堕天使さんは誤解をときたい!
翡翠 珠
第1話 契約
「はぁ……」
ため息を着きながら下校中のこの青年は
高校生になって2ヶ月が経とうとしているのだが友達の1人もできていない。
無論、彼女なんて
「ただいまー」
そう言いながら玄関を開け、そのまま同じ階の自室に向かう。
ゲーム以外の用途でほぼつけたことの無いテレビと、漫画ばかりの本棚、使わない勉強机のせいで狭くなっていた部屋の中に入る。
カーテンを締め切っているので明かりはほぼ入って来ない。
「……はあ…。やめてぇぇぇぇぇえ!!高校だるすぎいい!!!」
突如大声で独り言を呟くユイ。
敷きっぱなしの布団に倒れ込み、ポケットに入っていたスマホを取り出す。
「…………根暗陰キャじゃないんだけどなあ……。(根暗陰キャである。)
勘違いしてるってみんな!
勘違いはやめようぜ……」
声が返ってくることの無いことを知っているのに続ける独り言。
――――――――そう。返ってくることのない―――――はずだった。
「そうだよね!君もそう思うよね!」
突如として聞こえた声に驚いて起き上がるユイ。
そんなユイの目に映ったのは黒く長い髪をした綺麗な女性だった。
ボサボサになっている羽のようなものと、バツ印の着いた天使の輪のようなもの、ボロボロの白いワンピース以外は至って普通の女子高校生だった。
「……は?え?誰?」
ユイが困惑したまま聞く。
それを見た女性はユイに近づいて言う。
「私はカルテット。カルテット・セレスティアル!!」
と、自信満々に自己紹介をするカルテットと名乗った女性。
それを聞いてますます困惑するユイ。
「え、え……っと、なん、何しに来たんですか?」
動揺し、敬語になりつつも質問をするユイ。
それを聞いたカルテットはニヤリと笑い、ゆっくりとこう答える。
「それはもちろん……君に助けてもらうために!」
「……。…………は?」
突然言われた言葉に思考が追いつかず、まるで宇宙猫のようになるユイ。
困惑しているユイに説明を始めるカルテット。
「えーっと……まず単刀直入に言うんだけど、私、堕天使ってやつなんだよね」
「……。まてまてまてまて。堕天使?そんなの実在してるのか?」
「まあまあ。これ見たら信じざるを得ないでしょ?」
そう言って腰当たりに生えている手入れのされていない大きな翼を見せるカルテットは、まるでファッションショーかのようにくるっと回って見せる。
そんな彼女は、「おお」と声に出してしまったユイを笑いながら話に戻る。
「で、堕天使ってやっぱ天界じゃいい風に思われてないんだよねー…」
「まあそうでしょうね」
「そんな奴を野放しにしないほかの天使たちはもちろん幽閉するんだよ」
「はあ!?幽閉!?」
「そうだよ!?こんなかわいいのに……」
沈黙。
数秒の沈黙の後にカルテットは何事もなかったかのように話す。
「と、まあそんなこんなでここにいるんだけど……」
「いや待てよ。ふつうに」
「なんなのさー。全部話したよーう」
腑抜けたしゃべり方をするカルテットにユイは厳しく言う。
「なんでここにいる!?」
「もともとは逃げ出した私が悪いんだけど、今めっちゃ追われてるんだよね。
ちなみに堕天した理由はまじで
「じゃあ言えばいいじゃん」
「はあ……これだから人類はだめなんだy「はいしばく」
「すいませんした。
で、まあ堕天使の話なんて聞く耳持つわけないじゃん。普通に考えてね。
じゃあ
「いやなんで俺……」
「だって天使とか天界とか好きそうだもん。あとよく勘違いされてそうだから」
「なんだよその判断基準。俺はやらんぞ。帰った帰った」
そう言ってスマホを開き、慣れた手つきで音楽を再生するユイ。
いつも聞いているBUMPの曲だ。同年代に話のできる人は少ない。
「……。あーあ協力してくれたら天使の権限で願い事叶えれたのになー」
