第2話 外人嫌悪

 死体が発見されたということで、警備員も、当然自分の会社に連絡を入れ、そこから、おそらく、ビルの管理会社の方に連絡があることだろう。さすがに、時間が、もうすぐ日付が変わろうとしている時間、都心部は、人通りも少なく、ヤジ梅もほとんどいなかった。

 そもそも、殺人事件が起こったとしても、日ごろから人の多いところなので、別に誰も気にするということもないだろう。

 それを思えば、警察の方としても、

「まず、目撃者は期待できないだろう」

 ということであった。

 ただ、一番近いとすれば、隣の、

「ほか弁屋」

 なのだろうから、聞き込みを行うことは、必然だったのだ。

 まずは、警備員からの話を聴くべきで、話を聴いているうちに、刑事の方としても、何やらおかしな感覚になってきた。

 聞き込み内容を一通り聞いて、最初に口を開いたのは、迫田刑事だった。

「今のお話で、一つ気になったのですが、あなたは、最初から、この非常口に向かった扉を開けようと思ったんですか?」

 ということであった。

 警備員も、最初はよくわからずに、

「どういうことですか?」

 と聞くと、

「いえね。非常口を開ける必要が、どこにあったのかと思ってですね」

 と迫田刑事がいう。

「ええ、あの時は何とも思わなかったんですが、そういえば、確か、ここの扉が半分相手いたと思うんです。エントランスの明かりはついていて、暖かい感じがしたのに、すーすー風が吹いてくる感じがしたので、見てみると、非常口のところが、黒くなっていて、そこから風が入ってきたんですね」

 という。

「そこがおかしいということなんですよ」

 と、迫田刑事がいうと、

「何がですか?」

 と、警備員は、まだ分からないという様子だった。

 迫田刑事の隣にいる田村刑事は、さすがに分かったみたいで、迫田刑事を見つめていた。

「いいですか? ここの警備をこのモニターが一括管理をしているのだとすれば、向こうの非常口が開いているというのは、おかしくないですか? ここは密室でなければ、警備の必要はないわけで、しかも、向こうの非常階段は、最初から表みたいなものじゃないんですか。極端な話、警備を掛ける必要がどこにあるのだという思いになっても、無理もないことだと思うんですよ」

 というのだった。

「なるほど」

 といって、警備員は考え込んだ。

「どうして、気付かなかったのだろう?」

 と思ったが、考えているうちに、考えがまとまってきた。

「なるほど、確かにそうですね。私たちは、今までこれが当然だと言わんばかりに思い込んでいたので、不思議に思わなったのですが、言われてみればそうですね」

 と警備員は言った。

 警備員は、自分の中で、理屈のようなものが働いていた。

 そして、

「これは、どう考えても、ここのマンションの勝手な理屈で、刑事が言う通りなのに、違いない」

 ということである。

 それを考えながら、警備員は話し始めた。

「これはあくまでも、管理会社の勝手な理屈になると思うので、他人事になったり、辻褄は合わない状態になるかも知れませんが、我慢して聴いてください」

 と、警備員は言った。

「ええ、分かりました」

 と、迫田刑事は言った。

「実はですね。この問題は、隣のほか弁屋が絡んでくることなんですが、隣のほか弁屋は、このビルの一部になるんですよ」

 と言い出した。

「ほか弁屋が?」

 と聞いて、迫田は頭を傾げた。

 その理屈はすぐに田村刑事にもその疑問の意味がすぐに分かったが、それまで、警備員が話を続ける。

「ええ、あのほか弁屋というのは、結構前から、このビルの横で経営をしているんですが、ほか弁屋は、このビルとは関係があっても、警備に関しては、まったく別だったんです」

 というではないか。

 逆に迫田刑事も、田村刑事も、それを聞いて、

「いかにもその通り」

 と言わんばかりに感じていた。

「というのも、ほか弁屋のフロアには、出口も更衣室も、基本的には、すべて揃っていたですよ。ただ、一つだけ、肝心なものが揃ってなかったんですよ」

 というのだった。

「というのは?」

 と聞くと、

「ああ、それは、実はトイレだったんですよ」

 というではないか?

 それを聞いて、今度は刑事の方が何か呆れたかのように、

「トイレ?」

 と、裏返りそうな声で聴いた。

 それだけ意外な答えであり、

「なるほど、肝心なものであり、何とも無様なことか」

 と考えたのだ。

「ええ、トイレがないもので、問題になったそうなんです。さすがに立ちっぱなしで、足元から冷えるような仕事だと、トイレが近くなるのは当たり前というもので、それで問題になったんですよ」

 というので、

「それはいつ頃のことだったんですか?」

 と迫田が聞くと、

「2年くらい前に問題になったんです」

 というので、

「おや? ほか弁屋ができたのは、5年くらい前だと伺いましたが、その間の3年間はどうしていたんですか?」

 と聞かれて、

「2階に、学校があって、そこのトイレを使わせてもらっていたので、問題はなかったんです。だけど、學校が立ち退いて、別の会社が入ると、その会社はセキュリティの問題などもあって、トイレは貸さないということで、問題が持ち上がったということなんですよ」

 と警備員が言った。

「それで、ここ2年くらいで問題になったということですね?」

 と刑事がいうと、

「ええ、そうです。何と言っても弁当屋なので、厨房だけで広さはいっぱい、トイレを作るスペースはない。しかも、ほか弁屋から、非常階段のフロアに出ることはできるので、じゃあ、非常階段のところということになったのですが、広さもなければ、ボイラー室の横というのは、消防法にも、逃げるところがないということで引っかかってしまう。そこで、さあどうするかということになったんですよ」

 というのだった。

「どうしたんですか?」

 と聞かれた警備員は、

「しょうがないので、苦肉の策として、エントランスの中の開いたところにトイレを作ることになったんです。幸いにもエレベータを出てちょうど左側に扉があって、最初は倉庫として使っていたんですが、そこを使うのが手っ取り早いということになった。何と言っても、上の階のトイレも同じ立地にあるので、ここをトイレとして使用するのが、一番正しいということになったんですよ」

 と警備員は言った。

 さすがにそれを聞いて、二人の刑事も、

「なるほどなるほど」

 と頷いたが、迫田刑事は、何かそれでも違和感があった。

「本当にそれでいいのか?」

 ということであったが、さすがにすぐには、思いついたわけではなかったのだ。

 迫田刑事は、頭を整理する意味でも、少しずつ訊ねてみた。

「このフロアにトイレを作ったというのは、まあ、背に腹は代えられないという意味での苦肉の策というイメージなんですが、それで、問題にはなりませんでした?」

 と聞いた。

 警備員も、

「ええ、確か、問題にはなったと思います。たとえば、非常口の扉を開けておいていいのかどうかという問題が最後に残ったんですよ」

 という。

「どういうことですか?」

 と迫田が聞くと、

「要するにですね、ここのビルは、ほか弁屋以外は、普通の会社の事務所が入っているわけで、ほとんどの会社が、9時始業時間、18時が終業時間ということになっているんですよ。でもですね、ほか弁屋と歯医者さんは、そういうわけにはいかない。お客さんがあって、患者さんがあるわけですね。歯医者はいいとしても、問題はほか弁屋。営業時間は、昼前の11時から、夜の11時までということなんですよ。だから、今回この時間に警報がなって、我々が駆けつけたということなんですね」

 と警備員は言った。

「そもそも、今日警報が鳴った理由を何だと思われますか?」

 と聞かれた刑事員は、

「あくまでも、ここに死体がない場合ということで聞いていただきたいんですが」

 と警備員は、前置きをして話始めた。

「そもそも、このビルの警備は、ほか弁屋以外の他のフロアの会社が担っているんです。自分たちが、すべて一つの会社なので、フロアの警備を完璧にしておいて、普通に、そのフロアの警備だけを掛けて帰るんですね。ということは、その間は、このエントランスは警備が掛かっていない状態なんですよ」

 と、警備は言った。

 それをm刑事も、

「うんうん」

 と聞いていたが、実に当たり前のことを当たり前に言っているだけだった。

「ということはですね、トイレに行くためにここを歩いて幾分には、問題ないということですね?」

 と刑事にいわれて、

「ええ、そうです。ここからが、苦肉の策のために、警備の方法を変えざるを得ないのですが、要するに、他のビルの人たちが全員帰る時間になった時には、もう、どこのフロアもいないわけです。ほか弁屋以外にはですね。だから、ほか弁屋が営業中であっても、このエントランスは、警備が掛かっているということです。でも、すべてに警備が掛かっていると、ほか弁屋がトイレに行けないということになる。それを防ぐために、非常口の扉のところから、トイレまでは、警備が掛からないようにするというようなメンテナンスが行われているんですよね」

 と警備員が言った。

 それを聞いて、迫田刑事は、頭の中で、

「なるほど、先ほどの違和感というのは、このことだったのか?」

 と感じたのだ。

「なるほど、そういうことなんですね? でも、もう一つ違和感があるんですが、だとするとですよ。ほか弁屋の人たちは、ここのカギを持っていないといけないということですよね?」

 と迫田刑事が言った。

 すると、今度は、警備員の方が、頭を傾げるように、不可思議な顔をした。

 それを見て刑事は、

「あれ? なぜ分からないんだ?」

 と感じたが、

「きっと、慣れというものと、今までの感覚が邪魔をするのかも知れない」

 と感じたのだった。

「おっしゃっている意味が」

 と案の定、警備員も混乱しているようだった。

 ただ、冷静に考えれば分かることでも、えてして、一旦袋小路に入ってしまうと、簡単なことでも分からなくなってしまうのだろう、

「どういうことかというとですね。ここは、警備を掛けるということになるのだから、非常階段側の扉もカギを掛けなければいけないということですよね? だとすればカギがないといけないと思うんですよ」

 という、

「それは分かります」

 と言われ、刑事は、

「ああ、なるほど、自分たちのかかわりのある時間以外は意識していないんだ」

 と迫田刑事は感じ、

「それも仕方のないことか」

 と思ったので、

「まだお分かりではないようですね」

 というと、迫田刑事は、ニコリと笑って、

「ここのカギを持っていなければ、彼らが朝来た時、どうなります? この扉は、内側からカギがかかったままということですよね?」

 といわれ、

「ええ」

「じゃあ、弁当屋は来てから、最初の人が、エントランスの玄関から入って、エレベーターの奥を開けないといけないということになりますよね?」

 と刑事がいうと、

「ええ、でも、その時間には、他の会社の人たちが、9時には来ているのでは?」

 というと、今度は迫田刑事は、ニンマリと笑って、

「じゃあ、土日はどうなるんです? 祭日もありますよね?」

 というと、やっとわかったのか、警備員も、

「あっ」

 というのだった。

「ね、そうでしょう? 普通の会社は、基本、土日休みだし、歯医者も、祭日は休みだという。でも、お弁当屋というと、年中無休化、正月の一時期くらい以外は、ずっと開いているはずですよね。そうなると、困るのは、弁当屋ということになる」

