いつか辿り着く場所にて

武田修一

荒廃した世界にて

「ねえ、夜。あれからどれくらい経ったかな」

「さあ、数えてもないからわかんないや」


 どこまでも青い空は、前よりか綺麗に見えた。人間が減ったせいだろうか、それとも車という物が少なくなってしまったせいだろうか、いいや、どちらもかもしれないな。

 ぶろろろ、と勢いよくアクセルを踏む。今日は天気がいいのでよく進む。走ると同時に電気を貯めておけるこの車を拾えてよかったとほんとに思う。これがもしガソリンだけしか走ることができないものだったら、どうしようもなかった。これがなければ、きっと私たちはもっと手前で野垂れ死ぬことになっていただろう。これの持ち主には感謝しなければならない。私たちより先に骨になってしまったあの持ち主に。

 粉々になってしまったアスファルトの上の走り心地は最悪だが、まだまだ現役のこいつのおかげでなんとか進めている。

 がこん、ぶろろろ、がこん、ぶろろろ。

 音を立てて進んでいく。宛てがあるわけでは無いのだけれど、このまま止まっているのも性に合わないので。

 隣に座っている夜をちらりと横目で見る。


「なあに」


 夜が私の視線に気づくとぽつりとつぶやく。


「私たち以外に誰もいないね」

「そりゃそうよ。旭だって今まで見てきたじゃんね」

「骨ばっかりだったもんね」

「どうしてこうなったのかな」

「考えてもしゃあないんじゃない。とりあえずもっとスピード出してよ、窓開けっから」

「砂とか土とか入るよ」


 それでもいいよ、と言って助手席側の窓を開ける。久々の土の匂い、アスファルトの焦げた匂いが伝わってきた。アクセルをさっきよりも強く踏んで、木だらけの崩壊した道を進んでく。どこに終わりがあるかもわからないのに、ただただまっすぐに。

 空は開放的で、陽が降り注いでいる。


「ねえ、旭」

「なに?」

「よかったよ、旭といれてさ」


 口角を少しだけ上げて、夜が笑った。つられて私も少しだけ笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る