第31話 月の道標 Ⅰ
「そんな……神父様が……
「うふふ、驚いた?」
「何で……いつから……」
「最初からだよ? ま、君と僕が出会ったのは偶然だね」
ライラは近づき、アリスの
「偶然、君とこの教会で出会って。偶然、君は僕の
「…………」
「本当だよ? 君を
そう言うと、ライラは小動物のように愛らしく、小首を
「っていうか、てっきり僕は、僕を殺すために
「私はただ……禁術の情報が欲しくて……」
アリスの声は震えている。まだ、現実が受け入れられない。
「そうだったんだ。じゃあ君は、この孤児院についても、何も知らないんだね?」
「孤児院……?」
何故、孤児院の話になるのだろうか。子どもたちにも、何か秘密があるのというのか。
先程、押し花のしおりをくれた女の子の顔を思い浮かべる。
「……子ども達に、危険があるの?」
恐る恐る、ライラに問う。
「どうしようかな……知りたい? 可愛くおねだりしてくれたら教えちゃおうかな?」
ライラはあくまでも無邪気に、からかうように、アリスを見つめる。恋人を困らせたい、と言った感じの、少女の顔だ。
「…………」
「あ! その怯える顔可愛い! いいよ! 教えちゃう!」
何故か
「この孤児院にはね、
「
「そ。幼くして、霊を失い、
アリスは
「グレーテルが、
「……予想はついてた。彼女を
ライラは、辛そうに
顔を上げ、一度微笑むと、アリスに話しかける。
「
先程までの、調子に乗っている少女の声色ではなく、落ち着いた声で言う。
「でもね、実際、
ふと、ライラは自身が裸であることを思い出したのか、ようやく足元の白いシャツを拾って、羽織る。男物のシャツは、彼女の身体を、太もも辺りまで隠す。
「グレーテルはね、
アリスはただ、息を呑む。ライラの黄金の
「この地にはね、こうやって、純粋が故に、
「……わからない。わからない、けど、同じ状況になったら、
人は、そんなに、強くない——それはよく、知っている。
「そ。王家や王都騎士団は
ライラは腕を後ろに組んで、目を
「皆、ただの人間なんだよ」
「…………」
涙が込み上げてくるのを、耐える。ここでアリスが泣くのは、なんだか場違いな気がするから。
「ふふ……
ライラは、
「だから、こうして姿を明かした」
「え……」
驚くアリスを無視して、ライラは話を続ける。
「霊を失った子どもたちは、いつも死に怯えている。死んだら、
「……あるの?」
アリスは聞き返す。ライラは静かに
「契約した
「
その言葉を聞き、アリスは
「うん。殺す……というか、消滅させるって感じだけど。
「じゃあ、
「その可能性がある。でも、悲しいことに、一度
「そんな……」
「……君はどっち?」
ライラと見つめ合う。なんだか心の底を除かれているようで、身震いする。
「
黄金の
心臓が不安な鼓動を打つ。頭の中で、神父と話した記憶や、子ども達と遊んだ記憶を呼び起こす。
あんなにも楽しそうに笑っていた皆が、こんな苦しみを、抱えていただなんて——
「……さない」
「ん?」
「殺さない。皆の霊は、私が
「へえ……?」
ライラは少しだけ馬鹿にするように、意地悪に微笑む。
「……元より、この地の
アリスは、ライラを見据える。
「だから、殺さない」
アリスの真摯な態度を受けてか、ライラは目を丸くする。
その後、けらけらと笑い出す。
「無茶言うねえ……君一人で、どこまでやれるっていうんだ。
「…………」
しゅんとするアリス。解っている。自分にそんな実力も、知識もないことを。
でも、放っておけない。何かできるのなら、してあげたい——
「……ふふふ、かわいそうな子。優しすぎるね。他人のことなんて、放っておけばいいのに。それができない。ふふ、可愛い……」
そう言うと、ライラはアリスに接近する。
「……気に入っちゃったなあ」
「ああ、どうしよう、こんなに胸が高鳴るのは、百年ぶりだわ……」
ライラは手を伸ばし——アリスの頬に、自らの頬をすり寄せる。
「君のこと、好きになっちゃったかも」
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