第19話
地下24層、地下25層での戦闘は非常に安定したものだった。
スイとヒルネの遠距離攻撃攻撃、俺とトウカが前衛を引き受け、スイとヒルネがカバーする。相手に遠距離攻撃をするモンスターがいれば、ヒルネが遊撃にあたる。
「退屈になるくらい問題ねぇな」
あくびをし、口元を手でこする。
そろそろ
「そろそろ、そうも言ってられなくなるけどね」
スイが細剣で指した先には、謎物質で出来た黒い建物。ダンジョンの階層を
「なんか変じゃねえか?」
普段よく目にするものは2種類。浅い階層ならば、普通に建物の階段のように見えるが、色合いだけ謎物質になっているもの。深い階層ならば、地上にあるのと同様に、豆腐みたいに真四角な建物にぽっかりと入り口が空いているもの。
ところが、今目の前にあるのはねじくれた石柱に囲まれ、地面に直接下り階段がぽっかりと口を
「こういう
「ほー、ボスね」
「めっちゃ強いから、普段はこういう階段避けてるんだけど……今回の私たちの探索は、ボス階段の情報収集の依頼を受けてるんですよねー」
なるほど、そういう依頼もあるのか。
俺が深層に潜ったときはこんな階段は使わなかった。広いダンジョンには無数に階段がある。そのうちの幾つかが、こんな感じのボス階段になっているのだろう。
「階段でボスが待ち構えてんのか?」
「そんなシュールな感じじゃないよ。上からガソリン流せば解決するじゃない。階段の先が扉になってて、ボスがいる広い部屋に繋がっているの。ここで言うなら25.5階層ってところかな」
「なるほど、ゲームみたいだな」
反応がイマイチなのは時代の違いなのか、この子たちがそういうゲームをしないだけか。おじさん定期的に寂しい思いするんだが?
「関東ダンジョン25階層、環境は屋外アンデッド。この条件でのボス戦は私たちが初になります。気を引き締めていきましょう」
流石に深層のドラゴンより強いってことは無さそうだが、未経験のものは正しく恐れた方が良さそうだな。
初見殺しじみた一発芸を持っているモンスターも珍しくない。ボスとくれば、何がっても不思議じゃないだろう。慎重にいかないとな。
こういうときだけは、盾なんかが欲しくなる。木製でいいから、コボルトのでも奪ってくれば良かった。
――なんて思っていると、トウカがドローンに吊るしたコンテナからタワーシールドを取り出した。焼き菓子の八ツ橋みたいな形をした、長方形のでっかい盾だ。ずるい。
なんとスイまで小ぶりな盾を取り出す。こちらは小さめのヒーターシールドだ。将棋の駒をひっくり返したような形。某姫様の伝説のゲームで、緑衣の勇者が持っているような盾だな。
盾無し組は、俺とヒルネだけのようだ。親近感を込めてじっと見つめると、「な、なんですかぁ」と涙目になって後ずさった。なんでや。
ボスがどんなものか不明な以上は、いつもみたいにゴリゴリのインファイトはするべきじゃない。腰のベルトに手斧を差し込み、手には槍を持つことにした。
槍は良いぞ。人類がマンモスを倒せたのは、槍を発明していたからだ。
原初の人類が、絶対に素手では倒せない強敵を打倒した、最古のジャイアントキリングの立役者なのだ。
ボス部屋の扉は、軽自動車くらいなら余裕で通れそうな大きさの、両開きのものだった。階段と同じ謎素材で出来ており、俺たちが近づくと自動的に開いた。
異様な空間だな。直径50メートルくらいの半球状の部屋。壁に床、その全てが
「ボス、いないな」
「中央辺りまで行くと出てくるんだって」
「誰かの配信で見たのか?」
「うん」
言葉短めにスイとやり取りする。
ちらりとドローンを振り返れば、コメントが読めないくらいに遠ざかっている。どうやら強敵との戦いに合わせて、被弾しないよう離れて撮影するようだ。そんな判断が出来るくらいのAIを積んでいるとしたら、凄いことだな。
「先に
トウカがメイスを掲げた。
『ティガ リ アイ テティー マロシ リ アウ テ イア マイ トゥ』
橙色の光が俺たちの胸元に飛び込んできて、小さな光の玉を形作った。じわりと染み込み、溶け込んでいく。
何が、という訳じゃないが、なんとなく力が湧いてくるような感覚。拳を強く握りしめたときに、「なんか今日力入るな」と思うような、そんな感覚が全身に広がる。
「体を少しだけ頑健にし、高揚、鎮痛、出血の抑制などの効果もあります。力が強くなる人もいるみたいです。気休め程度ですが」
「十分すげえわ。大人になるとな、体調が万全だな~って感じる日が少しずつ減るんだよ。これ、ちゃんと老化したやつらにかけてやれば、泣いて喜ぶぞ」
「ふふ、そうですか」
冗談だと思ったのか、トウカは笑っている。
俺はたまたま若さを残した状態で老化が止まっているが、冒険者のときにいたオッサン連中なんかは、毎日肩が痛いだの疲れが取れないだの目が
力が
震度4くらいか? 足を踏ん張って耐える。
俺たちの目の前に、地面と同じ材質の箱がせり上がってきた。サイズは一辺4メートルの立方体ってところか。
ズン。
重たい音。
出所は明らか。箱の表面に大きな亀裂が入っている。パラパラと零れ落ちる、砕けた石材。
「こりゃまた、でっけえプレゼントだな」
軽口を叩いたその瞬間、石材が爆ぜるのが見えた。
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