第9話『やっぱり、見えてた』【怖さ★★☆】

 ひょんなことからギオン騎士団怨霊対策部隊長に就任した俺は、団長フロラディーテに連れられ王への謁見を余儀なくされた。


「怪談師マスキよ。此度の旧アルバート邸の怪奇現象の解決、見事であった」

 跪く俺とフロラディーテに向けて、王が威厳のある声で話した。


「勿体なきお言葉!」

 フロラディーテがすぐさま答える。


 完全に場違いな俺は跪いたまま微動だにできない! 


「はっはっは、マスキよ、そう緊張するでない」


「そうだ!マスキ殿!王に得意の怪談話を披露してはどうだろう?」

 フロラディーテがとんでもない提案をする。


「そのような戯言を!」

 ほら!王の側近の重厚な鎧を着た女騎士がすごい睨んでくる!


「よいよい、面白そうだ。是非、噂の怪談話とやらを世に聞かせてくれぬか?」

 まさかの王は自慢の髭をさすりながら許可した。

 

「え――!?」

 王の言葉に思わず顔を上げる。


「私も聞きたいぞ!」

 フロラディーテが目を輝かせる。


 王の前で怪談話?聞いたことないよ!


 だが、やるしかないか……。


「で、では……恐れ多くも、昔のとある王国のお話を……」

 俺は観念して話し始めた――。


 【やっぱり、見えてた】

 とある王国の王は気に入らない者をすぐに処刑することで有名だった。


 この日もお茶をこぼしたメイド、口に合わない食事を出した料理長などが公開処刑された。


「王様!お許しください!お茶を溢したのは謝ります!昨日から体調が優れず……申し訳ございません!!」


「王!王がオトギリ草が嫌いだとは知らず……申し訳ございません!!」


「ええ~い!言い訳は聞かぬ!!首をはねぇ!!」


 ザッ!!ザッ!!


『おおお……』

 群衆は、はねられた首を見てどよめいた。


 そんな傍若無人な態度を続けた王はある日、不可解なことに気づく。


 お茶を持ってきたメイドの首がないのだ。


「ひっ!」


「どうなさいました?王様」

 メイドは王様の方へ首を回すが、首から上がない。 

「ごほん……んん」

 王様は平静を装った。


 次に運ばれてきた料理に王様は激怒する。


「誰だ!これを作ったやつは!ワシの嫌いなオトギリ草が入っておるぞ!連れてまいれ!!」


 首のないメイドが連れてきたのは首のない料理長であった。


「ひぃ!」

「王様、大変申し訳ございませんでした。すぐに作り直します」

 驚く王様の前で跪いた首のない料理長は料理を持って部屋を出た。


「……気のせい……なのか?」


 それからというもの、すれ違う執事、大臣、近衛兵まで全員、首がないことに気づく。全て王様が首をはねた人物だ。


「どうなっておる!」

 王様は城中を走り回るが、会う者、会う者、全員、首がなかった……。


「ワシは……ワシは……」

 王様はいつの間にか部下を全員処刑してしまったようだ。


 廊下で立ち尽くす王様の前から、メイドが歩いてきた。


「あのメイド……顔がある!」


 メイドには見覚えのある顔がついていた。


 トコトコトコトコトコトコトコ……。


 メイドが近づく。


「お、おい!お前!これはいったい、どういう――」


 しかし、メイドは王様の前で止まらず、そのまますれ違って歩き去る。


「お、おい!」

 王様が振り返ると、そこには首のないメイドが立ち止まっていた。


「え…………」


 王様が恐る恐る下を向くと、足元に血だらけのメイドの首が転がっていて、こちらを向いて、こう言った――。

 

  ――――ヤッパリ、ミエテタ。


「うおぉ!」

 王が王座から転げ落ちる。


「きゃぁ――!!!!!!!!!!」

 フロラディーテは人目を気にせず俺に抱きつく。


「こ、こら!王の前だぞ!!」

 俺は彼女を引き剥がす。


「す、すまぬ!!」

 痴態を晒し、顔を赤らめながら、王へ跪く。


「はっはっは!歴代の剣聖の中で最強と言われるフロラディーテも怖い話は苦手か!しかし、おもしろい。世も民の声は聞くようにせぬとな。大変貴重な時間を過ごせた。感謝する。怨霊対策部隊長の件、よろしく頼むぞ」

 ご満悦の王様のとなりで俺を睨み付ける人物がいた。


 …………チッ!


 俺は気になり、帰り際にフロラディーテに聞いてみることにした。


「なぁ、フローラ。王様の隣で俺を睨み付けてたのって、もしかして……」


「ああ!そうだ!魔術師団長で大臣のアシヤドウマンだ」


「やっぱり……」

 転生前の日本人の名前のようだったので名前は覚えていた。


 面倒な事が起きなければいいが……。

 

 俺は「ふぅ」という小さな溜め息をついて城を出た。

 <つづく!>

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