第2話、宴
そういうわけで、衡大公が都に参上すると王自ら迎えもてなすのである。夕刻、着替えた尚王は、衡大公と宴を催すことになった。とはいえ
離宮に敷かれた上等の
その中央には
「尚王様。息災でなにより」
「太師も変わらず元気なことだ」
衡大公はもう八十を過ぎている。それにもかかわらず、しゃんとした出立ちで礼をとった。夜燈が「あのかたは仙人ではないか。でなくば……」と呟いていたのを聞いたことがある。仙人というのは
「太傅がうるさくてかなわぬ」
「はは。夜燈様は昔からそうでした。よく泣いては兄君――尚王様の父君ですな、その後ろに隠れる子でした」
「太師……」
余計なことをと夜燈がわずかに眉をひそめた。三十も半ばになる夜燈を赤子のように語るのは、さすが祖父の代からの重臣といったところだろうか。祖父の太師であり、皓華を倒した父や夜燈の教育もしていたというから頭が上がるはずもない。返す言葉をなくした夜燈を見るのはなかなかに面白かった。
欲のない気の良い老人のように見える衡大公は、その情報を武器に
「では」
尚王は客人に酒を注ぐと起立して平たい
「やれ、歳をとると酒がききます」
そう言って衡大公は
「酒は百薬の長ですが、飲み過ぎれば害になりますから」
「ああ。では、薬になるだけ飲むことにしよう」
まず
……俺は王であるのに。決めるのは全部大宰である夜燈で、俺は王として何もしていない。なにもしていないのに王であることばかりを求められている。俺が王としている意味はあるのだろうか。夜燈が尚王を廃そうとしているとの
「燿、食べてる?」
「ん」
仲燿は夢中で蓮根を食べていた。兄のことなど眼中にないようだ。そう言えば、夜燈はあまり食べていないな。食事にも礼節を要求する彼のことだから、
「おや、いかがなされましたか」
「うん? なんでもない。太師は存分に食べたか」
「はい、十分いただけましたこと天子様に感謝いたします」
衡大公は快活に笑って見せた。老いなど感じさせない、あと十年はこのまま生きるのではないかと思える顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます