第67話
『ん~、配信がおかしい感じします。トウカはどーなってる?』
『あぁ、これは……嫌な感じですね』
バギー間の無線にそんな会話が入った。
どうも、自分たちの配信が見れないらしい。アカウント表示はオンラインになっており、しかも配信中の表記もあるのに、肝心の中身が開けない。
「そりゃ、協会がやる強制停止の措置だな。視覚的にも映せない機密が映りそうなときにされるもんだ」
山里が答えた。
俺たちが走っているのはまだ地下20層あたり。こんな早くから強制的に配信を止めるなんてことあるか?
『本気で対人戦覚悟した方が良いかもね』
スイが緊張のにじむ声で言う。
純粋な機密というより、牡羊の会の不法行為を誤魔化すために、配信を映さないようにしている可能性がある。
『ふふ。それならそれで、こちらにも考えがあるというものです』
トウカが不敵に笑った。人間にパイルバンカー撃つつもりか……?
山里が嫌そうな顔をしながらハンドルを回す。
「うちも切り札使わんといけないかもなあ」
「切り札なんてあんのか」
「一応な。そこそこの階層潜るパーティーなら、多かれ少なかれどこも持ってると思うぞ」
「ほーん。ロボのときに使わなかった理由はあんのか?」
「使いづらいんだ」
そんなもんか。
しっかし、妙に引っ掛かるな。メガネの性格的に、殺しを
だが、
400人いたとて、あれを相手どれば犠牲は出る。俺たちは戦力としては決して小さくない。あいつは使えるもんなら有効活用したいと思うはず。
むしろ、配信を止めたことで、俺がメガネを殺しやすくなっただけだぞ。
バギーがゾンビを
「やけにゾンビが多く感じるわ」
「スケルトンがいねぇな。
「げ、どんどん数が増えてるってことか」
「あんだけ多けりゃ倍だろうが10倍だろうが変わんねぇよ。ヒルネ風に言うなら『いっぱいが、いっぱいになりました!』だろ」
『ナガさん、馬鹿にしてませんかー?』
よくぞ気づいた。
このスケルトンの移動は、俺たちにとってはむしろ追い風かもしれない。
広範囲からスケルトンが一か所に向け集まるなら、自然とローラー作戦を仕掛けられ続けることになる。牡羊の会が潜伏する場所が潰されるってわけだ。
敵と敵が食い合うのが理想。
――だなんて思っていたんだがな。
エルフの集落に着いた俺たちは唖然とした。
忙しなく響く建築の音。樹木の間に張り巡らされた足場。ドローンに大量の資材を積んで動き回る男たち。
エルフの里を中心とした、森全体の要塞化が始まっていた。
城壁などは無い。立体的なアスレチックのようになっており、とにかくアンデッドの移動ルートを阻害するような構造になっている。
単管パイプの登り棒や、横幅の狭い階段などを利用し、有利に戦う場を作っている感じだな。
「ばっちり先着してやがるな」
何人いるんだ、これ。
間違いなく100人以上の男たちが作業している。
「ナガさーん。オフロードバイクまとめて停めてるとこありました!」
移動手段もバッチリってか。バギーよりも便利そうだな。
それにしても建築がかなり進んでいる。
「俺らの配信見た段階で行動開始してそうだな、こりゃ」
使っている資材が一般的な建築用の足場なあたり、
これまでも、協会主導で大規模な作戦を担ってきた、ということか。
刺さるような視線を浴びながら、エルフの集落に入る。
蜘蛛の巣のよう張り巡らされたワイヤーロープと単管パイプが
アホ面で工事の様子を見上げているキーティアに、トウカが話しかけた。
『キーティアさん。お久しぶりです』
キーティアはトウカと山里を見て表情を輝かせたあと、俺を見てびくりと肩を震わせた。
『ひ、久しぶり、なのじゃろうか?』
時間の感覚が違うようだ。さもありなん。
『どうでしょう。この状況は一体……?』
『なんじゃ。そなたらが送ってくれた支援ではないのかの?』
エルフは不思議そうにする。
そうだよな。こいつらにとっちゃ、人間は人間。俺たちの内輪揉めなんて知る由もないだろう。
『そうではあるのですが、所属が違うと言いますか……別の氏族が出しゃばって来た、と表現すれば伝わるでしょうか?」
『おお、なるほど。だが人間の支援には助かっておるぞ。還らぬ城に集まるアンデッドも倒してくれるしのう!』
キーティアは嬉しそうに言う。まるで危機感のない様子に溜め息が出た。
『おいこら』
『ぴぃ!? な、なんじゃ!』
『喜んでるとこ悪いが、これ、お前らの為にはやってねえぞ』
『はぇ?』
俺は周囲の建築物を指さした。
『高所とるだけなら、エルフは最初から出来るだろうが。本当に必要なのは、地面に植わってる生命の木を守るための、地上の防御設備じゃねえのか? 全然ねえぞ』
『あ』
そう。現状作られているのは「はぐれ」のアンデッドを倒すための設備でしかない。エルフの集落を守るという意識はあまり感じられないものだ。
さらに言うなら、こんな小手先の防衛設備で帰らぬ城を止められるはずもない。巨大な質量で、森ごと潰されるのがオチだろう。
『い、一体どうなっておるのじゃ!?』
『知らねえよ。俺らが知りてえわ。見たこと、話したこと、聞いたこと、知ってること、全部洗いざらい吐けコラ』
俺はキーティアを正座させた。
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