 と、迫田刑事がいった。

 それを聞いて、警備員は、

「後で閣員してみますが、彼らは確かカギを持っていないと聞きました」

 と、いうのだった。

「ということは、常口の扉は、施錠されることはないということになるので、あの扉が半分開いていたというのは、無理もないということですよね? 内側からカギを掛けるしかないわけですからね」

 ということであった。

 なるほど、さすが迫田刑事は頭が切れる。

 この場所には、初めてきたはずなのに、話を聴いただけで、その矛盾をすぐに感じたというのだから、敏腕といってもいいだろう。

 しかし、逆にこういう疑問は瞬時に感じることがなければ、結局は、

「後になればなるほど、分かることはない」

 ということになるに違いない。

 そういう意味で、

「迫田刑事の頭の良さは、お墨付きだ」

 と、田村刑事は感じていた。

 ここまでいうと、警備会社の人も、何やら、冷や汗を掻いているようで、明らかに動揺していた。

 そこには、

「本当は分かっていたが、警備会社としては、それを許すというのは、本当はいけないことなんだ」

 という、ジレンマのようなものが感じられるということであった。

 それを感じた迫田刑事は、

「これ以上、下手に苛めて、得られるはずの情報を得られないというのも困ったことだ。しかも、もし、この後犯人が捕まって、裁判になった時、警察に不利な証言などされてしまうと、溜まらない」

 という思いもあったのだった。

 だからこそ、迫田刑事は、

「突き詰めなければいけないことは、しっかり言及し、追い込まないようにはしないといけない」

 という考えを持っていたのだった。

「申し訳ありません。どうしても、ここのお入れを後から作ったという関係で、どうして、も、そういういびつなことになったんですが、我々も、なぜ、弁当屋が、非常口のカギを持っていないのかということが不思議なんですよね」

 と警備会社は言った。

「ええ、今の状態では当たり前のことになるんでしょうが、その当たり前のことをさらに当たり前のこといするという意味の発想を、どうして誰もしないのかということが私には信じられないんですよ」

 というのだった。

「どういうことですか?」

 と警備会社に聞かれた迫田刑事は、

「だってですね。弁当屋も同じように、1階のフロアの住人というわけなんだから、彼らも他の事務所と同じように、ここのモニターで、同じように警備を掛ければそれでいいだけなのではないかと思うんですが、それができない理由でもあるんですかね?」

 と言った。

 それを聞いて、警備員も、今までの鬱憤が急に晴れたような気がしたが、

「ああ、なるほど確かにその通りだ。私どもも、途中からトイレ問題が起こったことで、どうしても、警備の問題を後追いしてしまうところがあったので、気にもしていなかったけど。確かに刑事さんのおっしゃる通りです」

 と警備員も言った。

「そうでしょう? そうすれば、何も問題が起こることもないし、すべてがうまくいくはずなんですけどね」

 というと、警備員が、

「あの弁当屋の連中は、基本的に皆外人ばかりなので、警備の掛け方が分からないんじゃないですか?」

 というと、

「そんなことはないでしょう。あいつらだって、日本に来る以上、一通りの日本語と、機械の操作方法くらいは分かるようにしているでしょう。まさかそれが分からないほどの、バカだったということなんでしょうかね?」

 と、迫田刑事は言った。

 迫田刑事は、基本的に、外人は嫌いだった。刑事という仕事をしているから、表向きは平等を装っているが、警察でもなければ、思い切り差別的な目で見ていることだろう。

 警備員も、さすがにそこまではいかないが、どこか、外人をバカにしているところがあり、だからこそ、このビルで起こっている疑問に思えることを、

「疑問だとは思わない」

 ということなのだろう。

「警備員もmどうやら、自分と同じように、外人どもをバカにしているところがあるんだな」

 と思っていたが、迫田刑事は、刑事の勘として、

「今回の事件は、外人どもを今までのように、ただのバカと思って見ていると、解決を見誤るかも知れないな」

 と、考え、普段よりもさらに冷静になってみるつもりだった。

 迫田刑事は、K署の中では、

「敏腕刑事」

 として有名で、他の刑事からも一目置かれている。

 少し外人をバカにしているところがあると思っていたが、話をしてみると、迫田の考えも分からなくもない。

 上司とすれば、

「コンプライアンスの問題から、外人差別はいけないのだが、迫田刑事は、そのあたりを表に出さないようにしていることで、まわりからも、何も言われない状態になっているのだ」

