第11話『赤い紙 青い紙』【怖さ★☆☆】

「さて、久しぶりに怪談小屋の営業を始めるぞ~」

 俺のやる気のない声にも満員御礼の場内から歓声が上がる。


「よっ!待ってました!!」

「怪談はワシの生き甲斐じゃ~」

「楽しみ――!!」


「こらこら、これから怖がらせるのに、あんまり、はしゃがないでおくれよ……」

 俺は騒ぐ場内の隅でフードを被って体操座りしているフロラディーテをチラッと見る。


 ――!?コソコソ……。


 フロラディーテは俺の視線に気づいたか、フードを深く被り直す。


(まったく!あれだけオヤジーノ副団長に止められてたのに……困った団長だな)


 俺はいつものように指をパチン!と鳴らし場内を暗くして話し始めた。


「お前達、こんな経験はないか?トイレで用を足した時、紙がないことに気づいたことを――」


 【赤い紙 青い紙】


 夕方の学校で、ある少年がトイレで用を済ませ、拭こうとすると紙が無かった。するとどこからともなくこんな声が聞こえてきた――。


『赤い紙がほしいか? 青い紙がほしいか?』

 

「え!?じゃあ……赤い紙!!」


 少年は「赤い紙」と答えた。


 ブシャァァ――!!


 その瞬間、身体中から血が噴き出し、少年は死んでしまった!!


「ひぃ!!」

 場内の隅でフロラディーテがビクッ!!と体を震わせ、フードからキレイな金色の髪がこぼれ、慌ててフードを被り直す。


(……なにやってるんだ?)

 俺は構わず、話の続きを話す。


 この話を聞いた別の生徒は、怖がりながらも我慢できずにトイレに行った。するとやはり「赤い紙が欲しいか? 青い紙が欲しいか?」という声が聞こえて来た。


『赤い紙がほしいか?青い紙がほしいか?』


「あ、青い紙!!」


 少年は血が噴き出した話を思い出し、「青い紙」と答えた!!


 ジュルジュルジュルルルゥゥ――!!


 その瞬間、少年は身体中の血液を全て抜き取られ、真っ青になって死んでしまったとさ!!


「ひゃぁ!!!!」

 場内から久々の悲鳴が聞こえる。


「はい、今日の怪談はこれでおしまい~。さぁ~帰った帰った~」

 俺はサッサと客を帰す。


「僕ね!紙がなかったらトイレ我慢できるよ!」

「すごいね~偉いね~さぁ~出口はこっちだよ~」

 俺はいつものように子供達を適当にあしらいながら出口へと誘う。


 全員、帰ったかと思ったら、フードを被ったフロラディーテがまだ部屋の隅で縮こまっていた。


「どうした?漏らしたか?」

 俺は彼女の前に立ち、からかう。


「まだ漏らしてないわ――!!」

 フードを捲りながら涙目の顔を見せる。


「お、おう……。ん?まだ?」

 俺は急に大声を出されてびっくりする。


「マスキ殿の話を聞いていたらトイレに行きたくなって我慢していたのだ!トイレを借りるぞ!」

 フロラディーテはスッと立ち上がり、顔を真っ赤にしてトイレへ向かう。


「あ――今、紙を切らせてて――」


 バタン!!


 俺の声を聞く間もなく、彼女はトイレに入っていった。


「――――!!?」


 ガタガタ……ガタガタ。


 トイレの中で、フロラディーテが焦っているのがわかる。


 俺はダメだとわかりながらも、トイレの前でソッと低い声を出した――。


『赤い紙がほしいか?青い紙がほしいか?』


「ぎゃぁぁぁぁ――!!」


 トイレの中から、けたたましい叫び声が聞こえた。

 俺はトイレの前に紙を置いて、立ち去った。


(後で謝ろう……)


 【ギオン騎士団総本部】


「まったく、緊急事態だというのに団長はまたマスキの怪談小屋か?」

 オヤジーノ副団長は「やれやれ」といった表情でテーブルの上に置いてある紙に目をやった。


 『ギオン騎士団とアシヤドウマン魔術師団との交流戦開催について』


「しかし、面倒なことになったのぉ……」

 言葉とは裏腹にオヤジーノ副団長は雷神の斧と言われる自慢の武器『ラブリュス』を力強く握りしめた……。


 <つづく!>

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