11日目
私と陽さんの関係に名前がついた。友達。恋人ではない。
でもいい。もうただの話す人ではなくなった。一歩前進したのだ。
私は少し嬉しくてくすぐったくなった。
「おはよう」
「おは、よう」
もうございますはいらない。タメ口で話せる関係。この気持ちがなんていうか分からないが嬉しかった。
陽さんもどこか嬉しそうに見えて、少し心が通じ合えた気がした。
「さぁて今日は何かな〜?」
生き生きとしている陽さんは笑いながら聞いてきた。
「今日は考えてきたの」
そう今日は陽さんに会う前に考えてきた。私にはこの恋の悩み以外にもう一つ悩んでいることがあった。
「おう?なんだ?」
「陽さんの将来の夢はなに?」
将来のことだった。これは学生の本分というか人間なら誰でも通りそうな悩みだ。
「あぁそれきくかぁ」
例にも漏れず陽さんも悩んでいそうだった。
私には夢があった。でもそれでいいのかいまいち決めかねていた。
「陽さんも悩んでいたんだ…一応夢はあるんだ。でもそれで本当にいいのか決めかねていて…」
「そうか…俺にも夢はある、あった」
「なんだったんですか?」
陽さんはちょっと口をつぐんで何かを決心したように言った。
「俺、料理人になりたかったんだ。でも、」
そこでやめてしまった。
「言いたくなかったら言わなくていいんだけど、でも話すことで何か変わる、かもよ…?」
私は何か変わったのかもしれない。無意識に言っていた。
「そうだったな。まぁ家族のせいだよ。あんなことになっちゃったし、今もこうして犯罪を犯している。無理かもな」
そうだった。これは立派な犯罪。私が容認しているとはいえ、監禁?軟禁?になる。
裁かれ、罪を償うことになるだろう。この日々が終わるその時に。
ちょっと悲しくなった。そしてこれも無意識に、
「ごめんなさい」
そう言っていた。
「私のせいでこうやって夢を絶たせている。ごめんなさい」
「い、いや、お前は関係ない。俺がやっていることだ。これだけはお前が償うことではない」
きっぱり言われた。でも少し共犯になりたかった。って言ったら今度は怒られそうなので自分の中で留めておくことにしよう。
「わかった。でも夢はきっと叶うと思う。時間がかかっても夢を夢のままにしちゃだめです」
「まさか、聞いてほしいお前に励まされるとはな。でも少し楽になった気がする。ありがとう」
ありがとう。誰かからの感謝。愛しい人からの感謝。100万倍くらい力が違うと思う。心臓が一回だけ高く飛び跳ねた。
「いいえ、じゃあ今度は私の話を聞いて」
「それはもちろん」
一息ついて、
「私は研究者になりたい。青い薔薇を作る…」
ドキドキしていた。この夢は誰にでも言っているものではない。馬鹿にされそうだから。
「おお!存在しない青い薔薇、それを作りたいのか。すごいじゃないか、お前なら出来そうだな。根拠は一切証明できないが」
にやけそうだった。好きな人から認められる、応援される。これ以上嬉しいことはない。根拠は無いけど。
でも現実は甘くない。
「でも馬鹿にされそうだし、何より研究者になれるような頭は持っていないんだ…だから本当にこれでいいのか分からなくて」
私は勉強はあまり得意ではなく中の下くらいだった。研究者になるにはそれ相応の知識や学歴は必要だろう。なれるのだろうか。
「本当にやりたいことなら努力すれば叶う。もちろん努力しても叶わない時もある。でも人は本当にやりたいことには一生懸命やった方がいい。俺はそう思う」
一本の筋が通っているような陽さんの説得は私の揺らいでいた心に針金を通した。
本当にやりたいこと。ただの夢物語かもしれないけど。でもやりたい。やらなきゃ死ぬ時に後悔するかもしれない。そう思わせてくれた。
「なんか、揺らいでいたものがまっすぐになった気がする。その言葉で頑張れそう…!」
私は吹っ切れたようにくしゃっと笑った。
誰彼構わずこんなこと言われて奮起するわけではないと思う。陽さんだからやれそうな気がするのだ。
すごい力。
「お、おう。頑張れよ。俺が生きている間に花屋に青い薔薇が見れるといいな」
またも陽さんは顔を赤くしながら、励ましの言葉を私に送った。
「ありがとう」
だから私は感謝を言葉にした。少しでも気持ちが伝わればそれでいい。
自分の心はどんどん豊かになっている気がした。恋とは盲目、そう思っていたが見える世界が変わるだけなのかもしれない。
今日もこうして陽さんと居れる世界にいる。それだけで全てが頑張れそうだった。
そんな陽さんは目を逸らしたまま、寝に行ってしまった。照れ臭くなったのかな。
明日は何を聞こうかな。
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