第56話 悪役令嬢VS後輩

あれから一日が経ち、今はもう放課後。私は歩いて闘技場に向かう。……にしてもほんとあの能力は面倒臭いからな。さすがの私も一日使って色々と試行錯誤させてもらった。そしてレイスの要件でマイ達には先に帰ってもらっている。


「……遅せぇよお前。ま、いいか」

「待たせちゃってごめんね。ちょっと色々と準備してたんだ」

「準備、か。オレに負けた時の言い訳でも考えてたのか?」

「まぁそんな感じかな?私が勝った時に君がどんな反応をしてくれるか考えてたの」

「はっ、大層な自身だな。戦う前からもう勝ち気取りかよ」

「口だけじゃないってこと、証明してあげる。さ、早く来なよ」


私が闘技場に着くと、観客席の方で退屈そうにレイスが座っていた。そして軽くやり取りをかわして、レイスは舞台の方に飛び降りてきた。いや、気づいたら舞台にいた。


「ルールは武術大会と同じだ。降参発言を持って勝敗を決するものとする。それでいいな?」

「うん、それでいいよ」

「それじゃあ、オレが合図をするぞ。覚悟はいいな?」

「うん、もちろん」

「よし、始めるぞ。用意……始め!」


レイスが手を下ろしてまた手を上げる。そして、私とレイスの勝負が始まる。やっぱりレイスの初動は安定して棒立ちだ。なら、私から行かせてもらおうかな。……まぁ、無駄なんだけどね。


「水槍!」

「おいおい、昨日のあれを忘れたのか?そんくらいじゃ全然オレに当たらねぇぞ」

「覚えてるよ、覚えてる。もしかしたらいけるかなって思ったけど……やっぱりダメだったか」


私はレイスに水槍をぶつける。が、一瞬でレイスは私の背後に移動して水槍を避けた。……ま、まだまだもっと試したいことはあるからね。これからだよ、これから。


「《弾丸バレット》!」

「おぉ、さっきよりは早いじゃねぇか。だが……こいつもおせぇな。難なく避けれる」

「ここまで早くしてもダメなのか。……熱っ」

「俺もずっと防御耐性でいるほどバカじゃねぇからな。そろそろ攻めさせてもらうぜ」


極限まで早めたバレットをレイスに撃ち込むが、案の定それも避けられた。そしてそれと同時に、私の手に火傷の痣ができた。……これでもだめなんだ。


「……なら、これはどうかな?……降り注げ、炎の剣よ!」

「おぉ、さすが噂の最強様だ。これはさすがの俺も為す術ない……なんて、言うとでも思ったか?」


私は手を天に掲げ、空に向けて大量に炎の剣を放った。やがてそれは雨のように降り注ぐ。一発ドカン系だったら確かに避けられるかもしれないけど……長時間続く技はどうだろう、と思ったけど炎の剣は全部撃ち落とされた。……さて、試したい事は色々と終わった訳だし……少しだけ遊ぶか。


「レイス、こんなのはどうかな?」

「またバレットか……おぉ、早い早い。正直ビックリだよな、これでもまだ本気じゃねえんだからよ」

「断言するよ、レイス。君は私に勝てない。だってもう私君の魔法わかっちゃったから」

「そういえばお前、頭もかなり冴えるんだったな。んで?オレの魔法がわかったと?」

「うん。君の魔法は時間を操る魔法、でしょ?」


どんなアニメやゲームでも必ずいる時間停止持ちのチートキャラ。このゲームではその枠がレイスだ。ただ、レイスは時間を止めれるだけでそれ以外の魔法は使えない。


「おぉ、流石だな。……オレの魔法は時間を操る魔法だよ。……まぁ主に時間停止と言った方が正しいか」

「その指輪?いや、ピアスか。ねぇレイス。そのピアス、魔具でしょ?」

「すげぇ、そこまで見抜いてくるか。その通りだ。このピアスは炎の魔力が宿ってるピアスだ。コイツを経由してじゃねぇとオレは攻撃魔法が使えねぇからな」


そう、レイスはせっかく時間を止めれても攻撃魔法が使えないので赤い星型のピアス……というか魔具をしている。そして魔力の応用で、時間を止めて炎を鞭にして攻撃してる。


「さ、種は割れたよ。レイス、諦める気は?」

「もちろんねぇよ。わかったところでって話だ!」

「じゃあそうだなぁ……はぁっ!」

「今更火球か?そんなのは通じな……しまっ!」


私は六発の火球をレイスに向けて放つ。うち三つにフェイクを混ぜて。そう、三つだけ時限爆弾にした。つまり最初の三つを避けようと移動すれば爆発に巻き込まれる。かと言って移動しなければ火球も爆発も両方くらう。そして、案の定レイスはそれに引っかかる。


「よし、これで一ヒット。もう同じ手は通じなくなったわけだけど……どう?降参する気は?」

「一発食らっちまったが……それはオレが油断してたからってだけだ。まだ降参はしないぞオレは」

「そっか。じゃあもっと攻撃を当てたら降参するかな?」


よし、多分もう勝った。じゃあ次は……これだ。


「水槍!」

「……なっ!?」

「あれ?ほんとに私とリリーの戦い見てた?」

「強化魔法の上書き……それでオレが時間を止めるよりも前に攻撃をする、って訳か」

「そうそうご名答!」


私は強化魔法で速力を上げて、光速のようなスピードの水槍をぶつける。あ、もちろん狙いを少しずらして。投げた水槍はレイスが反応するよりも先にレイスの頬を掠めて、そして切った。


「光栄に思えローズ。オレがここまで追い詰められたのはお前が初めてだ」

「嬉しい限りだけど……まだ降参する気は無いんだよね?」

「もちろんだとも。まだこれからだぜ」

「……じゃあ、もう勝負決めちゃうか」


私は、多少多めの魔力を足に集中して速力強化を使う。そしてこれで勝負あり、だ。


「は……?な、なんでだ!魔法が!」

「教えてあげよっか?ねぇレイス、これ、なーんだ?」

「な、それはオレのピアス!いつの間に奪いやがった!」

「丁度いまさっきだよ、速力強化に魔力を超振ってその勢いで奪う。いくらレイスともいえど流石に見切れないでしょ?」

「なるほどな、これが最強のローズ・コフィールか。……オレの負けだ、センパイ」

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