6日目
私はもっと彼を知りたくなった。変な意味じゃなく。もっと。誰も知らないあなたを。深入りだと遠慮した日々とはおさらばしよう。
「よく寝れたか?」
「はい、少し。」
嘘だ。陽さんが帰ってきた音で起きてしまいその後一睡もできなかった。考え事をしていたから。
「ならよかった。これあとで食べろよ?」
テーブルの上には唐揚げが置いてあった。でも今はあまり食欲がないです、と断った。
陽さんは唐揚げを冷蔵庫にしまい、戻ってきたところで私はこう聞いた。
「今日は聞きたいこと、あります。…あなたのことを教えてください。なんでもいいです。」
陽さんは少し固まって私と目を合わせ、改まった。
「いいか、俺とお前は犯人と人質。そんな奴の聞いてなんになる。」
陽さんは出会った時と同じ怖い顔をしていた。
「正直何にもならないと思います。でもそれでいいんです。私だけが知っていれば。」
私はこの残り少ないであろう日々を憂うように真正面から陽さんに向き合った。私があなたを知りたい。警察でも友達でもないこの私が。
「もうお前と過ごして5日も経ってる。知らないことってなんだ?」
「例えば…過去、とか。」
勇気を出した。
そして陽さんの顔は再度固まる。
「俺の過去なんて聞いても面白くない。他の質問しろ。」
今までで一番怖い声をした。
「いやです。一日一つ質問していいって言ったのは陽さんです。」
「なんでもって言ってねーぞ。」
「どうせ離れ離れになるんです。いいでしょ…!」
ちょっと煽りすぎた。
「お前いい加減にしろよ…!」
陽さんはにじり寄ってきていて私はいつの間にか壁に追い詰められていた。顔が近い。
「お前だって話したくない過去の一つや二つあるだろ!…はぁ…それと一緒だ。しかし俺も少し気を立てすぎた。すまん。」
陽さんは怒ったかと思いきや謝ってきた。本当に殺人犯なのか?
「あ…私こそ少しデリカシーがなかったです。すみません…」
驚いてしまい少し言い淀む。
「こほん、俺の過去のことだが本当は話したくない。フラッシュバックして俺が腹を立てるほど嫌な過去だ。お前も気を悪くするかもしれない。だから避けた。」
「そんなに…」
「だから条件と言ってはなんだが、お前のことも話すんだな…。もちろん言いたくなければ話さなくていい。その時は俺も話さない。」
考えた。私だって封印しようと頭から切り離していた過去はある。でもそれを話すことで自分の中で消化されるかもしれない。陽さんだってそう考えてこの提案をしてくれたのかもしれない。
「…わかりました。抜粋しますが悪いことは消化させましょう。」
「そうだな…」
今の空模様であるこの曇天のように重い空気になってしまったが明日はきっと晴れだ。
陽さんの心が晴れてくれればいい。
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