 ということであった。

「そもそも、今まで、最初からトイレがないことに気づかなかったというのも、気付かなかった方が悪い」

 といってもいいだろう、

 話を聴くと、ここのほか弁屋のチェーンの社長も、アジア系の外人だという。

「やはり、しょせんは、そういうことなんだな」

 と、迫田刑事は、自分で勝手に納得していた。

 だが、この考え方が、迫田刑事なのであり、

「敏腕の敏腕たるゆえん」

 だということなのであった。

「そんなに、最近の弁当屋というのは、外人が多いのか?」

 と、迫田刑事は、田村刑事に聴いた。

「ええ、そうですね。特に都会のお店は、そういうところが多いようですね」

 と、いうと、

「まるでコンビニみたいじゃないか」

 と、結構コンビニには顔を出す迫田刑事は、そういった。

 ただ、迫田刑事は、コンビニにはあまりいいイメージを持っていない。前述の、レジ袋の件も、迫田刑事が考えていた件だったのだ。

 そのことを思い出してみると、

「そういえば、確かに外人が多いわ」

 と吐き捨てるように言った。

「本当に、迫田刑事は、外人が嫌いなんだ」

 と、田村刑事は感じた。

 実際、田村刑事も外人は好きではないが、

「ここまでの思いを感じることはないな。あの迫田刑事が、こんな態度を取るのだから、相当に嫌なことがあったに違いないな」

 と思ったが、

「迫田刑事のことだから、自分から、そのことを話すことはないだろう」

 と感じ、

「もし、あるとすれば、それこそ、嫌いになったことが関わった事件でも起こらない限りはないことだろう」

 と思うのであって、まずは、普通に感じられることではないだろう。

 他の署では分からないが、K警察の場合は、迫田刑事を始めとして、外人どもを嫌がっている人は少なくない。過激な人によっては、

「国外追放にすればいい」

 などという物騒な話をしている人もいるくらいだ。

 確かに、K市というところは、外人による犯罪が多く、しかも、凶悪犯であったり、愉快犯、猟奇犯罪といった、

「極悪非道な犯罪」

 というと、外人によるものが多かった。

 特に最近では、夜になると、どこから湧いて出るのか、夜中ウロウロしている。そのせいで、治安の悪さは、ひどいもので、

「まるで無法地帯だ」

 と言わんばかりの状態になっていた。

 それでも、そこまで世間が何も言わないのは、

「事件が起こっているといっても、一部だけのことで、実際には、表に出ていない犯罪というのが、実は山ほどあるというのが、やつらの特徴だ」

 ということであった。

 しかもである。

 これは、実しやかに囁かれているということだと言えばいいのか、実は、

「K市には、外人集団による、犯罪組織が暗躍している」

 という話が、水面下ではあるというのだ。

 まるで、ドラマのような話しなので、信憑性の有無については、なかなか難しいところではあるが、実際に、K市において、外人によるあらゆる事件が多発していることから、

「あいつらは、このK市を、モデルとして、犯罪計画を練っていたり、下手をすれば、国家転覆を狙っているのかも知れない」

 ともいわれた。

 だが、実際に笑い話にはできない。その証拠に、今から四半世紀前に起こった、ある宗教による、

「国家転覆計画」

 のようなものがあり、あたかも、テロ組織顔負けの犯罪があったではないか、

 宗教団体というと、

「得体の知れない」

 ということを言われながらも、

「まさか、宗教に関わる人たちが、凶悪な犯罪をするなどとは考えられない」

 と言われていたのに、あの事件である。

 外人であれば、もっと恐ろしいのではないだろうか。何かの組織が暗躍していて、その部隊として、

「外人部隊が組織されている」

 といっても過言ではないだろう。

 実際にK警察署内部で、

「外人部隊撲滅隊」

 と仮称で呼ばれている団体があるが、実際には、警察内部でも、一部でしか知られていないものだった。

 さすがに刑事課は、犯罪捜査の関係上、K署では皆に知られているが、それ以外の警察署でも、いろいろと騒がれているようだった。

 さすがに、街が凶悪化していることで、他の署でも、

「K警察では、やつらに対しての本格的な捜査機関を設置しないと、下手をすれば、世間から叩かれることになるかも知れない」

 という話も出ている。

 というのも、マジな話で、最近では、県警の方でも、真面目に、

「マルボウ」

 ならぬ、

「マルガイ」

 のようなものをつくろうという話も出ているのだ。

 ただ、これに関しては、外人の一部からも、警察に対して、

「設立をお願いします」

 という話も出ている。

 というのは、それらの要望を出している人たちというのは、

「真面目に暮らしている外人」

 という意味で、彼らは、キチンと日本の風土や習慣、風俗までも、勉強して、真剣に学びに来ている人で会ったり、仕事をしに来ている人である。

 日本で爆買いしたり、金があるからといって軽い気持ちで遊びにきたり、日本で金儲けできるからというだけの理由できている連中とは違うのだ。

 警察といっても、さすがに、細かいところの、

「外人連中の性格であったり、生態的なことが分かるわけではない」

 ということで、なかなか難しいところもあるが、

「真面目に日本に来ている連中」「

 というのは、分かっているつもりである。

 そういう連中からすれば、

「一部の不真面目な連中のために、俺たちのように、真面目にやっている人間まで、白い目で見られる」

 ということを真剣に憂いていて、

「それを何とかはねのけよう」

 としている人たちが、

「本当に真面目に考えている」

 という人たちであろう、

 考えているだけで、何もしない連中は、正直、あくどいことをして、

「人の迷惑を考えない連中と同類だ」

 といっても過言ではないだろう。

 それを考えると、K警察も、最初は、

「そんな組織を作って、何になるというんだ?」

 ということであったが、

「真面目な外人連中の気持ちを考えると」

 ということであるが、ただ、その後ろに、

「外務省であったり、各国の大使館などの影響が絡んでいるのではないか?」

 ということも、ありえないとはいえない。

