第15話、友
王宮に戻れば、王の姿を見た
「天子様、ご無事で……」
「どうなった」
「賊は全て殺すか捕らえました。しかし……」
「叔父上か」
衛尉ははっと、顔をあげ、また頭を下ろす。
「は……賊をひきいれたと大宰様が……」
「いい」
顔を上げぬまま、衛尉はぴくりと肩を揺らした。
「
「は……」
「予は、賊が来ることを知っていた。太傅に賊を引き入れ、一網打尽にせよと命じたのだ」
衛尉が一度息を飲んだのが分かった。にわかには信じ難いことだろうが、ここは信じてもらわねば困る。
「これは予が策である。負傷者はいるか」
「は、数名が……」
「ならばその
「叔父上はここか」
夜燈の
「天子……よかった。上手く逃れられたのですね」
か細い声が尚王を呼ぶ。いつもの堂々とした振る舞いと全く異なるその音に、尚王は背を正した。
「いや、衡大公のところに行ってきた」
「……何故」
「
夜燈は目を見開く。
「北の大国、異民族の侵入を防いでいる衡と戦はできない。……それに、なにも太師は戦乱を起こそうとしていたわけではない。ゆえに『俺がしっかりと国を治め、今後はつけいる隙を与えない』と、そう言った」
夜燈はじっと聞いていた。しばらくの間、言葉を発さなかったが、やがて嘆息するように漏らした。
「私は、王を助けるつもりで軽んじていたようです」
夜燈は衡大公が動くのを察し、どうしようか考えたはずだ。十二年前からずっと疑っていたのだから。自らと通じることで襲撃を予測し、備えた。その後は? 当然捕らえられるに決まっている。その上で衡大公を告発し、衡を潰す口実にするつもりだった。大きな戦が起きたとしても、ここで俺の敵を全て片付けねばならないと思ったのだろう。
衡大公の前で取り違えられた杯を見せたのも、王位を簒奪するつもりがあると見せるためではないか。衡大公は夜燈を王殺しの主犯とし、自身が大義を持って処断する算段だった。夜燈と衡大公は賊を挟んで協力しているように見えて、内では探り合い、お互い潰し合おうとしていたわけだ。
まったく、王が殺されなければいいとはいえ、夜燈が衡大公と共倒れになれば、誰が衡と戦をすると思っているのだ。この男は俺を軽んじているのだか信用しているのだかまったくわからない。
「……今はまだ、
尚王は王としてあろうと思う。けれども思うだけでは足りない。今回の件は、俺はまだ十四の子供であるとしみじみ実感する出来事だった。夜燈も、衡大公も、良い臣下と上手く付き合い、使わねばならない。尚王はそれから大舟に向き直る。
「大舟、おまえには悪いことになる。太師も叔父上も死なれては国が
「……もうよいのです。天子様が分かってくださったので、慰めになりました。私は、ずっと父が死んだ理由を知りたいと思ってきました。けれども、本当に知りたかったのは、その意味だったのです。天子様が生きて、この国にあるために必要だった。今はそう思えます」
王の言葉を
「あとは、毒を使った咎めなりなんなりと。私は全て天子様に従います」
「……そうか」
尚王はこくりと頷いて見せた。
「ならば、近習として取りたてよう。俺が
大舟が驚いた顔のまま、夜燈に目を移す。その夜燈は窪んだ目で笑ったように見えた。
「王の命を助けた
「そうか。なら、もうひとつ頼みがある。これは命令ではなく……」
「王のではなく、俺の友になってはくれないか」
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