第15話 裏切り
「俺はお前を殺せる絶好の機会と
場所を探していた。地上では仲間が多すぎる。
だが、ダンジョンの中なら仲間も少ないし、
殺してもモンスターに倒されたとして
事実を隠蔽できる。
だから、俺らはお前を殺せる場所を探るために
ギルド条約に違反して、
更に階層へと潜った。
そうしたら、このダンジョンボスに出会った。
驚いたぜ。あの鬼神よりも遥かに強い
ダンジョンボスに出会うなんて。
こいつを利用すれば、お前を殺せると悟った」
「それで俺達はこの巨人の能力を研究して、
壁をも突き破る強力な拳と、
どこまでも伸びる腕に気づいたんだ。
俺があの巨人を誘導して天井を
突き破らせたんだぜ?」
青焔が誇らしげに言う。
「報告で3班がどこにいるか分かったから、
その場所を突き破るように誘導し、グレイスを
ここに落とした。おまけがいたのは
誤算だったけどね」
ちらりと青焔は俺を見た。
い、いや……待て……
おかしい……
だって、俺がさっき報告しに行ったときは
二人共上の階層にいた。ここにいるアサシン達も。
俺たちは落下したからこの階層に来れたんだ。
なのに、さっきまで5層も上にいたのに
ここにいるのは早すぎる。
絶対にありえない。
じゃあ、ここにいる青焔と餓狼は
一体何者なんだ!?
「あー、その顔。
そうか、君は俺達を上で見てたのか。
あれは俺の分身だよ」
「分身!?」
たしかにSランクのアサシンにそのスキルはある。
分身で知った情報は
本体に伝達できるから、俺が教えた3班の
位置を確認できていもおかしくない。
だが、増えるだけで、姿は変えられない。
こいつ一体どうやって………
そんなときだった。
俺は青焔から微かにオーラが
発せられてるのを見て取った。
こいつだけじゃない。
餓狼、グレイスさんからも出ている。
そして、俺からも。
だが、エリシアさんからは何も感じられない。
もしかして……これって……
イーターから発せられる特有のオーラ?
確証はない。
急に見えたのだ。
さっきの巨人の弱点と同じように。
ばっと周りのアサシンたちを見るが
誰もこのオーラを放っていない。
けど、俺は青焔がイーターだという情報は
得ていない………
いや……そもそもこいつが神殿でイーター判定を
受けていなかったら?
イーター判定を受けてなくても能力は表れる。
こいつは自分の能力を隠すために、
イーター判定を受けてない……?
……もしも、それが
変装であったり、姿を変えたりできる
能力だったら……
分身をここにいる奴らの姿に変えて、
上に残しておくこともできる。
「お前、たしか観察眼とかいう能力だっけ?
もしかして、気付いた?」
その青焔の言葉に慌てて視線を逸した。
「餓狼。このガキ殺そう。
多分気づいてる」
「止めろ! 餓狼!」
「止めて! レオには手を出さないで!
ねえどうして!?
今まで一緒に苦難を
乗り越えてきたじゃない!
どうして裏切るの!?
答えてよ!
……何か隠していたことがあるんだったら……
教えてほしかった……」
エリシアさんが涙を流しながら
餓狼に懇願する。
「駄目なんだ」
突如、餓狼が右腕を腰に差した
剣に手を伸ばした。
「お前らじゃ」
そのむき出しにした刀身で、
仲間のエリシアさんを裂いた。
「エリシア!!!」
動けないグレイスさんが叫ぶ。
く、くそ……動け……このままじゃ
俺は必死に硬直した手を納めた双剣に
伸ばす。
「おっ?
……それってあの巨人の魔法石?」
そのとき、俺が手にしていた魔法石を
青焔が奪い取る。
「返せ!
それはグレイスさんに貰ったものだ!」
「あ?」
その直後、俺は意識が飛びそうなほどの力で
腹を蹴られた。
「ゴホ……」
口から大量の血が流れた。
だが、おかげで結界の中から脱出できた。
俺は双剣を取り出す。
「よせ! レオ! 逃げるんだ!」
そうグレイスさんに言われた瞬間、
目の前に青焔が迫る。
一瞬にして手にしていた双剣が吹き飛んだ。
「餓狼、こいつ殺していいよね」
「好きにしろ」
「止めろおおおおおおおおお!」
そのときだった。
まるで獣のような雄叫びを
グレイスさんが上げる。
「お頭!」
「結界が持たない!」
雲隠れの衆のアサシンたちが
青焔に助けを求めた。
「何!?」
瞬間、結界から抜け出したグレイスさんが
青焔を殴り飛ばした。
「ぐはっ!
まじかよ……あの結界から抜け出すなんて」
「レオ!!!!
逃げろ!!! お前は!!
ここで死ぬべきじゃない!!」
「で、でも」
「いいからさっさと
逃げろって言ってんだ!!!
俺の命令が聞けないのか!?」
そのグレイスさんの焦りと怒り、悲しみ。
負の感情がこもった言葉に
俺の足は走り出した。
「あ! あのガキ!
お前ら! 逃げたガキを追え!」
命令されて駆け出すアサシンたちの前に
グレイスさんが立ちはだかる。
「青焔。先にグレイスだ。
これだけの力を出せているということは、
もう限界に近い」
それを静観していた餓狼が冷静に
エリシアさんの血を舐めた刀身を向ける。
それが俺の見た最後のグレイスさんの姿だった。
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