第3章

第93話 配信

 理事たちをダンジョンに放り込んで1週間ほど。

 俺は基本的に地上でのんびりとしていた。ほぼ引きこもりだ。

 協会の方が急に理事が消えたことでグダグダになり、新規にダンジョンに潜ることを一時的に止めているのだ。もうすぐ体制も復旧すると支部長えまちゃんがアナウンスしているため、仕方なく待っている。


 ったく、引継ぎもせずに全員でダンジョンに潜るだなんて、はた迷惑な理事たちだな。


 というわけで、暇を持て余した俺は配信を起動する。

 なんだかんだで今となっては100万を超える人数が俺のチャンネルを登録している。前回のダンジョンアタックは、機密まみれでロクに配信されていなかった。そろそろ何でもいいから見たいってやつもいる……いるのか?


 ドローンを部屋の端に追いやって、俺はスマートウォッチからホログラムを展開する。



:お、配信?

:家配信か

:きちゃ~

:謝罪会見?(ワクテカ)



 お、ちゃんとついたな。

 俺は缶ビールをカシュっと開ける。半分ほど一気に喉に流し込んでから、カメラにホログラムを見せつけた。


「よーし、お前ら。今日はな、オンラインスクラッチくじをやりながら、お前らの質問に答える回だ。同じ質問には二度と答えないのと、下らないコメントしたやつは、開示請求して家に行くから覚悟しておけよ」



:スクラッチくじ……? なんで……?

:ひえ

:こわすぎ、対人地雷仕掛けとこ……

:対人じゃ効かんやろ、対戦車使え



 25年前からそうだが、オンラインで宝くじを買えるアプリがある。このアプリではスクラッチくじも当然のように買える。


 わかるか?

 1回200~300円で、比較的当たりやすいスクラッチくじが、自分でコスコス削る必要もなく当落確認できるんだぞ。

 100枚で3万円とかまとめて買って、一気に当落確認。当たりの配当金を混ぜて次のくじを買う。これを繰り返せるのだ。


「こんなもん、公営のオンラインカジノみたいなもんだろ」


 5×5の意味不明なスロットよりわかりやすい。



:そう言われたらそうなんだけどさぁ

:健全さが違うだろ

:やめえや



「どうせ大して当たらねえだろうから、適当に回してくぞ」



:金は大丈夫なのか?



「そこは問題ない。ようやく色々と報酬が入ってきてな」


 ダンジョンから現代社会に帰還して、それから随分と長い期間、支部長えまちゃんからの借り暮らしをしてきた。

 それがようやく最近になって、諸々の活動の報酬が一気に入金されたのだ。急に振り込まれた億単位のお金。中身としてはロボの討伐報酬と、聖剣の確保が大きい。


 正直、金があるとギャンブルは途端に楽しくなくなるな。ヒリつかなくなるからなのかね。

 3万入れて3000~1万当たるような挙動を繰り返す画面を眺める。負けたら全てを失うダンジョンアタックに比べたら、全く盛り上がらねえな、もう。



:めっちゃ報道されてたけど大丈夫なのか?

:放送してない間何があった?

:カメラの外でスケベなことしてないだろうな? オオン!?



「あ~、あれな。前回殴ったせいか、メディアからの取材は全部オンライン面談の打診だったな。あんまり話せることもねえから無視してるが。ダンジョン内のことについては、機密なんだか機密じゃないんだか……元は機密だったんだが、隼人が暴露しちゃったからな」


 隼人の映像が出た後、自首のような形で牡羊の会がゲロりまくった。

 これにより、牡羊の会と理事たちの後ろ暗い面が明るみになったが、本人たちはすでにダンジョンの中。世間では悪事がバレるのを恐れ、逃亡したということになっている。


「まぁ隼人の映像に出てない範囲のことは言えねえな。こう見えておじさん社会人なんだわ」



:うそつけ

:原人がなんか言ってら

:社会……の……人?



「殺すぞ」



:ひえ

:結局あの幼女ってノーライフキングなの?

:幼女をどこにやった



 あー、まあこれは聞かれると思ってたな。

 ノーライフキングはどうなったか、みたいなのはメディアも散々気にしていることだ。世間的な注目も高い。

 協会の方ではこれについての情報公開をしていない。理事が消えたせいで、それどころじゃないのかもしれない。

 俺が言っていいのかについてだが……言うなとも指示されていないしな。


「ノーライフキングなら家にいるぞ。おーい」

『なんだ』

『ちょっと来い。配信の視聴者たちにお披露目だ』


 キッチンでジュースを飲んでいたノーライフキングが、ぺたぺたと足音を鳴らし歩いてきた。

 ダンジョンから連れ帰ったはいいものの、結局は行き場がなくて俺の家に住ませる形になっている。


 ノーライフキングが万が一に力を取り戻して暴れたときに、問題なく討伐できそうなのが、俺か隼人しかいなかったからだ。

 隼人に押し付けようとしたが、自分は関係ないと言い張って逃げやがった。


 見た目はその辺の小汚いガキだ。

 食事も必要ないし病気にもかからない。学校に行かせる必要もないから、ダンジョンから連れ帰ったときのまま放置している。勝手に俺の嗜好品を漁ったり、ネットサーフィンみたいなことをして、本人ものんびり過ごしているようだ。


「ほれ」


 カメラの前に出してやる。



:おおおおおお

:きちゃああああ

:ようじょ! ようじょ!

:ん……? なんだその服

:まさか北京原人てめえ、ネグレクトしてんじゃねえだろうなぁ!?

:服ぼろきれみたいでひどい



 ダンジョンから連れ帰ったままだからな。ボロ布を着せっぱなしにしている。


「見た目はこうだが、中身はモンスターだぞ? ゴブリンと一緒だぞ?」



:人の心とかないんか?

:ひどすぎだろ

:これはない

:俺が第2のロボになって襲撃するぞ

:陛下を呼び捨てにするな、人間

:くぉれは通報ですわね



 コメントが一気に流れた。批難轟轟である。

 こいつら、見た目が可愛らしかったらモンスターにも情持つんだもんな。これでもノーライフキングは100人以上殺してるモンスターだっていうのによ。


「服でも買い与えろって?」



:そ う だ よ

:カワイイのを買ってやるんだ

:そして配信に出すんだ

:歌って

:踊って

:おしゃべりも出来たらなお良し



「お前らそういうときだけ連携いいのなんでだよ」

『こいつらは何を言っているんだ?』


 ああ、そうか。音声だと翻訳ツールが使えるが、魔法言語の文字翻訳はまだない。コメントだと何を言っているか読めないのだ。


『なんかお前にカワイイ服を買ってやれ、だとよ』

『買ってくれるのか!?』


 ノーライフキングが表情を明るくさせ、大きな目で俺を見上げる。

 いやぁ、買いたくないなぁ……。



<優先コメント>

名無しの無能:これで買ってあげて

3000 -4.9min.

:嫌そうな顔すんな

:このゴミギャンブルに使う金で買えばか

:足りねえよ無能

:投げた奴に文句言うな



 投げ銭まで来やがった。

「お前、ロボのときにも投げてたやつじゃねえか。無理すんな」


 ノーライフキングに服か。



:というか、名前とかあるん?

:イギリスからアーサー来るらしいし、ちゃんとした方がいいぞ。向こうそういうの厳しいから

:あー、アーサー来るのか。こんなタイミングで

:エルフの里の拠点使いたいんだっけ?



「誰だよ、そいつ」

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