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かぢぃよた(齅龆龗鼂齽)

幸薄き彼女

東京の郊外に佇むやや古びたが整然とした住宅街。この一角にあるマンションの一室で40代半ばの女性、佐倉美沙子が暮らしている。彼女の部屋は外から見れば何の変哲もない普通の住まいだが、その扉の内側には彼女だけの物語が満ちていた。


「幸薄そうな顔」。そう言われた顔とは裏腹に美沙子の若い頃はまるでドラマのヒロインのように輝いていた。大学在学中から社会人になるまでの間、彼女はその美貌と知性で多くの異性を虜にし、女性たちからは羨望の眼差しを一身に受けていた。しかし、その永遠に続くと思っていた輝かしい日々は、まるで砂の城のように崩れ去っていく。


20代後半、美沙子はある既婚者と出会い、彼に心奪われていた。彼は魅力的でありながらも妻子を持つ男性。美沙子は彼との関係に身を投じることで、自らの幸せを彼の存在に依存するようになった。彼女にとってその不倫関係は情熱的な恋愛であり、何もかもを投げうっても構わないと思うほどだった。しかし、その選択が後に彼女の人生に深い影を落とすことになるとは、この時の美沙子には想像もつかなかった。


30代に入り彼女の周りの友人たちは次々に結婚し家庭を築き始める。一方で美沙子は不倫関係に固執するあまり、自分自身の将来について真剣に考えることを避け続けた。彼女は異性との出会いにおいても見た目や収入、内面すべてにおいて厳しい基準を設け、理想と現実の間で満足することができずにいた。孤独の足音は彼女自身が鳴らしていた。


美沙子は他人に対しては厳しい基準を持つ一方で、自分に対しては甘い。プライベートだけではない。この性格が社内での人間関係を悪化させ、次第に仕事においても居場所を失っていく。そしてとうとう鬱病を発症し、仕事を休むことになった。この時、彼女は自分の身の回りで起きていることが自分の選択の結果であるということにまだ気づいていなかった。


休職期間中、美沙子はインターネット上で情報商材に出会う。その商材は副業による収入アップを謳っており、彼女はそれに魅了され大金を投じることになる。しかし、これが後に大きな問題を引き起こすこととなり、彼女の人生はさらに複雑なものとなっていく。


ただ人生が暮れていく。副業として始めた情報商材への投資は一時的な希望を与えたものの、結局は彼女をさらなる経済的困難へと追い込むことになる。その副業が原因で会社から解雇される事態にまで至り、美沙子は自分の人生を立て直すための選択肢が一つまた一つと消えていくのを感じた。


失業後、美沙子の生活は一変する。以前はある程度安定していた彼女の生活も父からの相続金に頼るようになり、経済的な余裕は急速に失われていった。かつては自由に使えるお金があった彼女も、今では次々と襲い来る経済的な問題に頭を悩ませる日々が続いた。住宅ローンの返済、生活費、そして情報商材への無駄遣い。彼女の財布の紐はどんどん締まっていく。


さらに美沙子の心を重くするのは高校時代の友人たちとの関係であった。SNSを通じて見る彼女たちの幸せそうな家族の写真や成功している様子は、美沙子にとっては遠い世界の話のようだった。彼女は自分だけが取り残されているような寂しさを強く感じ、その孤独感は日増しに深まっていった。


美沙子には弟がいた。しかし彼は早くに結婚し、すでに子供も二人いた。弟の家族は幸せな時間を共有しており、美沙子もたまに彼らと会うことはあったが、そのたびに自分の人生と比較してしまい心の中はさらに重くなる一方だった。弟家族の幸せな様子は美沙子にとって、自分が望んでいたはずの家庭の姿を思い出させるが、気がつけばそのすべてに手の届かない年齢となっていた。


情報商材にのめり込み経済的にも精神的にも追い詰められた美沙子は次第に現実逃避をするようになる。彼女は自分がかつて持っていた魅力や若い頃に経験した輝かしい日々を取り戻そうとするが、その試みは現実の壁に阻まれる。かつてモテていた頃の自分と現在の自分とのギャップに苦しみ、美沙子は自分自身の価値を見出せずにいた。


人生に複雑に絡み合った問題が暗い影を落としていく。これからどのような選択をし、どのような結末を迎えるのか、この時の美沙子にはその答えの在り処すらわからない。


 *


暗雲が立ち込める美沙子の人生において、父から相続した貯金が底を尽きる日がついにやってきた。住宅ローンの返済が滞り始め生活費にも影響が出始めるほど、彼女の経済状況は破綻の一歩手前にあった。情報商材への投資は続けられたが、それが彼女にもたらすのは絶望的な現実からの一時的な逃避だけだった。再度仕事を探すものの年齢とこれまでのキャリアの欠如が仇となり、望ましい就職先は見つからず、美沙子は経済的な谷底へと突き落とされ続けた。


かつての友人たちも彼女が抱える問題の深刻さを知るにつれ距離を置き始める。彼らの生活はそれぞれに充実しており、美沙子のように自己破壊的な道を歩む彼女に共感することは難しくなっていた。住宅ローンの滞納が続き、美沙子が愛着を持っていたマンションは差し押さえられ、競売にかけられる事態に至る。その家を失い、貯金も尽き、情報商材への浪費は続く一方で、彼女は完全に絶望の淵に立たされた。


夢から覚めることができず、美沙子はいよいよ経済的破綻を迎えることになる。督促が実家に送られ、ついに母にすべての事実が明らかになる。母は娘の失敗を静かに受け止め、美沙子の借金を肩代わりすることに決めた。美沙子はやむなく実家に戻り、母との質素ながらも平和な生活を送ることになる。


しかし、美沙子の心の中には依然として変わらぬ自己中心的な思考が渦巻いていた。自分自身の過ちへの反省や周囲の人々への感謝の気持ちを表すことはなく、かつての栄光を取り戻そうとする幻想に囚われ続けた。母との生活の中で彼女は些細なことで不満を抱き、過去の自分を取り戻すための具体的な行動を起こすことはなかった。


美沙子には現実を直視する勇気がない。彼女は人生の岐路で何度も誤った選択をし、最終的にはその代償を支払うことになった。しかしその過程で彼女は自己反省をすることなく、自分の過ちから学ぶこともなかった。現実は常に美沙子の背後にあった。


実家での生活の中で美沙子は自分の内面と向き合う時間が増えたが、それでも彼女は自らを変えていく道を歩むことはなかった。彼女は過去の選択を後悔することはあっても、それを乗り越え前に進むための積極的な行動を取ることはほとんどなかった。母の無償の愛と支援にもかかわらず、美沙子は自分の失敗を他人や状況のせいにすることで自己正当化を図っていた。想われて当たり前、配慮されて当たり前。当たり前だった何もかもを改めて見直すことは難しかった。


時が経つにつれ美沙子は社会からさらに孤立していく。情報商材への依存は少しも変わらず、実際には何の役にも立たないそれらに費やす時間とお金は彼女にとって最後の希望であり同時に絶望でもあった。母との関係も美沙子が自己中心的な行動を続けることで徐々にひびが入っていく。


夢から覚めないこともまた一つの現実である。経済的に破綻し社会的にも精神的にも破綻した彼女には、自分の選んだ道以外の選択肢はない。失われた過去はいつか取り戻せる。美沙子の前にはそんな幻想が道の先まで続いていた。


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