その言葉を聞いて一瞬体が動くユイ。
―――――が、すぐに布団に潜り込む。
「…………。そのアーティストのライブも行ったりできるけどなー」
「協力させてください」
そういって布団から即座に飛び出すユイ。
ジェスチャーで座るようにカルテットに言う。
「じゃあ契約のために目つぶってくれる?」
「まかせろ!!!」
ライブのために先ほどとは熱量が違う返事をする。
そんなユイの
数秒程で完了したのか手が離れる。
「目開けていい?」
「うんー!」
「ん………。何か変わった?」
数回瞬きを繰り返したユイが言う。
「えっとね、契約は基本的に手にするんだけど、私はそれ禁じられてるんだよね。
だから今回は左目にさせてもらったよ。だから目に紋章が入ってる。
まあ時間経てば消えるから気にしないでいいよ!」
カルテットが言う。
ユイが持っていたスマホのカメラを起動して内カメする。
「うおお……かっけぇ……!!」
そう言ったユイの目にはカルテットの頭上にある形と同じ物が刻まれていた。
「…てかなんでそんなに契約して欲しかったんだ?」
不思議に思ったユイが言う。
「……その……人間界じゃ堕天使の権能は使えないんだよね……。契約者以外」
それを聞いたユイは1つの疑問がやっと解けた気がした。
それと同時にもう1つの疑問が浮かび上がってくる。
「え?じゃあもしかして俺天使と戦ったりすんの?」
「え?そうだけど。言ってなかったっけ?ていうかもう追手も人間界についてるはずだよ」
それを聞いたユイはカルテットの頬を引っ張る。
「へ、ひはひひはひ!!」
「……はあ。ていうか喧嘩なんかしたことないんだけど」
ため息をついてユイが言う。
「だいじょーぶだいじょーぶ!!私権能は地味に強いし!
あ、てか名前聞いてないよね。私名乗ったのに」
「……ユイ。
…仕方ないな。その代わり俺の身の回りの家事してくれない?」
意味のわからないようなことを言ってるユイだが、自分の為に戦ってくれると分かっているカルテットは大人しく相槌を打つ。
「さて。追手ってのはいつくらいに来るんだ?」
ユイが立ち上がって言う。
「えーと。脱獄した堕天使ってのは脱獄して普通は3日以内に見つかってるんだよね。」
「……え。それって……」
そう言いかけた時、カルテットが理解したかのように目を泳がせながら言った。
「かなりマズイんだよね……」
と。
「………できるだけ外に出ないようにしないと……
って今日ゲームの発売日だ。行かなければ!!」
ユイが言う。
それを聞いたカルテットは驚き、大きな声で言った。
「え!?馬鹿なの!?」
「は?誰が馬鹿だこの馬鹿。ゲーマーとして今回発売のは買わないと行けないんだよ。
てか着いてこいよお前。何かあったら困るし。」
そう言ったユイはもう既に出かける用意を済ませたようだ。
「……てかお前羽とかその頭のやつとか他の人間に見られたらまずいんじゃないの?」
「あ、これは契約者か天界の住人にしか見えないから安心してね。」
羽をパタパタと動かしながら言う。
「………俺の服に着替える?そのまま出かけるのもどうかと思うし。」
「あ、いいの?」
そう言うとユイの目の前でカルテットが脱ぎ始める。
「は!?なに!?何脱いでんの!?」
「へ?着替えるんでしょ?」
「いや俺後ろ向いてからとかにしろよ!」
顔を赤くして大きな声で言う。
「あ、ごめんごめん。」
笑いながらカルテットがそう言ったのを聞いて後ろを向くユイ。
(……この先大丈夫なんだろうか。大体戦うってなんなんだよ……)
そう思いながらもどうしようもないと分かっているユイはまたもやため息をついたのだった。
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