不機嫌の理由

蒼田

1:

「どうしたの? 」

「何でもない」


 とあるカフェにて、一組の男女が対面で座っている。

 カップルのようだが女性は「不機嫌」を表していた。

 男性は不機嫌の理由がわからないのかどこか困った様子。

 だんまりを決める女性に男性は頬を掻きながら考える。


 (突然呼び出されてずっとこの状態。何か言いたいことがあるんだとは思うけれど……)


 心当たりがない。

 思い当たる節がなければどんな言葉をかけるのが正解なのかもわからない。

 まだ膨れている彼女に何を言うべきか考えながら彼女の観察を始めた。


 (何で気付かないのよ! )


 彼氏を呼び出した女性は一人憤慨していた。

 今日は二人が付き合い始めた三カ月記念。

 小まめな性格をしている彼女からすれば、今日という記念日を蔑ろにされるのは我慢できなかった。


 (急に呼び出したのは……悪い、と思うわ。けどそれはそれよっ! )


 日本に祝日があるように記念日、というのは大切なものだ。

 男女の間でもそれは通用する。

 記念日を忘れられ彼女がささくれ立つのも理解できるかもしれないが、今回は男性を責めるのは酷かもしれない。


 二人はこの日を記念日にすることをすり合わせていない。

 一か月、一年または半年ならば男性も気付くだろう。

 しかし今回は三カ月記念。余程まめな性格の男性でなければ事前予告なしに三カ月記念を察するのは厳しいかもしれない。

 がそのような事情は彼女には関係ない。

 苛立ちを隠せないまま「まだわからないの? 」と表情で訴えながら腕を組み直す。

 テーブル下に隠されていた手があらわになる。

 指には思い出の詰まった指輪が一つ。彼が指の輝きを見ると、彼が目を見開き恐る恐るといった表情で彼女に聞いた。


「もしかして今日は付き合い始めて三......カ月? 」


 聞くと彼女はぱぁっと表情を明るくする。

 彼女のささくれ立った気持ちが一気に霧散し、緊張していた空気が弛緩する。

 空気の変化を感じ取り、男性は正解を引いたことに心の中で大きく安堵の息を吐き、「ごめんね」と謝った。

 彼女は「気付くの遅い! 」と怒るような態度をとるが、表情を完全に緩ませる。

 今度は忘れないようにと彼氏に釘を刺し、二人は今日のデートの予定を立てて、カフェを後にした。

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不機嫌の理由 蒼田 @souda0011

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