第3話 悪役令嬢のバッドエンド回避準備
「……ん、あら?もう朝なのね……とりあえず朝の支度は済ませちゃいましょうか。」
目覚めた私はすぐに洗面所へと向かい、顔を洗う。
その途中で、一人のメイドと出会う。
「は……初めまして、ローズ様……私、本日よりメイドを務めさせていただきますアベル・スターリアと申します……」
金髪の三つ編み、とても可愛らしい桃色の目、天性のメイドかと言わんばかりにとても似合っているメイド服……いやはや、間近で見るとこんなにも可愛いだなんて……!
先程彼女も名乗っていたが彼女の名はアベル・スターリア。
従来のルートではそのままローズ様のお世話をすることになりとてつもなく手を焼いており、最終的には鬱陶しいと感じたローズ様によって冤罪を被せられ、ラーベルの魔法によって殺されてしまう悲しいメイドであり、1000人くらいの規模で行われた人気投票では攻略対象を差し置いて4位にくい込んでくるほどの人気キャラクターだ。
「もう存じているかと思うけれど、私はローズ・コフィール。これからよろしくね、アベル」
とドレスの裾を持ち上げて軽く会釈をする。
するとアベルはどこか安堵したような、どこか不安そうな顔で去っていった。
「……間近で見るとあんなにも可愛いのね、アベルって。あの可愛さなら四位になるのも納得できる気がするわ。」
少しアベルとの事を思い出しながら私は洗面所に辿り着く。
そして、いつも前世でしていたみたいにちゃちゃっと顔を洗う。……従来のローズ様は全て魔法で済ませているようだけど、私が慣れないのでまぁ今のうちは洗面所に行って洗うことにしておこう。
「そうだ……ラーベルをイリアになすってイリアに申し訳ないと思うのだから、せめて黒魔道士くらいはこの私が倒しておきましょう。」
ラーベルを全てイリアに擦り付けるわけなのだから、極力イリアも傷つけない選択で動いた方がいい。その補助として、まず第一に黒魔道士を倒す。その黒魔道士は洗脳等々の操る魔法に長けている、が戦闘能力自体はそこまで高くないのとこの私の魔力をもってすればまず間違いなく勝てるだろう。
ただ……この時代の私って魔力って制御できたっけ……
「……とりあえず一回試してみるしかないわね」
と、私は髪の毛もセットして、外に行く。正直言ってローズ様はほとんどの魔法を使える。なぜならそれほどに魔力が凄まじいからだ。なのでいくらこの時代と言えど、木の人形くらいは簡単に作れるはず。結果としてはまぁうん、予想通り作れた。創造の魔法はひとまず魔力を抑えれる。次は問題の攻撃魔法だ。ローズ様が本作で使っている魔法は、火の魔法、水の魔法、風の魔法の3つだ。風……はローズ様もあまり使っていなかったから後回しでいいや。
「……さて、それじゃあ始めるわ…………炎よ!」
と唱えると、手から小さい火球が出てきて人形にぶつかり、人形は焦げた。
「よしよし、ひとまず火はOKね。じゃあ次……水よ!」
今度は両手に3つ、計6つの小さな水玉が出てきた。
手をかざせばその6つは木の人形へと突撃し、木の人形の腕を壊した。
「……おーけーおーけー、わかったわ。とりあえず魔力制御は順調ね。なら、少しだけ思いついたのを試して見てもいいかもしれないわね。」
回復の魔法で木の人形を直して、今度は少し詠唱を変えてみる。
「右手に炎よ、左手に水よ!」
と唱えると、右手にはさっきの小さな火球が、左手には1つの水玉が浮かび上がっていた。そしてそのまま両手を合わせて……放つ。
「……よし!これも上手くいったわね!やはりこの魔力はとてもいいわ!」
放った二つの玉は混ざり合い、1つの黒い玉となり木の人形にぶつかり、貫いた。
火の魔法は水の魔法に弱いという特性を持っており、強い水であれば火を消してしまうことが出来る。そして火を消されたら火球は黒く硬いただの玉となる。一方水玉は勢いを軸とする攻撃技。なので早ければ早いほど強くなる。それを少し利用して、今さっき私が思いついたこと。火球と水玉をひとつに合わせて放つ……そして貫く。そう、前世の記憶から生み出した技?…なのかどうかは知らないけど、銃弾だ。もう少し私の魔力が大きくなればきっと水玉を見えない速さで打つことも可能になるはずだ。それさえ出来れば本当にただの銃弾になる。
「……さて、魔力も制御できるようになったことだし……早速黒魔道士を探しに行きましょうか。」
とりあえず魔力の制御が大丈夫だと知った私は、一度部屋に戻りお母様に報告をする。
そしてちょうど運良く玄関にお母様の姿が見えた。
「あら、おはよう、ローズ」
「おはようございます、お母様。」
「朝から運動するのはとても健康にいいことだわ。これからも続けていきなさいね」
「はい、わかりました。それとお母様」
「どうしたの?」
「少々出かけてまいります。必ず、16時までには戻ります。」
「そう、わかったわ。気をつけていってらっしゃい」
と、私はお母様ことリブリア・コフィール公爵夫人に出かけていく旨を伝えて、再び家を後にする。
流石にこの歳だと転移魔法は使えない……けど飛行魔法は使えたはずなので空を飛びながらその魔導師を探すことにしよう。
「……と飛び立ってから二時間くらい経つのだけれど……いない!どこを探しても例の黒魔道士がいないわ!」
……結局、本っ当に見つからなかった。二時間ほど探したけどどこにもいなかった。魔力残滓も見つからなかったし……あれ?これ私の記憶が間違ってるのかな……と、適当な路地裏に降り立って歩いていると、ある男に声をかけられた。
「おぉ……まさかまさか。リリー様に続いてローズ様もこんな所に来て下さるなんて……」
「リリー……!名も知らぬおじ様、リリー様ってあのリリー・クレスアドル様の事よね?」
「は、はい…」
リリーという名前に反応して、思わず知らない男に詰め寄ってしまった。が、どうしてリリーがここに…?私が知る限りそんなルートは無いはず……
「…失礼、取り乱したわ。そのリリー様の話、詳しくお聞かせ願えるかしら?」
「もちろんでございます。……実は先程、私が手負いの杖を持ち黒い帽子を被った魔族に襲われそうになりまして……。そこにリリー様が駆けつけ、男を退治してくれたんです」
「リリーが…?なんで……?」
「……ローズ様?」
「あ、ああ……失礼。考え事をしていたわ。それより、ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」
「……よくわかりませんが、どういたしまして?」
その男との会話を終えると、再び飛び上がり急ぎ家に帰る。
「まってまってまってまって!なんでリリーが黒魔導士を倒してるのよ!?本来は数年かけてやっとイリアに倒されるはずじゃ……確かに私も今倒そうとしてたけど!ってそれどころじゃない!」
私はすぐに現状がやばくなっていっていることを理解した。そう、『今まで私が経験したことないルートに進んで行ってる』、と。
「……もしかしてこれは私が転生してきた影響なのかしら?確かに、転生してまだ7,8時間くらいしかたっていないけれど本来のルートから逸れる行動はしてきたけれど……まさかいきなりこんな大きく逸れるなんて……」
あれは転生したから仕方のないことだが、まずは夜遅くまで起きていたこと。本来のローズ様は遅くても0時には眠りにつく。が、私が転生したことにより1時まで起きることになってしまった。
次に、アベルと出会った時の会話だ。
ゲーム通りに行くならば私が「メイドなんて私はいらないのだけれど?」といいアベルが「申し訳ございません……」と言い去っていくのだが、今は中身が私なので「よろしくね、アベル。」と言った。……この二つだけでまさかこんなに大きく狂いだすとは…
……まぁ、黒魔導士はパーティー自体にはそんなに関与してこないためこのまま上手いことラーベルをイ
リアになすりつけてちゃちゃっと婚約イベントを回避させてもらいましょうか。
にしてもこの歳で婚約とかすごいめんどそうなんだけど……?
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