12 和三郎 耳がキーンってなる
「破っ」
ヒルヒルの裂帛の気合と共に破魔矢が射出された。
射出の瞬間大量の空気を引き連れて矢は放たれた。
屋上前面の防御柵がめりめりと巻き込まれて、捻じ切られながら前方へ吹き飛んでいく。
ごおっ。
矢が巻き込んだ周囲の空気が大きな雄叫びを上げる。屋上周辺の空気が矢の軌跡をなぞって、一筋の流れとなって想像できないほどの暴風を引き起こした。
「耳が、耳がキーンってするぅ!」
ヒルヒルが叫ぶ。
放った矢の反動でヒルヒルの身体はガリガリと後退った。
屋上のコンクリートに穿たれたパイルがごりりごりりと、両脚6本分の爪痕を刻んでいく。
大小さまざまなコンクリート片が巻き上がり、和三郎の顔をぺちぺちと叩く。
「顔が痛いっ!」
和三郎が叫ぶ。
教団施設屋上の一部を破壊し巻き込みながら放たれた破魔矢は、商店街上空に出現した楽団に向かって飛んでいく。
一部演奏していた楽団員の菩薩たちが、独鈷杵、三鈷杵、五鈷杵を構えて、破魔矢を警戒する。ほとばしるエネルギーの奔流となった破魔矢は、独鈷所を破壊して菩薩たちを巻き込んでいく。
ぎゅるぎゅると廻る右螺旋が菩薩の身体をちゅるちゅると巻き込んでいく。
菩薩達の後ろに控えた阿弥陀如来が、その姿を瞬時に不動明王へと変えた。右手に構えた利剣を破魔矢に向けて振り下ろす。破魔矢のエネルギーが明王のエネルギー体と拮抗する。
ばちばち、びりびりと空気が鳴る。
きぃいいいいいいいいいいいんんんっっっ!
明王の半身をざっくりと抉って、破魔矢が爆散した。
「no mark サラマンダー
いああ いああ ふたぐん」
和三郎がでたらめな呪文を呟いた。
「もう一回は……」
ヒルヒルが自身の状態を確認する。破魔矢の圧倒的力に翻弄された義肢はすでにボロボロ。
「さすがに無理かあっ!」
ヒルヒルはぞんざいに弓矢を投げ捨てた。
楽団の動きを止められたが、次に打つ手が無い。
半数以上を失った楽団ではあるが、にょろにょろと菩薩が再生されて、ドガチャカドガチャカと音を取り戻しながら、教団施設へと迫っていた。不動明王は西方浄土を統べる
教団施設の前まで来ると、空中で停止した。菩薩達がおそらく教祖の死体が安置された部屋を目指して舞い降りていく。
和三郎たちに対抗手段はないため、指をくわえて見ているしかない。
「あれは何なんだよ? 密教系コスプレなのか?」
「御仏アブダクションです。だから我々もよくわかってないって言ったじゃないですか」
「あれはお呼びの掛かった奴--今回は教祖だけど--が想像する仏様の姿なんじゃねえのか?
潜在意識が具現化してるっつうか、『禁断の惑星』のイドの怪物みたく」
「井戸……ですか? それは白いワンピースの幽霊だから、呪いの方じゃないですか」
「赤いドレスのやつもいるけどな。いや、そういうんじゃなくってさ。やつらの根本的な存在理由だよ」
「ああ、きちがい ならぬ イドちがいですね」
「ここで横溝正史ですか、ヒルヒルさん」
ツッコミを入れつつ和三郎は頸を傾げる。
「なんであいつら、仏様の格好してるの?」
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