第3話 筆箱も買って欲しかった

前回に引き続き、今回もピカピカの新一年生になる際の出来事です。


厳密に言えば筆箱を“買ってもらえなかった”という訳ではないのですが、母が買ってくれた筆箱は、とても新一年生が買ってもらうような物ではなかったのです。


新一年生が入学準備に買ってもらう筆箱といえば、外側がプニプニとしていて両側のフタがパカパカと開く、いかにも新一年生が買ってもらうような物を想像するかと思います。


私も当然、そのような筆箱を買ってもらえると信じて疑いませんでした。


しかし、いざ筆箱売り場へ行き、私が「この筆箱が欲しい!」と言っても、母は「高いからダメ。」と言うのです。


「じゃあコレ!」「じゃあコレ!」と私は違う筆箱をいくつも提示しましたが、母は全て「高いからダメ。」と言うのです…。


訳が分からずにいる私に、母は「ほら、こっちにある筆箱にしなさい。安いから!」と言いました。


私は母が指差した方を見ると、なんとそれは缶の素材でできたペンケース『カンペン』だったのです…。


私が思い描いていたのは、いかにも新一年生が使うような、外側がプニプニした筆箱。


母が指差したカンペンとは全然別物です。


私は“コレって筆箱なの??”と思いながら戸惑っていましたが、母は自信満々のご様子。


確かに母が言ったように、カンペンはどれも値段が安く、千円以内で買える物ばかりでした。


私は「こういうのじゃなくて、普通の筆箱が欲しい!」と一応自分の気持ちを主張してみましたが、母は頑なに「ダメ!」と言い、カンペン以外は認めない姿勢を保ってました。


それまでの経験上、いくら私が「これが欲しい。」と言っても母が希望を叶えてくれる事は殆どなく、いつも“一番安い物”しか買ってくれないという事は分かっていました。


私は渋々カンペンの中から一番欲しい物を選び買ってもらいましたが、入学準備のお買い物にしては随分と粗末な物でした。


もちろん、入学してクラスのみんなの筆箱を見てみても、カンペンを使っている子なんて私以外誰もいません。


さらに、前の席のキツめの子に「カンペンってダメなんだよ。」という謎の指摘までされてしまいました。


私は“カンペンはダメ”というのは初耳でしたが、もしかしたら保護者用の資料か何かにそのような記載があったのかもしれません。


私の母はそういった決まりごとにも適当だったため、もし読んでいたとしても“ま、良いか♪”というノリだったのではないかと思います…。


母はそれで良くても、指摘されて嫌な思いをするのはこの私なんですけどね…。


私はみんなが持っているような普通の筆箱にもとても憧れていて、今でも文房具売り場で見かけると“良いなぁ”と思ってしまいます。


当時は造りが凝っている物も結構あり、ボタンを押すと鉛筆削りが出てきたりルーペが出てきたりるするような面白い筆箱もありました。


もしもタイムスリップが出来るのなら、当時の自分に「よしよし、お母さん意地悪だよね。私が買ってあげるからね。」と言って筆箱でもランドセルでも買ってあげたいものです…。

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