第13話  パヴロとアマリア

 カルバリル伯爵家は王家を支持する古い貴族となる。王家派筆頭であるバルフュット家の娘アマリアが伯爵家に輿入れしたのも、派閥内での結びつきを強くするためのものだった。


 マルティンの妹アマリアは、伯爵家に輿入れ後に、息子と娘を産んでいる。嫡男のパヴロが本来なら伯爵家を継ぐべきはずなのに、

「伯爵家はアマンドの子供に継がせるから何の問題もないのよ」

 と、母のアマリアは言うのだった。


「貴方は侯爵家を継ぐことになるから大丈夫」

 母はパヴロが幼い時からそう言い聞かせていた為、自分が侯爵家を継ぐのは決まったことなのだと考えていたのだが・・


「パヴロ、コンスタンツェに手紙を送ったとは聞いたけれど、その後、コンスタンツェから返事は届いたのかしら?」

「いいえ、母上」


 パヴロは豪奢な外出着を身に纏う母アマリアを見上げて言い出した。


「セレドニオが浮気をしていると聞いて、嘆き悲しんでいるのではないでしょうか?こちらに手紙を返す余裕もないのでしょう」


「確かにそうね。あの娘だったら今頃、部屋に引きこもって泣き続けているでしょう」


 コンスタンツェは、自分の母を知らない娘だった。使用人たちも侯爵家当主も、コンスタンツェを溺愛し、真綿に包むようにして大事に育てた娘でもある。


 世間知らずのままに育ったコンスタンツェは王立学園に通い始めても、カサンドラやカロリーナの影に隠れてしまうような娘であり、気の強そうな風貌をしている割には、毒にも薬にもならない娘となる。


「王妃様にお呼ばれをしたので、これから王都に向かう予定でいるのよ。そうしたら、あの娘の顔でも見て来ようかしら」

「そうしていただければ助かります、私はまだまだ侯爵領を離れられそうにありませんから」


 一時期は侯爵の跡取りとしての教育も受けていたパヴロは、領都に自分の屋敷を持っている。この屋敷に母も滞在をしていて、セレドニオの動向を注意深く見ていたのだった。


 侯爵家に所属する貴族たちは、楽をしながら自分たちの権力を維持し続けたいと考えている。今のまま利権を抱え込んだままでいたいと考えているし、他所者に入り込んでは欲しくないと考えている。


 その貴族たちの意見をまとめる形で、アマリアはアルペンハイム侯爵家の次男の排除を穏便な形で進めたのだが、うまい具合にセレドニオはコンスタンツェとは別れる道を選んでいるらしい。


 セレドニオは、よく分からない外国人たちと協力をして、無事に海賊退治を終えることとなったらしい。領内の情報操作はすでに済んでいて、やる気がないセレドニオに代わって侯爵の甥であるパヴロが戦艦を指示し、海賊たちを駆逐することが出来たということになっている。


 アマリアの兄であるマルティンはその話を信じきっているし、家令のブルーノの話によると、すぐにでもコンスタンツェとセレドニオの婚約を解消するように動き出すだろうということだった。


 そうなったら大人しいコンスタンツェは傷物扱いを受けるため、従兄のパヴロと結婚するしかない状態に陥ることになる。


 コンスタンツェとパヴロの結婚が無事に行われれば、兄であるマルティンに用はない。マルティンさえ居なくなれば、侯爵家はアマリアの元へ戻ってくることになるのだ。


「母上、王妃様からどういった要件で呼ばれているのですか?」

「それがね!とっても面白いことになっているのよ!」


 まだ式は挙げていないけれど、正式な王太子妃としての地位についたアルペンハイム侯爵家の令嬢カサンドラは、現在、妊娠中なのだ。


 カルバリル伯爵家には貴婦人の間で非常に有名な産婆が居る。今まで王家に仕えていた産婆が高齢のため引退しているということもあって、妊婦であるカサンドラの為にカルバリルの産婆を借り受けたい、もしくは引き抜きたいと王妃は考えているようなのだ。


 お産は命を賭けた尊い行為ということになるのだが、子供が無事に産まれるかどうかは産婆の腕にかかっていると言っても過言ではない。王妃も出産には非常に細かい配慮をしており、そのため、アマリアに声をかけて来たということになるのだろう。


 王妃が王太子妃の出産についてアマリアに助言を求めてきた。これほど楽しいことはないと思っていたところ、追加で心弾むような話がアマリアの元まで舞い込んできたのだ。


「何でも王都の社交を王妃様から任されたカサンドラ様は、その役目をコンスタンツェやカロリーネ嬢に任せると言っているの」


 自分の姪が大抜擢されたことに、叔母であるアマリアは大喜びをしていた。コンスタンツェやカロリーネという学園を卒業したばかりのヒヨッコが社交を取り仕切るというのならば、自分たちの都合が良いように社交をひっくり返すことが可能になる。


 今の王妃はかなりのやり手で、家臣の妻たちの勝手を決して許さない人ではあったけれど、次の王妃となるカサンドラはやる気がない。やる気がないからこそ、大事な社交を自分の友人たちに放り投げるようなことも平気でやるのだ。


「何でも令嬢たちで、まずは王国の貴婦人たちを招いてのガーデンパーティーを開くつもりで居るみたいなの」


 アマリアはコロコロと笑いながら言い出した。

「パーティーを私たちでクラッシュするつもりでいるのよ」

「母上はそれだけの貴婦人たちをまとめ上げられたということですか?」


 大勢の貴婦人をまとめ上げられなければクラッシュは出来ない。しかも、王家主催のパーティーをクラッシュさせるつもりなのだから・・

「あんまり危ないようだったら、無理にクラッシュするつもりもないと思いますが?」

「まあ!大きなリスクを犯してこそ、大きな勝利を勝ち得るというのに!」

 アマリアは、不適な笑みを浮かべながらパヴロを見下ろした。


「貴方だって、決して失敗することはないと考えているのでしょう?」

「まあ、母上がヘマをするとは考えてもおりませんが・・」

「やる気がないカサンドラ嬢が王太子妃になったことで、貴族たちの不満が溜まる一方なのよ?だとしたら、ひっくり返すのは今でしょう?」


 アマリアはクラルヴァインの社交をひっくり返すつもりでいるし、これを機会に自分こそが社交の薔薇として咲き誇ろうと考えているのだった。




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カドコミ・コンプティーク様にて『悪役令嬢はやる気がない』(高岸かも先生 画)で掲載!ネットで検索していただければ!無料で読めます!短期連載で、クラリッサ編までのお話となりますが、こちらも読んで頂ければ幸いです!


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