悪役令嬢11歳(始まり)

第1話 悪役令嬢に転生する


「あ~~……せんぱぁい、暑いでぇす……」


「やっぱり最近気温のどうにかしてない!?こんなに暑いのって絶対おかしいって!異常気象だよ異常気象!」




ジージー、ジージーと耳をつんざく勢いで蝉が鳴いている八月某日。今朝の予報では今日の最高気温が40度超えらしい。なので私、茨 峰華いばらみねかと剣道部の後輩である鈴乃 紗蘭すずの さらんはクーラーと扇風機をフルでつけて本気で涼んでいる。ただ、それでも暑すぎるので本当に一歩歩く事ですら億劫だ。


「あぁ~~蝉もすごいうるさいから余計に暑く感じるよぉぉぉ~~!!」

「ほんと……今が夏休みでよかったです……今学校あったらほんとにやばかったですぅ~~」


と、私と紗蘭でゴロゴロとしていた……その時。ピコン、と私の携帯が鳴る。


「あ、先輩。携帯なりましたよ」

「本当だ……どれどれ?って……えぇぇぇーーーー!?」

「!?」


私のスマホに来た一件の通知。


その通知に書いてあることがあまりにも衝撃的で、私はとてつもなく驚いてしまった。そして紗蘭も驚かせてしまった。


「先輩、どうしたんですか……?そんなに急に大声出して」

「さ、さささ、さ、紗蘭!こ、これ見て!!!」


慌てたまま私は紗蘭に『【重要】本日20:30をもちまして、sunshine flowers のサービスを終了とさせていただきます。急なサービスの終了を、心より深くお詫び申し上げます。詳しい経緯は下記の通りです。』


と書かれた画面を見せる。


「さ、sunshine flowersのサービスが終了ーーーー!?」

「嘘……折角来月にローズ様のハッピーエンドが解禁されるのに…!!!」


sunshine flowers……通称サンフワは、ある一国の中心部を担うクロッセルという都市を舞台とした、様々な展開の中で恋愛をしていくという乙女ゲームである。そんなこのゲームに、私は以前よりずっと惹かれている。だからこそ、こうして沙蘭とも仲良くなれたのかもしれない。


沙蘭はとても手先が器用で裁縫が趣味らしく、剣道部の大会の打ち上げに持ってきたカバンに、サンフワのぬいぐるみがついていて、そこから私が話しかけて今に至る。


「ただでさえ今日は暑いのに……今日はなんてついてないんだ……」

「本当ですよ……けど、今夜終わってしまうなら今のうちに沢山遊び尽くしましょう!」

「確かに……よし!今のうちにとことん遊びつくそう!」

「はい!」


今夜終わってしまうのなら、今のうちに遊び尽くしてしまおう。ということで紗蘭とサンフワを遊び尽くし、気づいた時には時計の針は17時を指していた。紗蘭は門限が厳しいため、18時までには家に戻らなければならないそうだ。


「あ…もうこんな時間なんですね。それじゃあそろそろ私は帰らせてもらいます。先輩、また明日」


「やっぱりサンフワはいいねぇ~~!紗蘭、また明日!」


と、紗蘭は家に帰ってった。


「にしても、本当にこれで終わっちゃうのか~……もうちょっと遊んでたかったな。せめてローズ様のハッピーエンドでも見られたら良かったのに…くっ!」


まぁ現実というものは残酷で、一人で嘆いていた所で何も変わりはしない。そしてそのまま時間は過ぎていきあっという間に8時半になった。


『いや~……終わっちゃいましたね、先輩』

『うん……でもでも、これからも変わらず私はローズ様を推し続けるから!!』

『もちろん私だってローズ様を推し続けますよ!!』

『よくぞ言った!!それでこそ我が後輩だ!!』


と、私は紗蘭とメッセージでやり取りをしていた。


やっぱり紗蘭との会話はとても楽しくて、あっという間に9時になっていた。


9時を回ると紗蘭は携帯を使えないみたいなので、紗蘭に「おやすみ」


と送り私も眠りについた。


それから何時間くらいたったのか分からない深夜の時間、私は目を覚ました。私が深夜に目を覚ます理由は一つ。それは、喉の乾きだ。なので私はリビングへと飲み物を求めて降りていく。


「…あ、水ある。なら汲まなくてもいいかな」


電気はついてないし今は深夜なこともあり、真っ暗で何も見えないが机の上にコップがあるのが見えた。中には氷も入っていたから中に水も入ってるだろう。と、私はコップに口をつけるのだが……


「…ごくっごくっ……あれ?こんな苦かったっけ……」


……何かがおかしい。私が飲んだそれは、水にしては大分苦いのだ。私が知りうる限り水というのは大抵味がないはず。それになぜだか体がポカポカする……


「ありぇ?……こっるが、ふらしゅ?」


ひとつしかないコップが何故か私の目には二つ写った…………そして、私の意識は途絶えた。


少し……夢のような何かを見た。それは、私がサンフワの推しキャラクターであるローズ・コフィール……通称ローズ様になっていた夢。夢の中では、私は幼い頃のローズ様になっていた。そして夢の中で何年か経った時、私の視界が開けてきた。


「あら?ここは一体……」


目が覚めたら私は知らない場所に一人立っていた。


とりあえず歩いて何か情報を集めないとと思い、この家?を歩くことにした。


「にしても不思議ね……ここがどこなのか皆目見当もつかないわ。夢……の可能性は低そうね。…ってあれ?」


私ってこんな喋り方だったっけ…?と思ったがとりあえず今は気にしないことにしておこう。それよりもここがどこなのかが気になるから。


「んー……ここ、どっかで見た気がするわね……それに、この部屋の前にある看板?も…」


私は歩いていると自分の袖に目がいき、あることに気づいた。


「……この服って、確かローズ様のでは……?なぜ私が着てるのかしら……?」


そう。私が今着てる服、と言うのは青と紫のドレスだ。


そしてその服はまさにローズ様が愛用している服装そのものだ。でも、それをなぜ一体私が…?という疑問も強かったのだが、なんだかんだで私も超がつくほどオタクなわけで。


ローズ様の衣装を着た私がどんな感じなのか確かめようと鏡を探して歩く。


そして運良くちょうど近くに大鏡があった。


「……さてさて?ローズ様の衣装を着た私は一体どんなものなのかしら?って……え?」


鏡に映ったのはローズ様の衣装を着た私……ではなく、金髪のロングヘアー、空のような美しい水色の瞳、そしてそのおよそまだ小学生くらいの身長。そう、それはまさしく…


「ローズ様になってるぅぅぅぅぅ!!!!!!」


私がよく知っている、11歳の時のローズ様である。


…夢ではないか、と試しに嫌々頬を抓ってみる。


……普通に痛かった。つまりこれは、夢ではないと言うこと。


「つまり…え?私はローズ様に転生しちゃったってこと!?」


…まさかまさか。自分の推しに自分が転生しようなんざ到底信じられない。けどもうさっきこれは夢では無いことを身をもって知ってしまった。ならばもう潔くこれからはローズ・コフィールとして生きていくしかない……。私は、深い溜息を付き虚空に話しかける。


「……聞いて紗蘭。私ね、ローズ様に転生しちゃった」

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