第36話 不穏なオーラ

地獄の住人がヘルゲートに戻っていく。

しゅわんと蒸発したような

音を立ててヘルゲートが消えた。


血、臓器、体の部位が転がる

この建物が静寂に包まれる。


残ったのはレッズと仮面の男。


レッズは余裕気に仮面の男に歩み寄った。


じろりと仮面の男が顔を向ける。


「どうやら魔力を使い果たしたようだな。

ヘルゲートという魔法を使えるのは確かにすごい。

だが、魔力の消費も多いはずだ。

だから、その魔法で全滅させなけらば

いけなかった。

俺を倒しきれなかったお前の負けだよ」


仮面の男からは返答がない。


「もう声を出す力もないか?」


そう尋ねたときだった。


「がっかりだ。

本当にがっかりだよ」


「あ?」


「お前って本当にクズになったんだな」


「何言ってんだ?」


「仲間を助けようともしなかっただろ」


仮面の男は見ていた。

仲間を見捨てて自分だけ生き残ろうとする

レッズのことを。


「なんだ……俺のことを視認していたのなら

攻撃すればよかったのに」


「そんな簡単にお前は殺さない。

お前にはもっと残酷な死に方をさせてやる」


「はっ! 何様だお前。

第一、ムカつくんだよ。

その昔から俺のことを知ってるような口ぶり。

お前……一体誰だ」


そう尋ねた直後、仮面の男が消えた。


瞬間、二本の双剣がレッズの首元に迫る。


レッズはその攻撃を己の剣で受け止めた。


(くそっ! なんでこいつこんなに速いんだ!?

それにサモナーがこうも簡単に双剣を

操れるもおかしいだろ!)


「お前がそれを知る必要はない」


仮面の男の足がレッズの腹に入り、

レッズはたまらず後退する。


続けざまの追撃。

あまりの速さにレッズの剣は片方の

双剣しか受け止められなかった。


もう一方の双剣がレッズの腹に突き刺さる。


ぎりぎり急所は外した。

しかし、仮面の男との力の差は歴然だった。


「ぐはっ!!」


突き刺さった双剣が横柄へと滑り出る。


血が噴き出す箇所をレッズは抑えた。


「お前えええええ!!!

よくも……よくも!!」


「レッズ。もうお前は俺に勝てないんだよ。

諦めろ」


その冷静な態度がムカつく。

上から目線で人に指図しやがって。

昔のあいつみたいだ。

イライラする。


レッズは負けずと剣を振るうも、


「横からの薙ぎ」


仮面の男は、


「と見せかけた右足の蹴り」


いとも簡単にレッズの行動を予測して口にした。

レッズの右足が空を蹴る。


(な、なぜだ……なぜこいつは

俺の動きが分かる!?)


ひらりひらりと宙を舞う紙のように

仮面の男はレッズの攻撃を躱していく。


その直後、仮面の男の力強い

右拳がレッズの溝に入る。


「ああああ!!」


レッズは途絶えそうになる息を必死に繋ぎとめる。


「くそがああああ」


口から血を垂らして悔し気に

レッズは仮面の男を睨んだ。


仮面の男は双剣を構える。


もういいだろう。

そう思って止めをさそうとしたときだった。


「ふっ」


そのとき、レッズは不敵に笑った。


仮面の行動がぴたりと制止する。

まるで、レッズの次の行動を予測するように

静観していた。


「何がおかしい」


「分かってねえな……お前。

俺を倒すことがどうなるのか。

俺を倒すということは餓狼に

牙を剥いたと同じことだぞ?」


この状況に置いて、

レッズは勝ち誇ったような顔を浮かべる。


「餓狼の力は絶大だ。

あの人はこの世を統べる王になる」


しかし、仮面の男の様子は変わらなかった。


「そうか。だが、俺はそれをひっくり返す。

俺がアブソリュート・ルーラーズを復活させて、

グレイスさんの意思を継ぐ。

餓狼は俺がぶち殺す」


怖気づくこともなく、仮面はそう言ってのけた。


「ははは……馬鹿かお前は……

お前は確かに強い……だが……

狼牙震撼には絶対に勝てない。

その証拠を今見せてやる」


そう言った直後だった。


レッズは懐から輝く石のようなものを取り出す。


仮面の男はその石から魔力を感じ取った。

しかも、前に感じたことのある懐かしさ。


一体どこで?


仮面の男がその記憶を辿っていると、


「あーん」


レッズはその石をかみ砕いて飲み込んだ。


瞬間、仮面はその感じ取った魔力を思い出した。


そうあれは……


「……ハンターさん?」


元アブソリュート・ルーラーズの

アーチャーであるハンター・アローそのもの。


彼の気配のする石をレッズは飲み込んだのだ。


レッズの様子が豹変する。

さきほどまでの追い詰められていたレッズから

動揺が消えた。


嫌な不気味さを放っている。


「……は?」


仮面の男は己の目を疑った。


ありえない。


どうして。


その直後、レッズの右手から黒い影が伸び、

仮面を捕えた。








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