第2話 救い

ニコラス・レオ

種族 ヒューマン

職業 アーチャー

冒険者ランク F


あれから二週間が過ぎた。

俺は元々親はいないし、

孤児院で育てられたから、

今更帰る場所はない。



7つの種族が存在していたとされる

このアバロニアと呼ばれる世界。

魔法や剣が発達し、モンスターと呼ばれる

異形の生物が生息している。


冒険者たちは7つの冒険者職から一つ選び、

スキルを磨いてモンスターを

討伐して生計を立てていた。


俺もそんな冒険者になるのを憧れて

アーチャーを選んだものの、

今はパーティー仲間から追放され、

ほぼ無職状態。


幸いにも、アバロニア最大の都市、

ここマーブルシティには冒険者以外の

仕事もたくさんある。


「えーよくこの緊急ミッションに

集まってくれた。冒険者の諸君」


なのに俺は冒険者になるのを

諦めきれずにいた。


アバロニア最大の地下ダンジョン。

マーブルダンジョン。


中はいくつかの階層に分かれており、

下に潜れば潜るほど強力なモンスターが

湧き出てくる。


何百年、何千年とこのダンジョンの

制覇を試みた冒険者はいるが、

このダンジョンを攻略できたのは30層まで。

それより下の階層は誰も何も知らない。

中には最下層に財宝があるなどと

唱える者もいるが、

どの説も全部、冒険者特有の好奇心から

生まれてくる仮説にすぎない。


つまり、このマーブルダンジョンが冒険者が

最も攻略したい未開の地である。


俺は指導者の冒険者の元、

配属された班と共にダンジョンに潜った。


本来であれば、ミッションというのは

パーティーを組んで、とあるギルドに訪問し、

受注をする。そのとき、ギルドの連中に

何か嫌味を言われるのだ。

だから、ギルドに所属した方が

冒険者をやりやすい。


だが、稀に緊急ミッションが発令される。

緊急ミッションはパーティーや

どのギルドに所属しているかは不問。

とにかく、数が欲しい。

そういう場合に発令される。

報酬金も高いし、俺はここに来てしまった。


しかし、まさかレッズ達もいるなんて。

最悪だった。

あいつらが来た瞬間、冒険者たちが隅に寄り、


「あれが噂のレッズか?」

「たった一年でFランクから

Cランクまでなった逸材だとよ」

「この前ギルドも設立したんだよな?

たしか名前は……烈風のレッズ」


とひそひそと話し始めた。

加えて、まさか同じ班になるとは。


幸いにも、班のメンバーは30人いるし、

まだ気づかれてない。


「ねえねえレッズ様。あたしたちは

何でここに居る必要があるの?」


到着したのは5層。


「ここより上はドワーフの住処だからな。

だから、ここでモンスターを

食い止めなきゃならない」


リンリンの質問にレッズが答える。


「でも、未確認モンスターが

出没したのって27層なんだろ? 

ここまで来ないだろ」


「今、高ランクの冒険者たちがその

モンスターを討伐しに行っている。

その戦闘を恐れて下の階層の

モンスターが上に逃げてくるかもしれない。

それを食い止めるのが俺たちの任務だ」


そうレッズが口にしたように、

俺たちの任務は至って簡単。

俺は8層まで潜ったことがあるし、

ここには50人近く冒険者がいるから

何とかなるだろ。


その直後、俺はまた嫌な予感を抱いた。


たまにあるのだ。

ダンジョンの中。

いや、私生活でも。


何か視界に映るもの

全てがおぞましく見える。


な、なんだこれ……


今回は尋常じゃない。

体の震えが止まらない。


明らかに、ダンジョンの

様子がおかしいのだ。


「レッズ!!」


俺はたまらずそう叫んだ。


俺のことを視認して

レッズは驚いた顔をする。


「誰ですか? レッズさんあの人」


「同じパーティーだったやつだ」


「あ~あの人がこの前

言ってた足手まといの」


同じギルドメンバーの仲間であろう相手

と何かを話している。


「レッズ! 俺の話を」


「悪いんですが、

えー元レッズさんのお荷物さん。

残念ですが、貴方の事は我々のギルドに

入れることはできないので静かに

しておいてください」


そのギルド仲間の者の言葉に周りが

クスクスと笑う。


リンリンは呆れた顔をし、

グランドとアメリアは

俺を見向きもしない。


「ち、ちが」


「レオ。また命令をするのか?」


レッズがようやく俺に対して口を開く。


「め、命令?」


「お前はいつもそうだ。力のないくせに。

俺に対して、この敵は駄目だ。

この敵とは戦うべきだ。

ここは逃げろ。

もうそういうのうんざりなんだよ」


「……レッズ」


「俺にはもうお前は必要ない。

消え失せろ」


その言葉に皆がかっこいい!

よく言ったと褒め称える。


そうかよ。


そりゃそうだよな。

俺とお前は違うもんな。


俺は雑魚で上から目線で……

お前みたいに才能もない。


俺は背を向けて走り出した。


「お!? 本当のこと言われて悔しくて

逃げちゃったのかな?」


そう馬鹿にする言葉も聞こえたが

俺はもう無我夢中で4層への入り口を目指した。


_______________________


「いやーよくあんなのとパーティーを

作る気になりましたね」


ギルドメンバーのシドがレッズに言う。


「最初の方は敵の察知に気づいたし、

使えたんだがな。段々、実力に差がついてきて

雑魚だって分かっちまった。

まあ、なにはともあれ、頼りにしてるぞシド」


シド

職業 アーチャー

冒険者ランク C


「はい、お任せください」


「じゃあ早速、

敵がどの辺にいるのか教えてくれ?」


「……はい?」


「どうした? 

索敵はアーチャーの仕事だろ?」


「レッズさん? アーチャーには

そんなスキルはありませんが」


「は? 嘘をつくな。

なら、レオはどうやって」


その瞬間、すぐそばの壁が崩れ落ちた。



―――――――――――――――――――――――


何かに追われているような気がした。

こんな恐怖を感じ取ったことはない。


逃げなきゃ……逃げなきゃ逃げなきゃ


今にも恐怖で押しつぶされそうな中を

無我夢中で走る。

頼むから、俺の杞憂であってくれ。


しかし、その予想は当たった。


何か巨大な鱗のようなものが壁から

突如として抜き出た。


にゅるにゅると波を立てて、

目前を通る。


何だこれ!?

まるで、ヘビの尻尾のような


直後、上から何かを感じた。


死ぬ。


俺は直ぐに横へ飛ぶ。


バコン!!! 

上空から謎の物体が地中に潜った。


もしかしてこいつが……!?

緊急ミッションの討伐対象モンスター!?

頑丈な岩の中をまるで水の中のように

移動する。


まさか下層から上がってきたのか!?


にしても、あの傷……

もしかして、下層に潜った冒険者たちに

やられて逃げてきたのか?


動け……逃げないと死ぬ。


もうさっきみたい避けれる気がしない。

動けなければ今度こそ死ぬ。


動け動け!!!


だが、俺の体は迫りくる

敵に対して微塵も動かなかった。


死ぬ。


そう直観したそのとき、

目の前を男が横切った。


そいつはあろうことか

モンスターの目の前に立ち、

その鋼鉄のような拳で


「おらあああああ!!!」


モンスターの顔面を粉砕した。


突然のことに呼吸が整わない。


「大丈夫か!?」


その三十代後半に見える男が駆け寄る。


「よかった……一人でも救えた……」


その男が優しそうな声でそう言ってくる。

白髪で短髪。強靭な褐色な肉体。

見た目からドワーフだろうか。

ドワーフの成人男性の平均身長は

150センチだが、

この人は180センチはある。


「グレイス見てきたよ」


突如、カーボーイハットを被った

緑髪のエルフの男が現れた。


い、今この人どっから


「ハンター! どうだった」


「確認できた生存者は13人。

うち、負傷者7名。

死亡者は89名」


「くそ!!!!

俺らが敵を上に逃したばっかりに」


そう悔しがるドワーフの男の肩を

エルフの男はぽんと触れた。


「地中をここまで移動できる

モンスターなんて滅多にいない。

今回は事故だ。

それに、救えた命もある」


「ああ、そうだな。

どこの誰かは知らないが、

この少年を救えてよかった」


俺はここまで優しさに満ち溢れた人と

出会ったことがない。

一体この人は誰なんだ?


「あ、あの……」


「ところで君。よく生き残れたね」


エルフの男がそう訊ねる。


「他の班の配置の的に、

冒険者がここにぽつんといる

なんてありえない事なんだけど。

どうやって、あのモンスターから

ここまで逃げてきたの?」


「……いや、あのモンスターに

見つかってここまで

逃げてきたんじゃなくて、

嫌な予感がして……」


「予感?」


「予感と言うか……なんだろ。

いつものダンジョンとは

全く違う風に見えたと言うか。

それで怖くなって逃げました」


「少年、職業は?」


「アーチャーです」


「ハンターそんなスキルあるか?」


「ないよ」


見れば、エルフの男も弓を抱えている。


「ってことは、グレイス。

もしかして、この子」


「ああ、可能性はあるな」


「可能性?」


「君がイーターだって可能性だよ」

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