12日目
一つの感謝は一つのごめんの何倍なんだろう。
ごめん。と言われるよりありがとうと言われたほうが嬉しい。
私はこの陽さんと暮らしてからたくさんのことに気付かされた。
恋や愛だけじゃなく人といる温かさや各々の人生、今の自分の気持ち。
それは何にも誰にも代え難いものだった。
そして…
ドンドンドン!
私たちは玄関のドアを外から叩く音に目覚めさせられた。
ついにこの日が来てしまったんだ。
そう思った。しかし外から聞こえてきたのはどう聞いてもヤンキーのような罵声だった。
「おい、なんでここ鍵が閉まってんだよ」
「おっかしいな、ここ空き家だったはずだろ?」
「おうよ、俺たちの出入りしている場所なんだからよ」
そう聞こえた。私は怖くてたまらなかった。
ヤンキーたちに殴られる。そうではなくここがバレ、誰かに私たちのことが見つかってしまう。そっちだった。
「夏世!2階の押入れがある部屋に隠れて!」
小声だが切羽詰まっているようだった。
「うん、陽さんも早く隠れて…」
声が震えた。
「わかった、ある程度対策をしたらそっちいくから」
安心させるように今度は優しく囁くように言ってくれた。
私は静かに、でも俊敏に2階にある押入れにサッと隠れた。
私は祈った。どうかこの平穏で私の幸せを願ったようなこの生活が崩れ去りませんように。
仏様に祈るようにではなく、イエス・キリストに祈るように指を交差させた。
そして歯を食いしばった。涙が溢れそうなのも堪えた。
私が怖くて震えていて陽さんに飛びつきに行こうと考えていた時、
「夏世?ここか?」
安心する陽さんの声がした。
押入れの扉を少しだけ開けて
「陽さん…!ここ」
小声で呼びかけた。
よかった。いつからか私は陽さんという犯罪者に落ち着きをもらっていた。
「夏世、怖かったか?大丈夫か?」
そして自分の心配よりこんなに私を気にかけてくれる、愛を感じた。
「陽さん、ここに来て…」
だからかはわからないが、ついその心配に甘えてしまった。
私たちは狭い押入れにしばし隠れることになった。
下ではヤンキーたちが大笑いしたり怒鳴り散らかしたりしてて、私たちの居場所を壊されている感覚になっていた。
「あのヤンキーたちいついなくなるんだろ…」
つい不安を声に漏らしてしまった。
「大丈夫、きっと明日にはいなくなってる」
陽さんの「大丈夫」は本当に大丈夫な気がした。
「そういえば、今日の聞きたいことは考えてたのか?」
多分私を安心させるために話題を振ってくれたんだ。そう思ったが私はそんなの恐怖で飛んでいた。
「いや、怖くてそんなの忘れてた…」
「そうか。じゃあいいよ、思い出した時に言って」
ことごとく安心させられるような声だ。それに今日の陽さんは口調がなんだか優しい気がする。気がするだけだけど。
それがプラスされてさらに安心しているのかもしれない。
「夏世?」
突然名前を呼ばれて心臓が跳ねた。
「ん?」
「今日はここで寝ようか、ちょっと狭いけど…」
「わかった」
…ん?私は条件反射のように了解してしまったが、こんな狭い空間に2人!?
私の心臓は急に速くなったように感じて一回深呼吸をした。
というかそもそもこの一つ屋根の下で2人で10日以上を過ごしている。狭い空間になったところでなんら変わらない。
と思わせて自分のいろんな考えがぐるぐるする頭と心臓を落ち着けさせようとした。
「おやすみ」
「はっ…!?お、おやすみ」
私の日記はどこからか途中で切れていて突然次の行からおやすみをしたと書かれていた。
記憶が曖昧だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます