ドッヂボール
青
第1話 ドッヂボール
振り返ると寒気がするような恥ずかしい行動を取ったことはないだろうか。私にはある。黒歴史を書くコンテストなんてものがなければこの文章を書くことはなかっただろう。私が黒歴史を犯したのは小学生の時だ。もう何年生の時か覚えていないが、私のいた学校では進級する前に学年の思い出作りとして何かしらのイベントをやることになっていた。私の学年ではドッヂボール大会が行われることになった。その学校では休み時間の校庭にドッヂボールをやっていない生徒はいないほど人気の遊びであった。私も例に漏れず休み時間になるとドッヂボールに参加していたわけだが、控えめに言っても運動が得意ではない私はその才を存分に発揮していたのであった。それはもう私より小柄な女の子に狙われ、ボコボコに当てられて泣いていたくらいのものであった。この時点で文章を書くのがだいぶきつくなってきたがもう少しお付き合い願いたい。
クラスイベントの前日、4時間目の道徳の時間は当日の作戦会議の時間に充てられた。道徳心を学ぶ時間があっさりと一時間消えたことは置いといて、思い出作りという目的を疑うくらいの気合の入り方である。クラスの中でも特に運動のできる生徒を筆頭に作戦が決まっていく。作戦と言ってもボールを持ったら投げるのが得意な人に回すといった簡単なものである。そして話は外野に誰を配置するかという話し合いに進んでいく。
ドッヂボールの外野は勝敗を大きく左右する重要なポジションだ。球速のある人に多く投げさせることができれば勝率はぐんと上がるだろう。チームの外野は全部で4人いた。作戦会議をまとめている生徒の指名によって外野の枠は埋められていくが1枠だけ空いていることに少年(私)は気づいていた。運動が得意ではない私は中で躍動することは不可能だと幼きながらに分かっていたのでノーリスクで働かない外野という天国みたいなポジションに照準を合わせた。
黒板の前に立つ生徒の一人が言う。
「ここの外野、誰かやりたいひと?」
「はい」
私以外にも声が聞こえたので見渡してみると他二人が手を挙げていた。女子はあまり会議に積極的ではなかったので発言や挙手は男子が中心となって行われた。手を挙げていた二人も男子だった。彼らの目を見ればすぐに分かった。私と同種であるということが。同じ考えをもってこのポジションを狙いに来ているのだと確信した。
クラスの主軸はほとんど決まっていたので誰も余りの外野を決めるじゃんけんなんて気にしていなかった。でも私たちは違う。このじゃんけんの結果がもたらす大きな意味を私たちはよく理解していた。一世一代の大勝負である。
私は二人をパーでねじ伏せて見事安息の地に辿り着いたわけである。こうしてポジションは決定し、当日を迎えた。
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