 それでも、誰かが、どこかで必ずやらなければいけないことだということは、誰もが心の中で思っていることであり、それが、あたかも、

「今でしょ」

 とばかりに、K署で結成されたというのは、自然な流れだといえるのだろうか、

 もちろん、そういうエキスパートが集まっているので、こういう組織は、全国から選りすぐりの刑事が集められている。

 見た目は、

「ただの転勤」

 であるが、中には、県をまたいでの人もいたりするのを考えると、

「普通の組織というわけではないな」

 というのも、見る人が見れば分かることであろう。

 これはもちろん、

「K市だから」

 というわけではない。

 同じように、外人どもに、好きなように犯罪を犯されているところは、全国にいくらでもある。

 そして、K市にあると目されている、外人どもによる、

「テロ組織」

 のようなものは、全国にあることだろう。

「一つが潰れても、アジトは、他にもたくさんある」

 という感じで、それこそ、

「秘密基地」

 という感じである。

「いかに警察の目をごまかすか?」

 ということで、

「完全に、キツネとタヌキの騙し合い」

 である。

 だが、相手もなかなか尻尾を出さない。特に、今は昔のような検挙も難しくなっていて、捜査自体も、昔のような、

「何でもあり」

 というわけにもいかなくなっただろう。

 今も通用するかどうかは、難しいところであるが、

「別件逮捕」

 あるいは、

「おとり捜査」

 または、

「情報屋を潜入させての捜査」

 など、どこまで通用するかということであった。

 つまりは、コンプライアンスの問題であるが、それだけに、

「特殊チーム」

 を警察内で作り、専門的に、捜査や、検挙を行うという、昭和時代のハードボイルドドラマで出てきた、

「Gメン」

 というのが、それにあたるのではないだろうか?

 それにしても、今の時代に、そんな裏組織が、外人によってつくられているなどと、誰が信じられるだろう?

 それなのに、政府のバカどもは、

「インバウンド」

 などと言って、外人どもを受け入れ、

「金を使わせる」

 などと、悠長なことを言っているが、それが、亡国への道をひた走っているということをまったく知らないのだ。

 それが、日本の政治家というもので、そんな連中に対して、

「日本に来てください」

 などと言っているというのは、何とも、これ以上の、

「お花畑などない」

 といってもいいだろう。

 外国からすれば、簡単に日本に潜入し、情報も抜き放題なのだ。

 それはきっと、日本政府のバカな連中が、

「バカな外国人に金を使わせ、安い賃金で働かせる」

 ということをもくろんでいるのだろう。

 もちろん、これも、すべての政治家が、

「バカな連中だ」

 とは言い切れないだろうが、少なくとも、ソーリや、ソーリの取り巻きの連中は、

「ただのバカでしかない」

 ということであろう。

 史上最低のソーリと言われ、支持率も最低ラインを低飛行しているのに、

「しばらく選挙がないから安心だ」

 と、こちらも大園芸のような、お花畑で、

「自分がどこにいるか分からない」

 という状態になっているということを、まったく分かっていないから、バカの連鎖なのであった。

 そんなK市の雑居ビルで起こった殺人事件。被害者が誰なのか、すぐに分かると思われた。

 なぜかというと、殺されたタイミングと、殺された男が、

「外人だ」

 ということが分かったので、

「こいつは、この弁当屋の店員の一人ではないか?」

 と思われたからだった。

 警察も、

「まず、弁当屋の関係者に違いないだろう」

 と考えていたことと、何といっても、時間的に、目撃者がいるかも知れないということで、弁当屋の人にも、連絡だけは入れておいた。

 鑑識による被害者の状況が報告された。

「現在、分かることだけをかいつまみますと、まず、凶器は、胸に突き刺さっているナイフに違いないと思われます。正面から突き刺しています、どうやら、胸に突き立てて、もたれかかるようにしたので、その分、深くえぐられているようですね。ある程度、即死に近かったと思います。それに正目から突き刺しているわりには、抵抗した後があまり見えないので、顔見知りの犯行か、まさか、その人に刺されるとは思ってもいなかったのか、それとも、プロによる犯行で、電光石火のようなものだったかということでしょうね」

 と言った。

 そのうえで、

「とは言いましたが、最後の電光石火というのは、少し考えすぎかもしれないです。というのは、犯人がどういうつもりだったのか、正面から体重を預けるように刺しているということは、プロという感じではないように思えるんですよ。正面からだと、相手が倒れこんできて、返り血を浴びる可能性もありますからね」

 というのだった。

「なるほど、では死亡推定時刻はいつ頃だったんでしょうか?」

 と聞かれて、

「たぶん、死後、まだ数時間も経っていないということから、死後1,2時間というところでしょうね。それ以上でもなく、それ以下でもないということくらいしか今は言えませんね」

 ということであった。

「じゃあ、被害者の身元で何か分かるものはないですか?」

 と聞かれた鑑識官は、

「それが、身元を示すものは何もないんですよ。財布、パスケースなどは、ポケットから発見されませんでした」

 というと、

「じゃあ、犯人が抜き取っていったということでしょうか?」

 と迫田刑事に聞かれると、

「それは違う気がしますね。先ほども申しましたとおり、争った跡がないのと同じで、物色した感じもありません、それに、ゆっくりしていれば、誰かに見られる可能性も無きにしも非ずなので、犯人の心理からすれば、よほどの何か大切なものでもない限り、すぐに遠くに逃げようとするでしょうからね」

 ということであった。

「なるほど、ということだと、考えられることとして、私は一つの可能性を感じましたね」

 と、迫田刑事は言った。

「それはどういうことですか?」

 と鑑識官が聞くと、

「被害者は、大切なものを、身体以外のところに一つにまとめて持っていたということでしょうね。つまりは、被害者は絶えずカバンのようなものを持っていて、そこに全部入れていた。それを犯人がもっていったということではないのかな?」

 と迫田刑事がいうと、

「じゃあ、強盗の類ということですか?」

 と、今度は田村刑事が訊ねると、

「いや、それは何とも言えないが、問題は、犯人にとって、身元を隠すことにどんなメリットがあるかということなんだよな。俺たちは今、被害者の身元のことだけを考えているからそう思うんだけど、たまたま、カバンを持ち去ったことで、被害者の身元を隠すために持ち去ったと思っているだけで、犯人にとって、身元がバレることなど二の次で、最初から、身元がバレようがどうしようが関係なく、カバンを持ち去るということに、意味があったんじゃないかな?」

 と迫田刑事は言った。

「何のために?」

 と田村刑事がいうと、

「今のところ考えられるとすれば、物取りの犯行だと思わせるということになるかな?」

 と迫田刑事がいうと、

「そうなるといろいろな考え方ができてきますね?」

 と田村刑事がいう。

「そうなんだよ。いくつか、考え方が生まれてくるというもので、たとえば、一番考えられるのが、強盗のような、行きずりの犯行で、動機というものが、ただの物取りであれば、被害者の交友関係からだけでは、犯人を割り出すというのは難しいだろう。それに、犯人が正面から差しているということは、計画的な犯行だということは考えにくい。物取りであっても、普通であれば、ターゲットを決めて、その人の行動パターンなどを入念に調べたうえで、自分たちが捕まらないように計画するものではないのだろうか? それよりも、ひょっとすると、犯人は、最初から殺害の意思があったわけではなく、被害者に何か都合の悪いものを見られたということで、刺されてしまったというケースだね」

 と、迫田刑事がいうと、

「じゃあ、その場合は、顔見知りである可能性も、それ以外の可能性もあるということになり、捜査は難しくなるかも知れませんね」

 と、田村刑事は言った。

「そういうことになるね、現状では、顔見知りの犯行という線が強いような気がするが、何か都合の悪いものを見られたという、衝動的な犯行である可能性もある。ただ一つ言えることは、このナイフがどこから出てきたかによって、事件の様相は変わるということだね。たぶん、犯人がもっていたものの可能性が大きいだあろうね、総合的に考えてのことになるけどね」

 と迫田刑事は言った。

「というと?」

 またしても、田村刑事が聴いた。

「犯人と被害者は争った跡がないということは、被害者がナイフを持っていて、それを奪われるように刺したのであれば、それなりに、あらそった痕跡が残っているだろう。まず、そこで、考えられるのは、犯人がナイフを持って、何かの工作でもしようとしていた、そこへ被害者がいきなり現れたものっだから、犯人は気が動転して、衝動的に殺してしまったということであれば、一応の説明はつく。この場合は、被害者と犯人が顔見知りであったかどうかであれば、顔見知りの可能性が高いだろうけどね。結局あらそった跡がないということは、結果そういうことになるんだよ」

 ということであった。

「じゃあ、犯人が、被害者のカバンを持っていったということは?」

 と田村刑事に聴かれて。

「犯人は、被害者が、いつでも、カバンを持ち歩いていて、そこにすべてのモノを入れているということを知っていたんだろうね。そして、動機が、そのかばんを奪うことであれば、犯人にとって、被害者の身元が分かる分からないは、あまり大きな意味のないことだったのかも知れない」

 と迫田刑事は言った。

「なるほど、さすが迫田刑事ですね、そういわれれば、辻褄が合っていますね」

 と田村刑事は、そういって、迫田刑事を褒めたのだが、二人は心の奥で、

「何か、しっくりこないものがある」

 と考えていた。

 それは、二人とも同じところに引っかかっていたのか、それとも、他に何かあるのか分からなかった。

「死亡推定時刻に関しては、かなりのところでしぼられるのではないでしょうか?」

 と田村刑事は言った。

「どういうことなのかな?」

 と、迫田刑事が聴くと、

「このビルでは、隣の弁当屋が、午後11時までは営業しているというでないですか? だから、犯行時刻はその後ということになり、死体が発見されたのが、警備員が飛んできたのが、11時半ということになるので、その間ではないでしょうか?」

 ということであった。

 それを聞いた迫田刑事が、

「なるほど、それも言えるかも知れない。ただ、一つ気になるのは、犯人がもし、行きずりではないということになれば、なぜ、犯行現場をここに選んだのか? ということなんだよな。ここで犯行を行えば、死亡推定時刻、つまり、犯行時刻も絞られてきて、しかも、すぐに死体が発見されるということは、このビルの関係者であれば、容易に分かるということだからね。といっても、あくまでも、これが、計画的な犯行だということだとしての話なんだけどね」

 ということであった。

「確かにその通りだと思います。そのためには、被害者の特定が急務になるんでしょうが、犯人にとって、被害者の特定というのは、本当に画すべきことだったのかどうか分かりませんからね。そういう意味で、監視カメラの映像というのが、重要かも知れませんね」

 と田村刑事がいうと、さっそく、田村刑事は、その足で、第一発見者となった警備員のところに向かっていた。

「今度の事件で被害者は、どういう役割を演じているだろうか?」

 と、迫田刑事は感じていた。

 もちろん、殺害された被害者ということでの発見なので、重要な役割に違いはないのだが、そこに、他に別の犯罪が潜んでいて、しかも、被害者は、その犯罪とは、直接関係がないということも考えられる。

 ただ、それは、他の犯罪でも同じことだが、それがある程度特定できて、捜査に入るためには、被害者の身元の特定ということが重要になってくるのだろう。

 それを思うと、迫田刑事は、今回の犯罪に、何か言い知れぬ深さを感じたのだった。

「これだけ、目に見えていることが、かなりあって、ある意味、簡単な犯罪なのではないか?」

 と思えるような事件なのに、肝心な被害者の身元が特定できないということで、ただそれだけのことで、襲ってくる、

「この言い知れぬ不安というのが、どこからくるのかということを考えると、ざわざわした気分にさせられてしまう」

 というものだった。

 犯罪というものが、どういうものなのかを考えてみると、

「まずは、被害者が特定され、その犯行現場の全容解明が必要になる」

 ということであった。

 つまりは、鑑識関係の人によって、

「状況から見えてくる犯行の様子が分かってくる」

 ということあ重要だ。

 というのが、

「まず、死亡推定時刻」

 である。

「今回の場合は、比較的早い段階で分かる」

 という。

 先ほどの田村刑事の推理におそらく間違いはないだろう。

 そして、もう一つは、凶器と、被害者の身元だが、凶器は胸に刺さっているので、すぐに分かるが、被害者の身元だけがカバンを持ち去っているかも知れないということで、分からない。

 そういう意味では、身元以外は、状況は手に取るように分かるのだった。

 そういう意味で、後は防犯カメラの映像だが、警備員に聴くと、

「たぶん、殺害の現場を捉えた映像はないのではないか?」

 ということであった。

 というのは、

「防犯カメラはあくまでも、非常扉のエントランス側にしかなく、非常扉の向こう側で起こった事件に関しては、ハッキリと見えているものではない」

 ということであった。

「たぶんですが、肝心な部分は見えていないかも知れないですね」

 というのであった。

 迫田刑事が少し気になっていることを、警備員に聴いた。

「先ほどの話の続きのような形になるんですが」

 と一拍置くと、警備員の方も少し身構えた感じで、

「はい」

 といって聞いていた。

「あなた方が、ここに来たのは、そもそも、警報ビルが鳴ったということでしたよね? 要するに、警備が掛かっているのに、警報が鳴ったということになるんですよね?」

 と迫田刑事は言った。

「ええ、そうです。警備が掛かっているのに、扉を開けたり、警備が掛かっているところをウロウロすれば、当然センサーに引っかかって、警備会社に連絡がきて、我々が飛んでいくというわけです」

 と警備員が言った。

 それを聴いていた迫田刑事は、

「警備会社の方では、ブザーのようなものが鳴るということですか?」

 と聞かれて、警備員は、迫田刑事が何を聞きたいのか、少し分からないと言った面持ちで、

「ええ、そうですね、ブザーというか、キンコンカンコンというような感じの音ですね」

 というと、迫田刑事は少し腕を組み考えながら、

「じゃあ、ここはどうですか? ブザーや、今言ったような、キンコンカンコンという音は鳴るんですか?」

 と聞くと、

「いいえ、音は鳴らないようにしています。もちろん、その設定は、機械の方でするんですが、その設定をどうするの決定権は管理会社の方にありますね」

 ということであった。

「なるほど、ということは、ブザーが鳴っていて、警備が破れたということを、警備を破った連中が知らない可能性があるということですね?」

 と迫田刑事は聴いた。

「ええ、そういうことになります。でも、普通に考えれば、どうすればブザーが鳴って警備の我々が飛んでくるのかということは、容易に分かるというものでしょうね」

 ということであった。

「ということは、可能性としては、そのことを知らない弁当屋の連中がやった可能性が高いということになるわけですね?」

 と、迫田が聞くと、

「ええ、そういうことになります。元々、弁当屋は、このエントランスとは関係のない影響をしていたからですね。今もトイレがないと、同じことだと言います」

 と、警備員が答えた。

 それを聞いた迫田刑事は、

「もう一つ質問なんですが、今まで、この会社と契約をしてから、警備員がこうやって、呼びだしを食らったということが、ありましたか?」

 と言われて、警備員二人は顔を見合わせて、

「実は、何度かありました。今日のような時間が、どうしても一番多いんですよ」

 と警備員がいう。

「じゃあ、パターンが同じだったといってもいいんですか?」

 と聞くと、

「ええ、そうです。だから今日も、どうせ、いつもと同じだという感覚があったのも事実で、急いでは来ましたが、心の中では、人騒がせなことをしやがってという感覚になっていたことは仕方がないことだといってもいいかも知れません」

 と警備員は言った。

 本当はこんなことではいけないということは、警備員も分かっていた。ただ、このビルのことを決定するのは、管理会社である。

「ここの管理会社というのは、どういうところなんですか?」

 と刑事に聴かれて。

「何とも言えないですね。どこか調子のいいところがあって、いつでも簡単にできるというようなアドバルーンを掲げているのが、ここの管理会社という感じです。実は、この前に自動販売機があるんですが、そこの管理は、このビルの管理会社なんですが、ここ1か月、お金を入れてもすぐに全部出てくるんですよ。どの硬貨を入れても同じことで、つり銭キレの表示が消えていないという、実にいい加減な管理をしているところだということがよく分かるという感じです」

 と警備員が言った。

「話が戻りますが、ということは、犯人に、このビルの状況が分からなかったとすれば、犯人が、ゆっくりやっていれば、警備員と鉢合わせということもあった可能性もあるわけですよね?」

 と迫田刑事がいうと、

「それは十分にあったと思います」

 と、警備員が言った。

「この事件において、しっかりしていると思われる部分と、いい加減な部分の両極端に見えることから、事件の全容解明は、想像以上に難しいかも知れないな」

 と、迫田刑事は思うのだった。

 そこへ、田村刑事が戻ってきて、今の迫田刑事の話を要約して聴いてみると、

「まったくその通りだと思います。ただ、私は、何か根拠があるわけではないんですが、この事件には、何か、見えていないものがあるような気がするんですよ」

 と、田村刑事がいうと、

「何か、犯人が隠蔽しているとでも?」

 と、迫田刑事がいうと、

「そこまでは分からないんですが、何か隠れている部分があって、それが事件の根幹に繋がるように思えるんですよね」

 と、田村刑事は言った。

「隠れている部分か」

 と同じように迫田刑事は言ったが、彼がこういう態度を取る時は、

「相手に対して、自分も同意していたり、意見が同じだということを相手に示す気持ちがあるのかも知れない」

 ということであった。

 現場検証を、初動捜査として行っている状況において、どれくらいの時間が経っているというのか、そのうちに、現場にお弁当の従業員数名と、管理会社の人が、次々にやってきた。

 まず、警備会社の人が少し早かったのか、この状況を見て、息を呑んでいるというのか、正直、吐き気を催していたのだった。

 もっとも、そのリアクションは、このような殺伐とした犯行現場では、当たり前のことであり、刑事としては、今までに数えきれないくらいに見てきたものなのかも知れない。

 ただ、これまでは、比較的凶悪事件が起こっていない、ある意味、

「平和な街」

 という印象が深かったK市にとっては、この事件は、

「一大センセーショナルな事件だ」

 といってもいいだろう。

 警備会社の人は、もちろん、一目見ただけで、

「これは重大な凶悪事件だ」

 とは思っただろうが、

「何がどうした?」

 というのが本音であろう。

 昨日までは、実に静かなビルだったのに、一変して、

「黄色い規制線」

 というものが貼られ、そこには、英語で、

「立ち入り禁止」

 を示す言葉が書かれているのであった。

 管理会社の人は、足元で断末魔の表情を見せ、虚空を見ている被害者を見て、

「誰なんですか?」

 と聞くくらいなので、どうやら、管理会社の人にも心当たりはないようだった。

 今度は、弁当屋がやってきた。

 本来であれば、野次馬の立場といってもいい連中だったが、

「自分たちがまさか、事件の渦中に放り込まれた栗のようなものだ」

 とは、夢にも思わなかっただろう。

 だが、それもすぐに崩壊した。

 しかも、自分たちから、

「この事件に重大な関係がある」

 ということを申し立てたようなものだった。

 というのは、弁当屋の一人が、息を呑みながら、被害者の顔を見た瞬間に、

「この人」

 といってしまったのだ。

 一緒に来ていた連中は、どうやら必死に隠そうとして、何とか言わなかった様子だったが、その様子を見ていたのかいなかったのか、思わず口にした男は、

「しまった」

 という気持ちなのか、

「もう後悔しても遅い」

 と思ったのか、

「この人、前にうちにいた人だ」

 と、驚きだけは隠せなかったが、その様子を見て、警察も、管理会社も、皆、その場で固まってしまったかのようになったのであった。

「うちにいた人?」

 と聞かれた一人の人に聞きただすと、

「ええ、この人は、3カ月前までうちにいたんですが、言葉がなかなか通じないということと、どこかに他に原因があったのか、辞めて行ったんです」

 というと、

「じゃあ、この人も、外人ということか?」

 というと、

「母親が日本人だということなので、ハーフということになりますね」

 ともう一人の店員がそういったのだ。

 ハーフといっても、外人は外人。特に、このあたりでは、どうしても、特に警察組織の問題ともなると、かなり、敏感になってくるということで、問題としては、デリケートだといえるだろう、

 そんなことを考えていると、

「この事件において、外人問題が絡んでくるというのは、実に厄介なことになるのではないだろうか?」

 と、密かに、迫田刑事は考えるのであった。

 その日の内容を迫田刑事と、田村刑事は、それぞれいろいろ感じるところを持ちながら、初動捜査としての聞き込みなどが終わり、署に戻ってきた。

 さすがに殺人事件ということで、捜査本部が置かれ、本部長に、門倉警部、そして、副本部長ということで、桜井警部補という体制で、捜査が行われることになった。

 迫田刑事も、桜井警部補の刑事時代から、いろいろと鍛えられたので、桜井刑事が、副本部長ということで、

「相手にとって、不足なし」

 というところであろうか。

 捜査会議の初回が行われたが、そこでは、ほとんどが、迫田刑事と、田村刑事の話が主だった。

 なかなか、複雑なビルの構造上の問題や、それを運用する側の事情などもあり、結構ややこしい内容のものになっているのであったが、話を聴いている人たちが、二人の説明で、どこまで分かったのかということは、結構難しいことであった。

「ということは、とにかく、いろいろ問題があったり、疑問点があるということが、今回の事件の特徴であり、さらに、ハーフとはいえ、被害者が外人というもの、微妙なところだね」

 と、本部長の門倉警部がそういうと、捜査員のほとんどが、最後の方の、

「被害者が外人」

 というあたりで、苦み走った顔になった。

 きっと心の中で、

「なんだよ。俺たちは、また外人のために働かなきゃいけないのか?」

 ということであった。

 というのは、実は、最近では、

「外人のための捜査」

 というのは、決して珍しいことではなかった。

 特に、凶悪犯になればなるほど、日本人のように理性があったりするわけではないので、リアルな凶悪犯が、限界を知ることなく、いくらでも、はっちゃけるという、そんな状態になっているのだった。

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