺は今日しかお前の相手をしていない」
「……何!?」
(……ジョーのアマか)
そうアザムの脳裏によぎった。
きっと昨日以降は「ジョー」の部下が相手していたのだろう。
「……有難い、いい情報を貰った。
代わりにいいものをくれてやる」
「何!?」
そう言い放つと、アザムは自分のマントをばさっと脱ぎ捨てると、背後に隠し持っていた剣を取り出した。
大人用だ。大きい。
「……お前も剣士か」
「そういうことだ。お前ら、こいつは俺の獲物だ。手を出すな」
そうアザムが命令を下すと、周りの連中は一気に静まり返り、各々の武器を鞘に戻した。
そして正視する。
ヒール1の強さを誇るアザムとここ数日の猛攻に耐え続けた女剣士の一戦。
何の娯楽よりも魅力がある。
シーン……とする空間の中、ブワッと風が起こる。
そして近くから運ばれた松の実がぼとぼとと落ちる。
それと同時に2人は殺到した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それは追われている途中だった。
森の中に入ってすぐ、違和感を覚えた。
来た!!
と思った瞬間、ザムザとラムソスは木の根っこと根っこの間の穴に落ちてしまった。
「ザムザ!ラムソス!!」
岡本紗生の声がエコーで聞こえたかと思うと、何とそこは一面の花畑。
あの世にでも一瞬にして送られたか?と2人は思ってしまったが、それは違ったようだ。
ベルデが現われたのだ。
「おばあさん……!これは一体……」
「うむ……落とし穴じゃ。お前ら運が良いな」
「紗生さんは!?紗生さんはどうしたのですか!!」
「……紗生のことは、奴にはやらねばならぬ試練なのじゃよ」
「試練!?!?そんな……!あの軍勢を見たのですか!?よくそんなことが……!僕は戻ります!!!」
とザムザ。
それを止めるラムソス。
ベルデと妖精達も止めに入る。
「貴方、あいつらの怖さを知らないからそんなことが言えるのよ……!」
「お前達に勝てる相手ではない!」
「なら尚更何故紗生さんだけ助けないのですか!!!!!」
その言に皆がしいん……と静まり返る。
そういえばスミレとエナが見当たらない。
「……スミレさんとエナさんはどうしたのですか」
「……奴らにもやることがあるのだ」
「やることってなんですか……」
そう言うザムザの目には涙が滲んでいた。
それに連鎖反応を起こしてラムソスも涙ぐむ。
「……僕もザムザに賛成です。酷すぎます!僕らだけが助かって紗生さんは見殺しですか?そんなのってないです。0点です」
「ラムソスまで……」
ふう、と溜息を漏らすと、ベルデは彼女の役割を話し始めた。
「あやつの運命はな……」
「お婆さん、その前に紗生さんに僕らが無事なことを伝えて下さい」
「む……そうじゃな」
そう言ってベルデは、水晶玉に手をかざして目を瞑り、念を送った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
“紗生!聞こえるか!!!”
いきなりのノイズに、紗生は我が耳を疑った。
と同時に、周りを見渡した。
「?どうした……」
と不思議がるアザム。
「……いや、声がするんだ……お前は聞こえないのか?」
「……?声?特に聞こえないが」
「!何!?」
そうこうしてる間にまた声は聞こえてくる。
“ワシじゃ、ベルデじゃ!!”
「!ベルデ!!」
「?」
“お前、戦っている最中だろうから簡潔に言うが、これはテレパシーじゃ!
他の者には決して聞こえない!!”
「……!?テレパシーだと!?」
「……何をごちゃごちゃ言っている!!!」
と、業を煮やしたアザムが紗生に殺到する。
「くっ!!」
危ういところで剣を受け止める。
重い。
流石はヒール1の強さを誇る。
この小さな体にどれだけの力が込められているというのか。
(戦闘の最中申し訳ないが、これはお前に課した試練じゃ!!これを乗り切ればお前は強くなる!!!!)
「試練だと!?何を寝ぼけたことを……!!!!」
と怒り心頭にそれをアザムに向ける。
こちらの剣撃も重い。
普通の女の子とは思えない。
(エナとスミレを使えばお前を容易にこちらに転送させることが出来るのだが、肝心の2人が今用足しに行っている。それにそう戦闘が多いと、お前を転送しにくい!)
「……ふん、そうか。
何、私1人でも……十分戦える!!!!」
と、ギイン!!!!とアザムの剣撃を撥ね返した。
「ふん、言うな……だが、その減らず口もいつまで続くかな……!」
と、アザムは剣を大きく振りかざすと、ブン!!!!と音を立てて剣を振り下ろした。
ファヤウは誤ってその剣撃で剣を落としてしまう。
(ファヤウ!!!)
「~~~~私は岡本紗生だ!!!!」
と、隠し持っていた短剣(倒したヒールのを拝借した)で応戦する。
(いいかファヤウ、ラムソスとザムザは無事こちらで保護しておる!あとはお前次第じゃ!!!)
「……そうか、それは有難いな」
ホッとすると、息が抜けたせいか短剣を斬撃で落としてしまう。
そこにとどめを刺そうとアザムが大きく振り下ろすと、紗生は死を覚悟した。
ザクッ!!!!という音が響く。
アザムはファヤウの脇に剣をつき立てた。
(ファヤウ!!!!)
シーン、と周りが静まり返る。
「……何のつもりだ」
どうやら剣が刺さったのは地面のようだ。
紗生の目からは一筋だがいつの間にか涙が流れていた。
「……3日間戦い抜いた末のこの戦いぶり、見事」
「………………」
「ついてこい、お前に褒美をやる」
「……信ずる証拠は?」
「……お前を攻撃しない。束縛も……悪いようにはしない」
(な、なんじゃ?何が起こっているんじゃ??ヒールに連れて行かれるのか?)
ベルデのテレパシーのみが紗生の脳裏に響く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます