ATフィールドの向こう側で

高山小石

お題「ささくれ」

 指先にできるささくれはトラウマと似てる。普段はなんともないのに、なにかとふれた瞬間かなり痛い。


 死相が見えるくらい弱った相手に対して、ただただ悲しいと感じていたはずなのに、怒声を聞いた瞬間、自分を覆う壁ができたのがわかった。

(まさにATフィールド)

 二次元ナイズされた自分が自分を冷笑する。


 言葉の元となるATフィールドは六角形のオレンジ色だが、自分を覆う心の壁は当然ながら見えない。

 見えない透明の壁を展開した状態、自己防衛特化状態になると、周囲からはなにも入らなくなる。


 未熟な私からは表情が消えているだろうが、目の悪い相手からは見えない。


 私から相手に対して、普段なら意識しなくても思える「相手にとってなにかしてあげたい」という気持ちが一切消えるけれども、相手には伝わらないだろう。私がいつもすごく献身的というわけでもないので。


 私は、おそらくその場で望まれているであろう正解の行動をとる。意思からでなく反応なので、そこに心はない。心なくとも自動的に動けるくらいには生きるのに慣れているので問題はない。


 こんな風にやり過ごせるならまだいい。

 

 頻繁に(目の前から消えてくれないかな)と思わされるのがしんどいのだ。なにが悲しくて日常で誰かの不在を願わねばならないのか。


 一時期、あまりにも頻繁過ぎて、楽になるにはどうしたらいいか考えた。


 平和な根本的解決方法として、

①相手と離れること。

②話し合うこと。

 で、どちらもやってはみたものの解決には至らなかった。


 そうなると、過激派な心は直接的な解決方法を支持してくるが、疲れ切った心は動けないので、現状維持が続く。


 膠着こうちゃく状態が続く間に少しずつ頻度が減り、「そんなこともあったかな」と錯覚する頃に。


(目の前から消えてくれないかな)


 私のささくれは治ってなどいなかったのだと思い知らされる。

 久しぶりでフィールド展開も間に合わず、大ダメージを受けてしまった。


 いつ何時も油断してはいけない。

 

 

 

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ATフィールドの向こう側で 高山小石 @takayama_koishi

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