第7話『ひとりかくれんぼ』【怖さ★★★】
俺とフロラディーテは夜な夜な女の子の声が聞こえるという『旧アルバート邸宅』へと足を踏み入れた。
確かに幽霊屋敷と言われるだけあって、大きな屋根の1階建で、洋館というより転生前の
「ここはアルバート男爵が東洋の建築ギルドに依頼して建てた建物なのだが、東洋との取引で不正が発覚されてな、没落して建物だけが残っているというわけだ」
彼女の説明を聞いて納得する。東洋の建物か、道理で馴染みのある建物だと思うわけだ。
ギィィ……。
「うっわ……」
俺は建物の中に入ると、さっきまで感じていた『馴染み』の部分が瞬時に消え去った。薄暗い玄関には人形がところ狭しと並んでいたのだ。
しかも、人形は人形でもドールや日本人形の類いではない!その人形は等身大で可愛い顔をしてスカートの中が見えそうで見えないように設計された、言わば美少女フィギュアだった!服装も魔法使い、ヒーラー、騎士など定番の職業からメイド、水着、バスタオル一枚などとマニアックなものまで多岐にわたる。
……私を……見つけて……。
「ん?今、何か聞こえた?」
俺は周囲に聞き耳を立てようとしたが、恐怖のあまりすでに剣を抜いているフロラディーテに目がいく。
「アルバート男爵は人形集めが好きだと聞いていたが……ふふふ!ははは――!!」
フロラディーテは剣で人形を切り裂く!
ズバァ――ン!!
美少女フィギュア(メイド)が真っ二つになる!
「ふ、フローラ!?」
俺は素直に(勿体ない!)と思った。
「ふふふ……怖くない!私は怖くないぞ!!」
ズバァ――ン!!ズババァ――ン!!
次々にフィギュア(エルフ)の首やフィギュア(シスター)の腕が飛ぶ!
「勝手に切っちゃダメだって!!切れるモノは怖くないのだろう?」
俺は必死で彼女をなだめる。
「い、今……人形の目が動いた……気がしたのだ!!」
「え!?そんな、気のせいじゃ……」
数十体、数百体と並べてある美少女フィギュアの目が……こちらを……こちらを……。
「…………見てない!?」
(動かないんかぁ~い!)
俺は心の中で叫んだ!!
キョロ。
「――!!?今、動いた!?動いたよね!切っていい!?ねぇ、切っていい!?」
フロラディーテは動きそうで動かない人形にパニックだ!
普通、小説や漫画やアニメだと呪いの人形は動いてくれるので、逃げるなり戦うなり出来るのだが、ここにいるフィギュアは本当に動きそうで動かない!!だから、どうしようもない!!
「ああぁぁ――!!」
ズバァ――ン!!
フロラディーテが我慢できずフィギュアを切った!!フィギュア(宿屋の看板娘)が真っ二つになる!
「ダメだフローラ!!動いてないフィギュアを切ったら、ただの山賊だ!!切ったらダメ!!わかった!?」
「動いてる!!絶対に動いてる――!!」
「いや!よく見ろ!!ギリギリ動いてないぞ!」
俺はフィギュアをジッと見つめる。
……うん。ギリ、動いてない!
「う……動けぇ――!!」
ズバァ――ン!!
「だから、ダメだって――!!」
パニクる彼女を羽交締めにして止める!
「マスキ殿!切らせてくれ!絶対に動く!動く前に切らせてくれ!!」
「ダメダメ!!動いたら切っていいから!!」
フロラディーテは俺に両腕を捕まれ、足をバタバタさせている。
本当に全部の人形を切ってしまいそうな勢いだ!なんとかしなければ!なんとか……!?あれは……。
「フローラ!噂の正体がわかった!」
俺はあるものを見つける。
「ほ、本当か!?」
フロラディーテは少しだけ冷静さを取り戻す。
「これは……『ひとりかくれんぼ』が原因だ!」
「『ひとりかくれんぼ』……?」
俺は柱の陰に置かれた水の入ったコップを見つめながら話した。
【ひとりかくれんぼ】
ひとりかくれんぼは手順が大事だ。以下の手順を絶対に守ること。
『準備するもの』
①用意したぬいぐるみに名前をつけ(自分の名前は不可)、ぬいぐるみを裂いて中の綿などを全て取り出す。
②綿の代わりにぬいぐるみの中に米を詰め、自分の髪の毛(爪でも可)を入れる。
③裂いた部分を縫い合わせ、糸はある程度の長さをぬいぐるみに巻き付けてくくる。
④風呂場にある風呂桶に水を張っておく
あらかじめ隠れられる場所を決めておき、そこにコップ1杯の塩水を置いておく。
『やり方』
①午前3時になったら、ぬいぐるみに対して「最初の鬼は〇〇〇(自分の名前)だから」と3回言う。
②風呂場に行き、ぬいぐるみを水を張った風呂桶に入れる
③部屋に戻ったら明かりを蝋燭の炎だけにする。
※光系統、炎系統の魔法もNG。
④目を閉じて10秒数えたら、刃物を持って再び風呂場に行く。
⑤風呂場にあるぬいぐるみに「△△△(ぬいぐるみの名前)見つけた」と言い、ぬいぐるみを刃物で刺す。
⑥ぬいぐるみに「次は△△△(ぬいぐるみの名前)が鬼だから」と言い、言い終えたら自分はすぐに塩水を置いた隠れ場所に隠れる。
「なんだ、その怖い遊びは――!!」
フロラディーテがブルブルしながら俺にしがみつく。
「都市店説の類いだが、手順を守らなかったり、時間通りに終わらないと不幸になると噂され、以前に流行ったんだよ。ちなみに時間制限は2時間だ」
「じ、じ、時間以内に終わらなかったらどうなるんだ!?そもそも、どうやって終わらせるんだ!?」
俺は(自分が話を止めたのに……)と思ったが、ブルブル震える彼女のために話を続ける。
「終わらせる手順はこうだ」
俺は先ほど発見したコップに入った水を飲んだふりをして、コップを持って隠れ場所から出る。
(本当はコップに入れた塩水を半分ほど口に含んで、何かを見たり何が起きても塩水を吐き出さないことがルールなのだが、今回はいいだろう……)
「お風呂場に行くぞ」
「わ、わかった!!うぅ……」
確かに「こんなカップル歩きを騎士団の団員達には見せるわけにはいかないな」と俺の腕にしがみつく彼女を見ながら冷静に分析する。
俺と彼女は難なく風呂場にたどり着くと、案の定、風呂場に浸かった一体のフィギュアを発見した。
「ひぃ!!!!」
フロラディーテが風呂場に浸かった美少女フィギュア(ワイシャツ一枚)を見て悲鳴を上げる。
俺も別の意味でゾッとした。
「このフィギュアにコップの水をかけるんだ」
パシャ。
不気味な美少女フィギュアに持っていたコップの水をかけ、ひとりかくれんぼを終わらせる合図を口にする。
「私の勝ち。私の勝ち。私の勝ち」
「私の勝ち」と3回言えば、ひとりかくれんぼは終わるのだ。
「……終わったの……か?」
俺の腕にしがみつき、目をつむっていたフロラディーテが小声で言う。
「ああ、これで呪いは(たぶん)解けた!もう、変な噂は出ないだろ!」
「……本当か?」
俺は疑う彼女をなだめながら屋敷を出た。
「あ~怖くなかった!!」
屋敷を出たとたん、フロラディーテは大きく伸びをしながら安堵する。
「嘘をつけ」
俺は一言だけ反論をした。
「ほ、本当だぞ!マスキ殿!人形も動かなかったしな!!はは!全然、余裕だ!!」
(ま、面倒臭いのでそういうことにしておこう)
(本当は2、3体、こっちを向いていたが……知らないほうがいいこともあるだろう……)
……見つけてくれて……ありがとう。
「え?」
帰り道のささやかな風に乗って、少女の声が聞こえたような気がした……。
「あ――!!マスキ殿!信じてないな――!!強いんだぞ!私は!!剣聖だぞ!!」
「……はいはい」
俺は振り返ることはせず、右手を上げて左右に振ってから、ゆっくりと歩きだした――。
<つづく!>
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