第3話 悪役王太子妃はやる気がない
大型船の開発によって大海を航行することが可能となり、大航海時代を迎えることになった頃、西の大海に面したクラルヴァイン王国は新大陸に到達して巨大な植民地を手にいれることとなったのだ。
新大陸で採掘された金や宝石、鉄鉱石を使って、スーリフ大陸中の国々との交易を行うことになったクラルヴァイン王国。この王国に最近出来たのが『鳳陽(フンヤン)街』に『アルマ街』であり、異国からの技術者を引き抜くために、祖国と同じ環境を用意することに腐心をしたカサンドラは、バラエティ豊かな鳳陽料理、スパイスを活かしたアルマ料理がいつでも堪能できる街を王国内に作り出したのだが・・
「言語能力に自信がある王太子妃カサンドラには、外国人街については全てを任せる形にしたいと思っているのだよ!」
と、王様から言われることとなり、
「カサンドラちゃん!王国の社交を牽引するのはカサンドラちゃんに全てを任せる形としちゃうわね!」
と、王妃様から言われることになったのだ。
通常、王太子妃となる者は、まずは手始めに王都にある孤児院などの慰問を任されることとなるのだが、
「孤児院の慰問は良いの」
「外国人街の方が重要だから」
と、言い出されたのだ。
「社交もね、お腹に赤ちゃんが居るのだから最低限でいいのよ」
王妃様はにっこりと笑って言い出した。
「だけどね、手綱だけはぎっちり握って離さないようにして頂戴ね」
「手綱?ですか?」
「そうよ、手綱よ!」
今までクラルヴァイン王国の社交を取り仕切っていたのは王妃様だったのだ。ファッションリーダーであり、王国の流行を作り出していたのも王妃様だった。重鎮と呼ばれる貴婦人たちをしっかりと押さえつけ、女の世界を牛耳る女主人、それが王妃様ということだったのだけれど、それをカサンドラに任せると王国のドンが言っている。
元々、カサンドラは王太子妃になどなる気がなかったのだ。
だって、アルノルト王子は学園生活を送る中で、身分も低い、明るく楽しい、頭のネジが少し緩んだような可愛い令嬢と恋に落ち、卒業パーティーで婚約破棄を突きつけてくるものだと思っていたからだ。
結局、学生の間は、真の悪女と呼ばれるクラリッサ・アイスナーに誘拐され、アルマ公国から留学してきたエルハム公女に毒殺を計画され、突如現れたヒロイン気質満載のハイデマリーは全くヒロインとして機能していなかった。結果、王子から婚約を破棄されるということも起こらずに、なんだかんだやっているうちに子供まで出来てしまったのだ。
アルノルトの妻になるのは、まあ良い、王太子妃という地位も甘んじて受けよう。だけれども、王家の一員として膨大な書類を抱え込むということは、どうしても了承しきれない。
外国人街からいちいち届く陳情書に対応するだけでなく、王国の社交?社交を一手に引き受ける?
「やりたくない、絶対にやりたくない、面倒臭い・・絶対に面倒・・いやだ・・」
と、思い至ったカサンドラは、同じように結婚を延期して暇を持て余している親友二人を召喚することにしたのだった。
「コンスタンツェ様、何故、バルフュット侯爵家の内部の人間が、セレドニオお兄様を排除して自分の利となる他の者をコンスタンツェ様の婿として当てがおうだなんて考えたと思いますか?」
「えーっと・・」
親族がうるさくなっていることには気が付いていたものの、箱入り娘のコンスタンツェは見かけは気が強そうに見える割には、駆け引きや暗躍については全く無頓着で分かっていない。
「それはね、学園を卒業して私とコンスタンツェ様が疎遠になったように見えるからです」
「え?」
「子供を授かった私は王宮の奥深くで守られているような状況の中、どうしても以前と比べるとコンスタンツェ様とは疎遠になったと言えるでしょう。王太子妃である私の影響力が少ない状態であるのなら、わざわざアルペンハイム侯爵家の次男を婿入りさせる必要もない」
「し・・親族にそんな勝手なことを言わせるつもりはありません!」
「コンスタンツェ様が勝手なことは言わせないと言ったところで、分家や寄子となる貴族たちが一致団結したら、コンスタンツェ様のお父様だって完全に無視は出来ません。しかも、セレドニオお兄様は今、バルフュット家所有の海軍に入り込んで海賊に対応するために動いている状態ではありませんか?」
カサンドラはそこでコンスタンツェの近くに顔を寄せると、耳元に囁くようにして、
「あ・ん・さ・つ」
そう言ってにこりと笑う。
「潜り込ませた人間に後ろからひと突き!あり得ない話ではないと思いますわね」
「そ・・そんな!そんなこと!」
「無いとは言い切れませんわよ」
隣で話を聞いていたカロリーネは琥珀色の瞳を細めながら言い出した。
「王家派の貴族たちの中には、王家が独自の権力を大きくしていく中で、平民層が台頭していることに、強い危機感を持っていると聞きますもの」
カロリーネは針のように瞳を細めて言い出した。
「中立派であるアルペンハイム侯爵家は、平民の台頭を後押ししているようなところもありますもの。主にカサンドラ様の事業展開による支援の輪が広がっているのが大きいとは思うのですが、そのことに嫌悪を抱いている者ほどアルペンハイムを嫌っている」
「だったら!どうすれば良いのですか!セレドニオ様が暗殺されたらどうしましょう!」
コンスタンツェがポロポロと涙をこぼしながら悲壮感たっぷりで訴えると、
「良い方法が一つだけあるのだけど」
カサンドラが、華やかで美しい顔に詐欺師そのものの笑みを浮かべながら言い出した。
「コンスタンツェ様、私が貴女の後ろ盾となるから、クラルヴァイン王国の社交会を牽引するリーダーになりなさい」
カサンドラはギラギラと光る紅玉の瞳で、涙で濡れるコンスタンツェの翡翠の瞳を見つめながら言い出した。
「あなたが何の特徴もない跡取り娘だから、害もなければ人が良いだけの箱入り娘だと思われているから、蛆虫どもが湧き出してくるのです。あなたには、私という後ろ盾がいるのだと大々的にアピールなさい。この王国の社交を引っ張るのはコンスタンツェ、あなたなのです。あなたが輝くほどに強くなれば、蛆虫どもの力は弱くなる。そうして貴方の光が強ければ強いほど、セレドニオお兄様の立場も盤石となるのです」
「ほ・・本当ですか?」
「本当です!」
それって、王家派筆頭であるバルフュット侯爵家の跡取り娘に、社交の全てを丸投げしたいってことなのではないでしょうか〜。後ろ盾になるって言うんだから後ろ盾にはなるつもりなのでしょうけれど、細かいことは全部丸ごと任せてしまおうと考えているのではないでしょうか〜。
聡明なカロリーネは即座にカサンドラの意図を理解したけれど、カサンドラは元々やる気がなかったのだ。王太子妃になったところで、彼女の根本は変わらないのかもしれない。
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カドコミ・コンプティーク様にて『悪役令嬢はやる気がない』(高岸かも先生 画)で掲載!ネットで検索していただければ!無料で読めます!短期連載で、クラリッサ編までのお話となりますが、こちらも読んで頂ければ幸いです!
本日、もう一話更新します!
ただいま『緑禍』というブラジル移民のブラジル埋蔵金、殺人も続くサスペンスものも掲載しております。18時に更新しています。ご興味あればこちらの方も読んで頂ければ幸いです!!
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