未来の俺に笑われるような恋はしたくない。

猫野 尻尾

第1話:無性に彼女が欲しい。

「昼下がりのまどろみの中で好きな女とひとつのベッドで眠りたい」



俺の名前は「切磋 拓磨 《せっさ たくま》」


職業は漫画家・・・万年売れてないプロの漫画家。

だからアシスタントなんて持てずにひとりでコツコツ漫画を描いている。

生活は、さほど余裕はないが、まあまあ生きていけるくらいは・・・。


そんな中でも楽しみはある・・・発売日には欠かさず宝くじを買っている。

これだけが唯一の夢と希望をつなぐ証。

まあ、当たった試しは一度もないけどな・・・。


でもって今、無性に彼女が欲しい。

けど人間の女はなにかと金がかかるから彼女も作れない、嫁ももらえない。


なにもしてくれなくていいから、話相手にだけなってくれる、そんな都合の

いい女っていないもんか・・・。

レンタル彼女なんてのもあるけど、偽の彼女なんて虚しいだけだし・・・。


そんな都合のいい女いるわけ・・・それがいたかもしれない。

厳密には人間じゃないけどな。

人間じゃないって言ったら分かるよな、犬じゃないよ、猫でもないよ。

犬や猫でもいいけど残念ながら彼らはしゃべってくれないからね。


な訳で、実はひょんなことから俺のスタジオに「そう呼んでるだけ」

俺のスタジオにガイノイドってのを迎えることになったんだ。


普通ならガイノイドなんて高くて持てないところなんだが、俺は運のいい

ことに買った宝くじが高額当選したんだ。

だから最初はね、まさかって思って当選番号を何度も確認したね。


だから、その金で贅沢しようと思った。

どうせ、なかった金だと思えばもったいないとも惜しいとも思わない。

かと言って博打や夜のおネエちゃんにくれてやるほどバカじゃない。


俺はその金をもって、とある店を訪ねた。

店の名前は「ベスト・パートナー」

そうアンドロイドやガイノイドを合法的に一般販売してる店。


店に入るとカウンターの向こうにウェイターみたいなニイちゃんがいて

そいつもアンドロイドみたいだった。

カウンターの下から見えるそいつの足がキャスターになっていて右に行ったり

左に行ったりしていた。


「いらっしゃいませ〜」


「あの、ガイノイドが一体欲しいだけど、サンプルとかカタログとかある?」


さて希望する女の子をタブレットで見せてもらったけど、ビジュアルのは満足、

でも値段を見てびっくり。


「なあ、おニイさん・・こんなに高いの?」


「新品はそんなものです」


「あのさ、少しくらいバグや欠陥あってもいいからさ、もっと安いやつないの?」

「なんなら中古でもいいんだけど」


「そう言うことなら、この店の裏にあるベスト・パートナー 2号店へ行って

いただいたほうがよろしいかと?」

「そこならご希望の安いガイノイドが見つかるかもですよ、お客様」


って言われたから俺は裏に店に行って見た。

さっきの店と店構えが全然違って、みすぼらしいジャンクな店って感じだった。

大丈夫か、おい?

まあ、覗いてみるだけならタダだろ。


「んちわ・・・」


「いらっしゃい・・・ガイノイド?」


「あ、ああ・・・よく分かったね」


店番は胡散臭そうなばあさんだった・・・。


「中古のガイノイドを欲しがる客はみんな同じ顔してるんだ・・・」


「なんだ・・・俺みたいな顔のやつばっか来るのか?」


「どうせ宝くじでも当ててガイノイドを買いに来たんだろ?」


「お〜見抜いてるね、伊達に歳食ってないな・・・」


「まあ、だいたいはそんなもんさ・・・いかにも金持ってそう見えないからね」


「失礼なばあさんだな」

「俺は、ばあさんと話がしたくて来たわけじゃないんだけど・・・」

「中古でいいから・・・めちゃ美人でエロッぴいガイノイド見せて」


中古なもんでそんなに数は多くはなかったが、この子ってガイノイドがひとりいた。

俺の好みにぴったり・・・どんぴしゃ。


紙はピンクのショート。

マリリンモンローばりのセクシーな顔だち。

程よくくどくない体型・・・大きくもなく小さくもないおっぱいにスレンダー

なボディ。

身長も俺より少し低いくらいだからいいバランスだな。


「お客さん、あんた運がいいね」

「普段はこんないいの置いてないから・・・ついてるよ」


「この子に決めるわ」

「ばあさんがメンテしてるの?」


「私がそんなことする訳ないだろ?・・・私はただの店番」

「そういうことする若いのが裏にいるよ」

「メンテなんかしなくても、入荷したばっかだからちゃんと動くよ」

「ちょと待ってな・・・今、連れてくるから」


そう言うとばあさんは裏から、その子を連れてきた。


(おお〜実物はさらにいいな〜)


その子は、まるで人間みたいに、いや猫みたいに背伸びして大あくびをした。


「あんた?・・・私を買った人って?」


「そうだけど・・・なんかまずかった?」


「別に・・・」


俺は大枚払って彼女を買った・・・人生でこんな高額な買い物をしたのは

はじめてだった。

中古ったっていい高級外車が買えた。

ちょっとビビりそうな気持ちを抑えて俺は彼女を家に連れて帰ることにした。


とりあえず今夜から話し相手ができる、そう思うと思わず顔がほころんだ。


つづく。







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