ささくれ女子

八木寅

ささくれ女子

 家庭科の授業中。将来の家庭のことなど興味がわかなくて、ボクは手を見つめていた。     

 授業では家族が増えるとどうたらこうたらと話しているけど、結婚願望はない。恋愛もしたことない。恋愛感情を持ったこともない。


 けど……、とぼんやりと考える。もし、結婚するならどんな人がいいのだろうかと。手を見つめながら思う。やっぱり、お母さんみたいに料理うまい人がいいなと。そしたら、毎日美味しいごはんが食べられる。


 そう言えば、お母さんの手にはささくれがあった。水仕事をするとどうしても乾燥するとぼやいて、ハンドクリームをぬりこんでいた。つまり、普段から料理している女子にはささくれがあるのかもしれない。


 家庭科の授業が終わるころ。ボクの心は決まっていた。ささくれ女子を探そう。


 とは言っても、女子の指先を気づかれずに見るのは難しい。どこぞの王子様なら、ささくれの者と結婚すると宣言すれば、ささくれの指を見せる女が群がり、素晴らしいささくれを持つ者を探すのに苦労することはないのだろう。


「トモ、今日の家庭科の授業どう思った? なんか昭和ぽかったよな」


 と、ボクの熟考にはいってきたのは、ダチ。トモダチだから、トモとダチと呼ぶ。そんな適当な友だち。


「ボクは外国行って王子様になろうかな」

「そうだよな。時代はグローバルだもんなって、王家に婿入りするのかよ」


 今日もダチはボケにのってくれる。そんな彼と話すのは楽しくて、いつも話しかけに来てくれるのを期待している自分がいる。


「ささくれ女子を見つけるんだ」

「男子じゃだめなのか?」


「結婚相手は料理上手な人がいいかと思って」

「料理上手ならだれでもいいのか」


 そう聞かれて、ボクは気づいた。

 結婚するとなると、毎日会話するだろう。となると、ささくれ以外にも必要なものがある。


「あとは、ボケを拾ってくれる人かな」

「料理上手でボケを拾ってくれる人ならいいのか」


 問われて、もっと考えてみた。けど、浮かばない。恋愛経験値がなさすぎる。

 困ってダチを見つめると、どんな答えでもどうぞと言わんばかりの笑みが返ってきた。

 心地いい。そうだ、わかったかも。


「こういう気持ちいい空気で……、ダチみたいな人と美味しいごはん食べたいかも」


 ダチは手の甲の指をそろえて、見ろと言うように前に出してきた。その指には、ささくれ。


「キミは……、料理できたっけ?」

「毎日、袋を開けてカリカリを皿に盛っている」


「それ、料理なの?」

「みんな、うまいってニャアニャア鳴いてる。それに、うまい料理ってのは皿からこだわり、BGMも照明も工夫するものなんだ。だからオレが出すカリカリは」

「もうわかった。ささくれで結婚相手を選ぶのはやめるよ」


 適当な友だち。ボクのパートナーにも適当かもしれない。

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