ささくれ

@curisutofa

ささくれ

指先ゆびさきがささくれったな』


夕飯ゆうめしの後に今回は同じ依頼主に雇われている、傭兵ゼルドナー仲間と二人きりで雑談をしていると。ふと自らの指先ゆびさきがささくれっている事に気が付いた。


軍場いくさばでは日持ちのする保存食等の糧食りょうしょくしか手に入りませんから、貴方のように屈強な肉体をしている傭兵ゼルドナーでも、かたよった食事の内容により、指先ゆびさきがささくれつ事があるのですね』


異国出身のわしに対しても、同じ傭兵ゼルドナー仲間として接してくれる、金髪ブロンデス・ハール瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳をしている、殺伐さつばつとした軍場いくさばには似つかわしく無いと感じさせる中性的な絶世の美貌の持ち主の言葉に。思わず苦笑を浮かべて。


『異国の平民身分出身である、黒髪シュヴァルツ傭兵ゼルドナーであるわしでも。指先ゆびさきがささくれてば痛みは覚えるからな』


わしの話に対して、同じ依頼主に雇われて攻囲戦を行っている夕闇ゆうやみが迫る街に。金髪ブロンデス・ハール傭兵ゼルドナー仲間は、瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳の視線を向けると。


『私達が今回受けている依頼内容は、敵対する貴族諸侯が御治めになられていられる御領地である街を焼き払い、灰燼かいじんする殲滅戦フェアニヒトゥング・フェルトツークですけれど。止事無やんごとない身分の皆様方からすれば、自力救済フェーデの慣習により故郷を滅ばされる領民の事は、御自身の指先ゆびさきに出来たささくれ程度の痛みも覚えられないのでしょうね』


キョロッキョロッキョロッ。


…上位の身分であらせられる貴族諸侯の皆様方に対する、かなり危険とも受け止める事が出来る発言を聞き。思わず周囲に聴き耳を立てているやからが居ないか見回して確認をするわしに対して。


『貴方は本当に善良な人物ですね。危険発言をした私の事を依頼主に報告して、小遣い稼ぎをしても良いのですよ?』


夕陽が西の地平線に沈む逢魔おうまとき黄昏たそがれの中で、わし傭兵ゼルドナー仲間の瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳を真っ直ぐに見詰めて。


『仲間を売るつもりは無い。金で雇われて戦う異国出身の平民身分の傭兵ゼルドナーであっても、人間として譲れない一線がある』


一介いっかい傭兵ゼルドナー風情ふぜいに過ぎぬわしによる、身の程をわきまえていないとも感じられる決意表明を聞いた奴は、初めて見せる表情を浮かべて。


『貴方のような人物こそが、御領地と領民を御治めになられる貴族諸侯となられるべきです』


ふむ?。


『異国出身の平民身分のわしが、御領地と領民を治める貴族諸侯か?』


突拍子とっぴょうしも無いと感じる発言内容を思わず聞き返すと、奴は楽し気な笑みを浮かべて。


『ええ。貴方ならばきっと他者の痛みを指先ゆびさきに出来たささくれ以上に感じて理解をしてくれる、素敵で素晴らしい御領主様になられると思いますよ♪』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ささくれ @curisutofa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