お荷物騎士隊の異世界人たち
光晴さん
始まりと説明の章
第1話 召喚されて
「この男の職種は、召喚士です!」
大声で、二階のベランダから見下ろしている男に向かって報告する、俺の側にいる女。
この女は、異世界物に出てくる魔法使いの着ているローブを着用している。
さらに手には、赤い水晶がはめ込まれた短い杖も持っていた……。
「召喚士……」
「魔物を召喚するというアレか?」
「確か、倒した魔物しか召喚できないはずだな……」
この神殿のような部屋の壁沿いに集まっていた、女と同じローブに身を包む連中が口々に説明してくれるが、その言い方はまさに『ハズレ』を見て言っているようだ。
「次を!」
二階の男から声が掛けられ、側にいた女が移動していく。
今度は、俺と一緒にこの場所に召喚された一人だ。
俺たちはそう、この神殿のような二階まで吹き抜けの部屋に召喚された日本人だった……。
ここに召喚される前、俺たちはコンビニにいた。
それも召喚された人たちを見れば、レジ付近にいた人たち六人ということが分かる。
コンビニの制服を着た二人の店員の男に、レジに並んでいた三人の女に俺だ。
「この女の職種は、ポーターです!」
ローブを着た女が、吹き抜けになっている部屋の二階のベランダにいる男に向けて大声で報告する。
その声で、壁沿いにいる同じローブを着た男たちが喋り出す。
「ポーター? 何だ、ポーターって」
「荷物持ちのことだ。
力だけが強いことで、そんな職種になるというな……」
「だが、かなり便利な職種ではないか?
お荷物騎士隊には、もったいない気がするが?」
「いやいや、せいぜい通常の二倍がいいところだそうだぞ?」
「何だ、そうなのか?
空間収納が使えるかと思ったのだが……」
周りの連中の話声から、これも『ハズレ』のようだ。
それにしても、俺たちはこの場に召喚されたってことは勇者召喚なのか?
なら、王様や姫様なんかが魔王を倒してほしいとか言ってくるんじゃないのか?
「なあ! 質問があるんだが?!」
俺があれこれ考えていると、コンビニ店員の若い店員が声をあげる。
二階にいる、俺たちを見下ろしているここにいるローブたちとは違うかなり上質なローブに身を包んだ男に向かって声を発した。
「今は黙れ! 質問は後で聞く!」
そう言って返し、ローブを着た女に続けろと手で合図を送った後は黙ってしまう。
ローブを着た女も相手にせずに、召喚された日本人の前に立っては呪文みたいなものを言って何かを見ている。
おそらくだが、俺たちには見えないステータスボードみたいなものが現れているのだろう。
「おい」
「この男の職種は、マッピングマスター!」
「おい!」
若い店員の男は、目の前にいるローブの女を掴もうと手を伸ばすと掴む前に止まる。
いや、動けなくされたのか……。
「あ、あぐ……」
呻き声をあげて、無理矢理にも動こうとしているようだが動けない。
そして、それを見たローブの女は二階にいる男を見る。
「うるさいので動けなくした。続けろ」
「はい」
そう言って頭を下げる。
そして、ローブの女は次の日本人の前に移動し呪文の詠唱を始めた。
「……さすが、ホグラン様。
蓮杖の魔術師の二つ名は、伊達ではないということですな」
「それにしても、異世界人召喚ではよくあることなのですか?」
「ああいう野蛮な者は、時々召喚されるようですよ。
そのために、停止魔術が開発されたとか……」
「ははぁ~、なるほど……」
停止魔術?
そんな魔術が存在する世界なのか……。
それにしても、今の会話で俺たちがこの世界に召喚されたということは間違いないようだが、何のために召喚されたんだ?
「ところで、マッピングマスターとは?」
「おそらく、地図職人のことでしょう。
ダンジョンなどで探索者が、マッピングという地図作成をしているそうですから」
「ほう、レーマン殿は物知りですな~」
「いやいや」
……今の会話からで、ダンジョンの存在も明らかになったな。
それにしても、他の召喚された人たちがおとなしいな……。
そう思って俺は、他の召喚者たちを見たが、全員驚きすぎて硬直している。
さらに、三人の女たちは震えているようだ……。
「この女の職種は、ガンナーです!」
震えている女の子の前で、ローブを着た女が報告する。
そして、一緒に手を繋いで震えている女の子に向き直って、詠唱を始めた。
「おいおい、ガンナーとは……」
「これは、完全な『ハズレ』ですな」
「ハズレ、ですか?
攻撃職で、戦力になると思いますが……」
「ポルジーニ殿、ガンナーは金がかかる職種ですよ?」
「え?! ……そうなのですか?」
壁沿いのローブたちの中の一人が、驚きすぎて大声をあげたため咄嗟に手で口を押さえる。
そして、周りを確認して小声で質問する。
ガンナーは金がかかる? どういうことだ?
「ガンナーの使う武器は、魔導銃です。
魔導銃は、ダンジョンの宝箱からしか手に入れられないんですよ。
ということは……」
「市場に、なかなか出回ることがない。
だから、高額になるということですか」
「それに、魔導銃の攻撃力も当たりハズレがありますからな~」
なるほど、魔導銃自体が手に入りにくい上に、攻撃力にあたりはずれがあるから金がかかると。
でも、作ることはできないのか?
「でもそれなら……」
「魔導銃を作ってみては、と言いたいのですな?」
「ええ、手に入れるのが難しいなら、製作することも……」
「それがですな、魔導銃の作製は国によって禁止されているのですよ」
「ええ?」
「まあ、ガンナー自体が珍しい職種ですからな。
そんな数的にも少ないガンナーのために、法を犯してまで製作する者はいないというわけです」
魔導銃を作ることが違法?
何故か分からないが、禁止されているなら作るものはいないか。
それに、ガンナー自体が少ないとなれば、ダンジョン産の魔導銃でいいだろうということか……。
「この女の職種は、錬金術士です!」
ガンナーと言われた女の、隣にいた女の職種が告げられると壁沿いの連中が一斉に騒ぎ出した。
何だ? 何かあったのか?
壁沿いのローブを着た男たちを見ると、全員が先ほど告げられた錬金術師と言われた女を見て何か囁きあっている。
何か、問題でもあるのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます