第46話 誘惑の木 Ⅱ
対峙するのは、
「アリス!」
アリスを庇うようにエクスが前へと出る。エクスも右手を刃物のように変形させて、攻撃を受ける。
キイン、と、辺りに冷たい音が響き渡る。
「なんなんだよこいつ! 俺と同じ能力を持ってんのか!?」
エクスが身体を手前に
エクスに腕を引っ張られ、なんとか攻撃を
双方の力は
「エクス! 私、どうすればいい!?」
剣を手にしていないアリスは加勢ができない。何とかしてエクスを助けることはできないか、考える。
エクスは戦いの最中、アリスに向かって叫ぶ。
「こいつは
「浮遊霊って何が苦手なの!?」
「炎だ!」
「炎……って言われても……」
辺りは泉だ。火種はない。マコの家に戻っている時間もないだろう。
困惑するアリスをよそに、楽しそうに戦いを見ていたブランカが口を開く。
「うーん。同じもの同士だと、なかなか決着がつきませんねえ。それなら……」
ブランカは空気を一度吸うと、そっと、歌い始める。
黒の旋律。
歌を受けて、
「クッソ……!」
「エクス!」
(……ああ! また、何もできない!)
天使や悪霊は、歌で強化することができる。だが、アリスはこの点において役立たずだ。何か、何かしなければ。また、エクスに怪我をさせてしまう。また、ただ見ているだけなんて。そんなのは嫌だ。そんなのは。
(浮遊霊を止める……炎……炎があれば……)
ふと、豆電球に明かりをつけた、
霊と心を通わせて、心象を具現化させる。
明かりをつける
(
一か八か、やってみるしかない。
(書に載っていた方法……自然界に存在する火の素を、霊と調和させる。霊に語りかけ、力を集束する。その力を右手の中指に集中させて……)
霊の
「
アリスは叫ぶ。親指の付け根へ中指を、パチン、と強く当てる。
瞬間、アリスの右手から炎が沸き上がる。
紅い炎は風で前方へと流れ、
アリスは自分のやったことに目を丸くする。まさか、こんなに大きな炎が手からでるなんて。
はあ、と大きく息をする。無意識に呼吸を止めていた。ひんやりとした空気が肺に入ってきて、苦しい。全身が熱くて、額から汗が
「熱っ! あっつ!」
アリスは慌てて泉へと転がる。火はすぐに消えたが、心臓がドキドキと鳴り止まな
い。立ち上がり、落ち着けようと深呼吸を繰り返していると——
「アリス!」
急に、エクスが飛びついてくる。
「きゃああああ!」
「すごいじゃん!
子犬のようにキラキラとした目でアリスを見るエクス。
「いや、
抱きついているエクスを
「ずるいです……ずるいですよ……」
顔を上げたブランカの瞳は怒りに満ちている。
「ブランカが持っていないものを見せびらかさないでください!!」
叫び、ブランカは指笛を吹く。
ブランカの頭上の空に大量の黒い
「や、やばいよエクス。これ、どうすれば……」
アリスは
「アリス、さっきの
「わ、わかんない。けど、やり方はなんとなく掴んだ……かも」
「よし」
エクスはアリスの後ろにぴったりと付き、右手を支えるように握る。
「次は俺が手伝ってやるから。あの鳥たち目掛けて、もう一回やれ」
「ええっ!?」
「俺を信じて、打て、アリス」
空を
アリスは目を閉じ、集中し——指を鳴らす。
顏に熱風が当たる。目を開けると、そこには渦を巻く
輝く炎は、夜の闇を照らす。
火柱はブランカの仕掛けた黒き鳥を次々と焼き払う。キイキイ、という悲鳴が広がり、鳥は闇に溶けていく。
やがて消失すると、辺りはしん、と静まり返る。
「あ……」
ブランカが木の側まで
「……ブランカさん。もうやめて」
アリスはブランカに目を合わせ、近づく。
「これ以上、力を使わないで」
「ブランカが……勝てない?」
「力を使いすぎると、どうなるか解っている?
「何でですか……」
ブランカはしゃがみ込み、わなわなと震えている。
「ブランカさん、お願い、やめて——」
「今のブランカよりも、先輩の方が可愛いって言うんですか!!」
ブランカの叫び声が響く。同時に放出された力でアリスは数メートル吹き飛んだが、エクスに受け止められる。
「神様、聞いてください。ブランカの身体を、今すぐにあげます」
ブランカが『
「だから、この女を、殺してください」
瞬間、地面が揺れる。
「なっ、何!?」
アリスが声を上げると、今度は何処からか、うなり声のようなものが聞こえてくる。たまらず、耳を塞ぐ。
「っ……これ、何?」
「……
夜の闇に、ぱっと明るい光が灯る。少女の後ろにある木が光っている。
地鳴りと共に木はメキメキと動き、その根が地面を引き裂き、地上に
「ブランカさんが! 木に捕らわれて……!」
「やりやがったな、こいつ……」
オオオオオオオオオ!
悪霊の
「アリス、時間が無い、やるぞ」
エクスの冷静な声で、我に返る。
「ブランカさんはどうなっちゃったの……?」
「まだ生きている。助けたいなら、戦え」
エクスが左手を差し出す。
アリスは喉につかえた恐怖心を飲み込み、エクスの手を取った。
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